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第4話

 はぁ、これからボクはどうすればいいんだろう。

 女神様から託された使命だって、この調子じゃ果たせそうもない。

「ははは。ボクにできることなんて、なにもないじゃないか」

 乾いた笑いが口から漏れる。

 前世でだってそうだ、ボクはなにも成し得なかった。人並みの努力もしたけれど、いつもあと一歩というところで失敗してばかり。そんな人生だったからこそ今世ではと意気込んだけれど、結果はご覧のありさま。

「はぁ……もういっそ全部投げ出したいよ」

 現実から目を逸らしたくなるけれど、どこを見渡したって荒地しかない光景に絶望感は増すばかり。ボクはただ、この貰った新しい命でスローライフを楽しみたかっただけなのに。

 種を蒔くワクワク、芽が出た時の喜び。収穫した新鮮な野菜を味わう感動……。今度こそ思う存分に植物と触れ合えると思ったのになぁ。膨れ上がった期待感が、風船のように破裂してしまった気分だ。

「だいたいどういう原理なんだろう、このアホみたいに固い土って。これじゃあ種も蒔けないじゃないか」

 せめて土が掘れたらいろいろと試せるのに。前世の知識と経験があるボクなら、実家の畑みたいにフカフカで良い土にできる自信があるぞ。そんなことを考えながら、地面に手を伸ばすと――、

「あ、あれ?」

 手が土に触れた瞬間、右手の感触に異変を覚えた。アスファルトのように固いはずの土が、明らかに柔らかいのだ。それに妙に生暖かい。まるでお風呂に入ってるみたいな温かさだ。

 っていうか、明らかに沈んでますよねボクの右手!?

「な、なんだこれ!?」

 思わず大声を出してしまったけれど、それどころではない。このままでは沼のようにどこまでも腕が飲み込まれてしまう。慌ててズブズブと手を引き抜くと、腕にべっとりと土が付いていた。しかもただの土ではない、ボクが前世でよく見たものに似ている。そう、これは……

「粘土……?」

 それは男爵領では有り得ないはずの物体だった。

「ど、どうして?」

 先ほどママが小石で叩いたときは、金属音が返ってくるほど固かったはずだ。それこそ、この世の全てを拒むかのように。なんだこれ、神の奇跡か?

 夢じゃないかと疑いつつ、ボクは再び地面に手を付けた。今度は土を掘るイメージで腕に力を入れる。

「やっぱり現実だ。泥みたいに柔らかくなってる……」

 スライムのようにドロドロで、手ですくってみると簡単にこぼれ落ちていく。それに地面に落ちたあともちゃんと柔らかいまんまだ。

「キッカケは……ボクがそう願ったからか?」

 土が掘れたらいいのに、と考えながら土に触れたからこうなったとしか思えない。

 それならばと、今度は手に残っている粘土に硬くなれと願ってみた。すると、

「お、おぉ……!」

 ちゃんと硬くなっている。しかもイメージ通りの硬度にも変えられるようだ。

「この土はボクの意思で変えられるのか」

 粘土をいろいろな形にしてみる。板型や棒状、お椀などなど自由自在に変化していく。だけど美術センスが足りないのか、はたまた不器用なのか。あんまり繊細な形状は作ることができず、歴史の教科書にあった縄文土器や土偶みたいな不格好なものばかり出来上がっていく。うぅっ、今のところは完成度について目を瞑ろう。

「あとは要練習ということで……」

 スーパーボールをイメージして作ったお団子を地面に投げてみると、それはボヨンと弾んでから地面を転がっていく。どうやら一度固めたものも、自由に形を変えることができるみたいだ。

 これなら畑の土だって作れるかもしれない。ふかふかした土なら植物も育つし、水だって吸収できる。まさに理想の土地だ!

「でもなんで急に……」

 考えられるとすれば、スキルしかないだろう。女神様が五歳になったボクにジョブを与え、そのおかげで特殊なスキルを覚えた――そう考えれば合点がいく。

 もしかしてこの粘土化のスキルで使命を果たせってことなのか?

 といっても今のボクができたのは、子供の粘土遊びぐらいなんだけど……でも、うん。可能性が生まれただけでも大きな前進だ。

 女神様から与えられた力ならきっとなにか意味があるはず。そう信じて今はできることをやってみよう! よしっ、と気合を入れ直し、ボクは拳を握りしめた。

「あれ? なんだろう、これ」

 その握りしめた右手の甲に、この世界の言葉で小さく“粘土工作師”と刻まれていた。

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