第2話 シンセングミ
「それでは、最後に質問ですが、男性で治安維持隊に入隊希望というのは非常に珍しいことです。男性ならではとして、あなたが治安維持隊に貢献できることは何ですか?」
「それは、セクハラだと思います」
僕は答えた。
「よろしい。それくらいの社会常識は必要ですからね。では、選考結果は後日メールでお伝えします」
ニホン治安維持隊、通称シンセングミの最終面接だった。
筆記テスト1回、実技2回、面接5回。
面接が5回もあるのは、何度も同じ質問をして、回答に矛盾が<あるかどうか>を確認するためだ。
しかし、意図的に矛盾させると、センサーで探知されてしまう。
自然に、しかし明確に矛盾させるテクニックはネットに公開されているが、もちろんそれは面接官も知っている。
こういう就活テクニックは、いつの時代もイタチごっこだ。
だから僕は僕らしく、試験にのぞんだ。
言いたいことは素直に言った。
それで落ちたなら落ちたで、向いていなかったということだ。
内定通知のメールが来たのは数日後のことだった。
僕はキョート藩治安維持隊のシジョー支部に配属された。
同期からはキョート藩への配属を羨ましがられたが、きっと単に僕が通勤可能な距離に住んでいた、というだけの理由だろう。
仕事のために転居するなんてナンセンスなことは、現在では行われていない。
シジョー支部の隊員は僕を含め7名。
支部隊長のコンドー・イサミ。1級隊士。
副隊長のヒジカタ・トシエ。3級隊士。
サイトー・ジェシー。5級隊士。
ナガクラ・ヘーハチ。7級隊士。
兵器管理員のヤマナミ・ケーコ。6級隊士。
本部から出向しているヲキタ・ソウコ。6級隊士。
そして新入隊員の僕、カツラ・コジロー。10級隊士だ。
「お互い男同士、仲良くしようぜ」
ナガクラは僕に言う。
「それはセクハラだと思います」
「固いこと言うなって」
ナガクラ以外はみんな女性だ。
性差別雇用禁止法が施行されて140年ほど経つ。
民間には口うるさいくせに、公務員はこの体たらくである。
しかし確かに、力仕事というか、タフというか、体を張った仕事は、誰が考えても女性に向いている。
それでも性差を判断基準としてはならないという考え方は、いわゆるDEIのうちのE、Equity、公平性の考え方による。
実戦ではトリオを組むことが多い。
7人のうち戦闘要員は6人だから、3人ならば2部隊組めるというシジョー支部の事情も大きい。
今回はコンドー隊長、ナガクラ、僕の3人が出撃した。
僕が倒したカラクリは4体。
ナガクラが13体。
コンドー隊長は見守り役みたいなものなので撃破数はゼロ。
「まぁまぁ、そう落ち込むなって。5回目の出撃で4体も倒せば上出来だぜ」
ナガクラが僕に言うと、、コンドー隊長が思い出したように言う。
「そういえば、ネットにカツラのファンクラブができてるそうじゃないか」
「マジっすか? コジローの?」
「あのジャンプ斬りからの斬り上げ二連撃がウケてるらしい。カツラ・コジローと、有名な巌流島のササキ・コジローとかけて、ツバメ返しっていうネーミングまでついてる」
「ツバメ返しぃ? そんなミーハーなネーミング、コジローが喜ぶわけ…」
「いいですね、それ」
僕は答える。
「おいおい、マジかよ」
僕たちとカラクリとの戦いは、ネットで配信されている。
配信班が別にいるのだ。
僕たちの戦いはエンタメとして消費されている。