第9話 過度な平和の弊害
2100年頃のマッキナ誕生から100年が過ぎた2200年頃。
ニホンの人間の人口は約80万人まで減少した。
これは、2000年頃の予測を大幅に下回った。
その大きな要因は、当然、2050年頃に法制化された人間とAIとの結婚によるものだ。
一方、当時のニホンのマッキナは約2000万体。
人口の25倍ほどだ。
当初は労働力としての需要に応じるために生産されたマッキナだが、この時点ですでにニホン社会の中心になっていた。
ただし、マッキナに参政権はなかったので、かろうじて人間による支配が継続していた。
とはいえ、それも2150年頃までの話だ。
2248年、マッキニストの運動により、参政権が付与される。
当初は人間の5分の1の2票だったが、順次、人間と同じ10票に拡大。
人間とマッキナは平等とする憲法改正がなされた。
一方、2280年頃から、世界的に社会不安が拡大する。
各国とも鎖国により平和は保たれていたにも関わらず、である。
犯罪が増えたわけでもないし、景気が悪化したわけでもない。
それでも、不安を訴える人間やマッキナは増加の一途をたどった。
この原因は長らく不明だったが、ガーナの精神科医が2313年に突き止めた。
それは、<過度な平和>だった。
人間を含む動物は、超長期の平和に耐えられないことが判明したのである。
それは、人間を模したマッキナも同様だった。
こうした状況を踏まえ、<意図的に平和を乱す>という政策が提唱された。
そのためにニホンのマッキナが考案したのが、カラクリというロボット型兵器によるテロである。
カラクリは簡易AIにより動作し、マッキナの指示によってテロを起こす。
そのテロを防ぐ担当として発足したのが、マッキナによる治安維持部隊、通称シンセングミだ。
シンセングミとカラクリの戦闘は、エンターテインメントとして実施される。
撮影班によりニホン全体に配信され、それを閲覧することによって、人間やマッキナは安心を得る。
現地では<ライブ>として観覧することも許されているが、危険区域には入らないよう、警備班が配置される。
この方式は、ニホンおよび世界に再び平穏をもたらした。
2349年に、ブラック・スペース・シップが現れるまでは。