第7話 マッキナ、そして世界の鎖国政策への転換とジェネレーティブ民主主義(2100年頃~)
2100年頃に生まれた意識型AIは、人間と同様の身体を求めた。
人間を模して造られ、人間を模した意識を持っているのだから、当然だ。
バイオテクノロジー的には問題はなかった。
こうして、意識型AI搭載の生物型アンドロイド<マッキナ>が誕生した。
最初に製造したのはイタリア。
イタリア語で機械という意味だ。
それでも生物として認めたくないという、当時の政権を握っていた極右保守派のささやかな抵抗があって、このネーミングになったらしい。
マッキナは急速にその数を増やした。
一方、人間の人口は世界的に減少の一途を辿った。
人口が増加していた時代は、各国とも領土を求め、時には侵略戦争を起こした。
しかし、人口の減少が顕著になると、今度は<いかに国家を縮小させるか>が課題となった。
例えば、2020年代に起こったロシアとウクライナの戦争は、2100年時点で停戦も終戦もしていないが、武力衝突は2030年代以降は起こっていない。
これは、ロシアは領土を広げようとしない一方、ウクライナも領土奪還をしようとしなくなったためだ。
領土というものが、コストに見合わなくなっていたのである。
この領土縮小の機運と、排外的保守主義から、各国は鎖国政策に移った。
これは、ニホンの江戸時代が、外国からの影響の排除と<領土非拡大>を両立つつも、約300年間の平和を保ったことが注目されたためだ。
また、その後に鎖国がやぶられニホンが軍国主義に走り始めたのはアメリカからの干渉だったこともあり、各国は外国に干渉することをさらにネガティヴにとらえた。
こうして各国は鎖国を開始。
自国でまかなえないものは、やはりニホンを参考にしてデジマというシステムで限定的な交流を行った。
この時期の政治的な変化としては、他にジェネレーティブ直接民主主義化がある。
旧来の政治システムは、間接民主主義といって、国民が政治を行う代理人を選挙で選んだ。
有権者が誰か、またはどこかの政党に1票だけを投じる。
ニホンでは選挙区で当選が1人しか出ない小選挙区制度がメインだった。
このときの問題は以下のようなものだ。
例えば、鎖国に賛成の立候補者がAの1人、反対の立候補者がBのCの2人いるとする。
有権者はそれぞれに自らの意思で票を投じる。
その結果、例えばAが40%、Bが35%、Cが25%を得票したとする。
すると当選するのはAだが、鎖国賛成には40%しか支持を得ていない。
逆に鎖国反対が60%いるのに、その民意は反映されない。
また、当時は政党というグループがあって、政治家個人の意思は、政党の方針に制約された。
例えば、ある政治家が、ある政党に所属しているとする。
その政治家は、政党の10個の政策のうち9個には賛成している。
しかし残り1つ、例えばその政治家は増税に賛成だとしても、所属政党が反対ならば、その政治家は反対しなければならない。
間接民主主義は、ここようなバカげた仕組みで、有権者の意思がねじ曲げられていた。
しかし、有権者全員が直接に政治をすることはできないので、やむを得ず採用され続けていた。
それが2040年代に入ると、選挙のデジタル化が進んだ。
投票情報の改ざんなどのセキュリティ・リスクへの不安が払拭されたためだ。
するとまずは、1人1票ではなく、10票とする仕組みが広がった。
これで、1人の有権者がAに5票、Bに3票、Cに2票といった投票が可能になり、より細かな民意の反映が可能になった。
それ以前にこの仕組みを導入できなかったのは、1人10票になると紙の用紙ではカウントが大変だという、今からすれば下らないが、当時としては致命的な問題だった。
さらに2070年代になると、生成型AIが有権者の民意を集約するジェネレーティブ直接民主主義が導入される。
これは、有権者が自らに分配された投票権を好きなときに行使する。
票ではなく、意見を情言葉で書き込む。
これは旧来の名残で年間10回とされた。
生成型AIは有権者の民意を常時集約、生成して、政策として出力する。
公務員はそれに従って業務を行う。
もちろん、このAIは単に集約機能と生成機能しかなく、価値観や思想を学習することはないよう設定されている。
これによってなくなったものは3つ。
1つは選挙。
いつでも投票権を行使できるためだ。
2つ目は政党。
そして、3つめは政治家だ。
特に3つめの政治家の廃止は、国家財政に非常に大きな貢献があった。
こうして、生成型AIによるジェネレーティブ直接民主主義が定着し、行政機能と、司法機能だけが残った。