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第32話


 結局、侯爵は爵位の剥奪となった。違法な魔道具の所持、他領の侵略、そして彼がハラブリン商会を介して他国と密約を交わしていた証拠が見つかったのだ。密約の内容は魔道具で男爵領に魔物を氾濫させたのち、混乱に乗じて食糧や武器を販売して利益を得るという自作自演だ。やってることは内乱罪となんら変わらない。いくら上位貴族といえど、投獄されることになった。

 そこまでして男爵領を欲しがった理由とは……なんと枯れた生命の樹だったそうだ。

「でもそんな物を手に入れて、侯爵はどうするつもりだったんだろう?」

「それが魔物寄せの魔道具を作る素材のひとつだったそうですよ」

 アイリス様曰く、この生命の樹には大量の魔素(瘴気)が込められているらしい。まぁ魔物にとっては魔素は栄養源なわけだし、惹かれて寄ってきてもおかしくはないか。

「でも今回の騒動でコーネル君のお父様も伯爵に陞爵されましたし、このままいけば侯爵領を拝領して新たな侯爵候補になるかもしれませんね」

「パパはめんどくせぇって肩を落としていたけどね」

「ははは……」

 あのパパが偉くなって喜ぶとは思えない。跡継ぎであるエディお兄ちゃんも同じくだ。

「そういえばコーネル君は提案を呑んでくれましたか?」

「……本当に受けなきゃ駄目ですか?」

 アイリス様から聞かされたのは、《コーネル=ジャガーを豊穣騎士に任命する》という陛下からの勅命だった。なんでも慣例の貴族制度とは別に、女神の使徒としてこの国に農業を普及してほしいらしい。つまり国家公認の農業大使である。

「でも他の貴族からの反発があったんでしょう?」

「ありましたが、お父様から『このままでは間違いなく彼は他国から引き抜かれるが、そうなった際の責任はとれるのか?』と言われ、皆さん沈黙されたそうですよ。まぁ、当然ですよね」

 公認となれば好き勝手に農業をやれる免罪符になる。誰にも邪魔されず大好きな畑仕事ができるのは、ボクにとってはかなりのメリットではある。でもその国王陛下の言葉の裏を考えると、これってつまりボクをこの国に縛り付ける鎖でもあるってことだ。……まぁ他国に行く予定はないから良いんだけどさ。

「どうせ断る権利はないんですよね?」

「ふふっ。コーネル君も貴族のことが分かってきましたね」

「はぁ……分かりました。じゃあ遠慮なく、これまで以上に農業を進めていきますね」

 まったく、五歳児にあんまり負担を掛けないでよね。

 溜め息交じりに了承の意を伝えると、アイリス様は「これまで以上に!?」とドン引きしていた。え? ボクなにか変なこといったかなぁ?


 ◆

 一方そのころ、豊穣神サクヤは神域からコーネルたちの様子を見守っていた。

「まったく、転生したばかりだというのに忙しないわね」

 やれやれといった口振りながら、その表情は孫を見るような慈愛に満ちたものであった。

「しかし、ここまで早く結果を出すなんてさすがだわ」

 生命の樹が枯れ、豊穣の力がサンレイン王国から消えつつあった。しかしコーネルのおかげで女神の力が再び及び始めている。サクヤ自身が望んだことではあったが、彼が生涯を閉じるまで、もしくはその子孫が叶えてくれればいいと長い目で見ていた。だがいざフタを開けてみれば僅か五歳のうちに成し遂げてしまった。

「ふふっ。でも一生懸命なのは相変わらずで良かった。あの頃から不器用で、底抜けに優しくて……」

 サクヤは自身が神となる遠い昔の記憶を振り返りながら、かつて好いていた男の面影をコーネルに重ねていた。

「おい、サクヤ! お前んとこの使徒、すげぇ活躍らしいじゃねぇか……ってお前その見た目どうしたんだよ!」

「なんですかヴァルカン。貴方は人のことより、自分が担当している国の心配をしたらどうなんですか」

 憩いの場である和室にズカズカと入り込んできたのは、戦闘の神ヴァルカン。獣人の国であるコロッサーレを管理していて、獣人王ガオルと同じく巨漢で赤黒い肌に燃えるような赤髪、短気で怒りっぽい性格とまるで炎のような神である。

「あぁ? そんなの俺の担当する獣人国も問題ねぇよ! それよりお前の使徒だっつーの!」

「……うるさいですね。少し静かにしてくれませんか?」

「あ、いや……すまん」

 サクヤがギロリと睨むとヴァルカンは途端にシュンと縮こまってしまった。いくら彼女が慈愛に満ちた女神であっても、その彼女が本気で怒るとそれはそれは怖いのである。

「まったく……で、なんの用です? まさかコーネル君の様子を見に来ただけなんて言いませんよね?」

「そ、そんなわけあるか! 実はお前の使徒に頼みがあってな……」

 そしてヴァルカンから聞かされた内容に、サクヤは思わず頭を抱えてしまった。

 ――ごめんなさいコーネル。貴方にまた借りができてしまいそうです。


拙作を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。

読者の皆さまの応援が、ラストまで書ききる原動力となります。

もしよろしければ、★評価などいただけますと、作者の励みになります。

今後の創作にもつなげていきたいと思っております。

心より感謝をこめて──ありがとうございました!

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