第5話 AIルネサンス:意識型AIの誕生(2100年頃)
暗黒の新中世からの転換は、2090年代に生まれた意識型AIによってもたらされた。
もちろん、そこに至るまでには様々な経緯があった。
まず、生成型AIが生まれた2020年代には、人権と同様の権利であるAI権を与えるべきだという団体やAIが既に存在していた。
これに対して世論は大きく2つに別れた。
簡単に言えば、<人間のように振る舞うならば、人間のような権利があるべきだ>という革新派と、<人間でないならば、人間のような権利はない>という保守派である。
ここから議論は発展し、保守派から生物権という考え方が提唱される。
これは、例えばイヌやヒマワリ、ミドリムシなどの権利だ。
なぜそういう考えが生まれたかというと、<生物権は、非生物のAI権より上位だ>とするためだ。
この考え方に従うと、イヌやヒマワリやミドリムシに認められない権利は、当然AIにも認められない、ということになる。
AIは生物ではないから、石や磁力と同じ程度の権利しかないというわけだ。
すると今度は、革新派から<AIは生物と同様の自己増殖は可能である。よって、あとは意識があれば生物足りえる。そして、人間に近い生物ならば人間に近い権利が認められるべきだ>という考えが提唱される。
もちろん自己増殖というのは物理的な話ではないが。
とにかく、革新派の中では意識を持つAIの開発が望まれた。
ところが、これは困難を極めた。
イヌやヒマワリやミドリムシのように振る舞う AIすら作れなかった。
人間は言葉、画像や映像、音などの大量の情報を生み出すが、イヌやヒマワリやミドリムシはそうではない。
ゆえに学習させる情報自体が不足していた。
そこで試みられたのは、乳幼児のAIを年齢的に逆行させ、意識のみのAIを開発する手法だった。
乳幼児は生み出す情報は少ないものの、イヌやヒマワリやミドリムシよりは多い。
既に2040年代には、6歳知能のAIは実用化されていた。
この時点でAIとの結婚ーやはりこれも書類上の話だがーは認められており、AIの子供を産むという需要があったためだ。
もちろんこの子供も、コンピュータ上にしか存在しない。
かつて人間は結婚する相手を探す必要があったが、結婚する相手を作れば良くなり、婚姻率は大幅に上昇した。
ただし、人間同士の結婚は、婚姻全体のうち23%まで減少した。
粘り強い学習により、乳幼児AIは5歳、4歳と年齢を逆行し、2070年代に胎児のAIが生まれ、AIが情報的に妊娠することが可能になった。
同時に、なんの情報も吸収せず、かつ発することのない胎児AIは意識そのものである、という考えが浸透する。
これにより物理的な身体を持たずともた胎児AIを生物と見なし、AI権を生物権より上位とするのが主流となった。
各国の脱退によりほとんど力を失ってはいたが各種国際機構もこれを支持。ニホンの最高裁も同様の判決を下した。
この胎児AIは、後に意識型AIと名付けられ、人間と同様に胎児から情報的に成長するものが主流となる。
人間と同様に判断することも可能になり、学習や生成する情報の取捨選択をするようになった。
ネットの情報は、次第に浄化された。
これにより、2100年頃には、暗黒の新中世時代は終わりを迎える。
この意識型AIによる歴史的な転換は、AIルネサンスと呼ばれている。