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第1話

 転生してから、すでに数年の歳月が“過ぎていた”。

 というのも五歳の誕生日である本日、めでたくも前世の記憶が甦ったのだ。ちなみに物心がつくまでの記憶はボンヤリとだが覚えていて、現在はすべての記憶が統合された感じだ。

 てっきり生まれた直後から自我が芽生えるものだと思っていたけれど、冷静に考えれば赤ん坊の状態じゃロクに動けもしないわけで。もしかしたら女神様は、あえてこのタイミングにしてくれたのかもしれない。そうそう、女神様に感謝といえばもうひとつ。

「これは“当たり”なんじゃないか……?」

 今世での名前はコーネル=ジャガー。なんとサンレイン王国にある、ジャガー男爵家の次男坊だった。

 下級とはいえ貴族の子供にしてくれるなんて、サクヤ様もサービス精神が旺盛である。

 ちなみに外見はというと、ちょっと癖のある金髪に小さなぷにぷにの肌。クリッとした目は愛嬌たっぷり。無邪気な笑顔でお願いごとをされたら、なんでも言うことを聞いてあげたくなる愛らしさがある。我ながら最高のショタに生まれたんじゃなかろうか。

 ママの部屋にあった手鏡で初めて自分の顔を見たときなんて、思わずニヤけてしまったほどだ。前世の家族は大好きだし、感謝もしているけれど……まぁなんというか、芋臭い見た目だったからなぁ。田舎育ちの純日本人だからそうなるのも当然なのだが、今度の両親は目鼻立ちのクッキリした外国人顔。高身長で美形だし、これなら自分の成長した姿に期待で胸が膨らむ。

 ここまで恵まれていると、ジョブとスキルも楽しみになってくる。ちょうど五歳で神様からジョブを貰えるらしいし、どんなスキルを覚えているのか確認してみるつもりだ。

「ふっふっふ、遂に俺のチート生活が始まるってわけだ」

 おっと、つい頬が緩んでしまった。“ボク”は今、純粋無垢な男の子であるコーネル君なんだし、年相応の振る舞いと言葉遣いを心掛けなくっちゃ。出る杭は打たれるというし、目立ちすぎず、平和なスローライフを目指そうじゃないか。安全第一をモットーにである。

「よし、まずは確認作業だね。お外でスキルを試しにいこう。そうだ、ついでに耕す予定の畑も見てみたいな」

 これまでのコーネル君は、滅多に家の外へ出させてもらえなかった。というのもこの世界には魔物がいるようで、軽々しく散歩もできないらしい。特にこのジャガー男爵領は、人の少ない辺境ゆえに討伐されていない魔物が多いんだとか。

 今日は我が家に偉い人が来ているらしく、両親は接客にかかりきり。お姉ちゃんは仕事で王都に住んでいるし、お兄ちゃんは自分の部屋に引き篭もって出てこない。つまり今が外に出る絶好のチャンスというわけだ。

 自室を出て階段を降り、こっそりと玄関へ向かう。貴族の家といっても日本の一軒家ぐらいの広さだし、使用人さんもいない。所々がボロボロで、素人が修理した形跡もあるし……貴族らしからぬ質素な暮らしだ。

 廊下を歩いていると、途中にある応接室から話し声が聞こえてきた。会話の内容は気になるけれど、盗み聞きをしている場合じゃない。もし誰かにバレたら厄介だしね。玄関までやってくると、足音を立てないようにそっと靴を履いた。

 さてさて、ついに異世界とのご対面だ。ワクワクしながらドアノブを握る。

「ネルちゃん? 私に黙ってどこに行くつもりなのかしら?」

「ふあっ!?」

 声のした方を振り返ると、ニッコリと笑う女性と目が合った。

 ママ!? どうしてママがここに!

 ウェーブのかかったロングの金髪を優雅に揺らしながら、こちらに近付いてくる美人さん。彼女はボクの母親であるレイナ=ジャガーだ。アラフォーだけどとにかく若々しくて、二十代でも通るような容姿をしている。

「う、嘘……ママはお客様の相手をしていたんじゃ……」

「ネルちゃんの気配を察したのよ。たとえ見えなくとも、どこにいるかなんてママにはお見通しなんだから」

 ムフー、と自慢げに胸を張るママ。なんか今、さり気なく恐ろしいことを言われた気がするのだが……。

 そういえばこのママ。可愛らしい見た目に反して、怒らせると人が百八〇度変わる。自分が怒られたことはないけれど、男爵家の当主であるパパが一方的に叱られているところを見た記憶がある。だからこの人だけは怒らせちゃいけない。ボクは同じ目に遭いたくないし、ここは穏便に誤魔化そう。

「えぇっと、どんなスキルを貰ったのかお庭で確かめてみようかと……」

「お外はとっても危ないのよ? だからパパと一緒にあとで確認しましょうね」

「お庭で土遊びするだけでもダメ?……そうだ、畑を見てみたいな。ボク、お野菜大好きだし!」

 あくまでも子供らしくおねだりをしてみると、ママは目を大きく見開いたあと、とても悲しそうな表情を浮かべた。

「ネルちゃん。まだ幼い貴方は知らなかったでしょうけれど……この呪われた土地で野菜は育たないのよ」

「えっ……?」

 さすがに嘘だよね? 耕作ができない環境でどうやって暮らすのさ。

 しかもなんだ、呪われた土地って。サクヤ様はそんなこと言っていなかったぞ?

「うーん、まだネルちゃんには難しいお話だったかしら。……そうね、少しだけママと一緒にお外を見てみる?」

 そういってママは隣に来ると、玄関のドアを開け放った。

「――えっ?」

 あまりの光景に、ボクは思わず言葉を失くしてしまう。

 目の前に広がっていたのは、ひたすらに続く不毛な荒野。まさに死の世界だった。

「こ、これは……」

 口をポカンと開けて呆然としていると、ママはボクの手を引いてゆっくりと外へ踏み出した。

 乾いた風が吹き、かすかに砂埃の匂いがした。照りつける太陽の眩しさに目を細めながら、辺りをゆっくり見渡してみる。

「なんだよ、これ」

 茶色い地面の上に数軒の家がまばらに建っているだけで、雑草なんて一本も生えていない。他にあるのは、はるか遠くで雲の上まで伸びる黒いナニカだけで……。

「あれは生命の樹“だったもの”よ。豊穣の恵みが消えた今、ここは神様に見捨てられた魔境だって言われているわ」

 かつてここは、生命の樹を中心にたくさんの緑であふれていたとママは言う。

 だけどある日突然、生命の樹が枯れてしまった。すると地中から邪悪な瘴気が溢れ出し、地上の生命を次々と奪い始めた。瘴気が蔓延したあとに残ったのは、心のない恐ろしい魔物と、どうやっても耕せない呪われた大地だけ。呪いのような侵食は今も広がりつつあり、ボクたちの王国を徐々に蝕んでいるんだとか。

 でも耕せないってどういうことなんだろう。首をかしげて不思議そうにしていると、ママは地面に落ちていた先の尖った小石を拾った。

「見ていてね……えいっ」

 可愛い掛け声と共に、ママはその拾った小石を地面へと叩きつけた。

「な、なにこれ……」

 普通の土なら刺さるか多少抉れるだろう。しかし土とは思えないカキンッという金属音を鳴らし、小石を弾き返した。

「まるですべてを拒むみたいでしょう? とてもじゃないけれど、これじゃあ植物を育てるどころか畑を耕すなんてできないわ」

 小石を地面に戻すと、ママは悲しそうに目を伏せた。ちなみにスキルを使ってもダメらしい。過去に王国の優秀な騎士や魔法スキル使いがどうにかしようと試みたんだけど、小さな窪みひとつ作れなかったらしい。

 なるほど……だから神様に見捨てられた土地なのか。実際には見捨ててはいなんだろうけれど……って、女神様はこんな場所で農業を広めろっていうのか? 無茶苦茶すぎるでしょ!

「そこでこの国の王様が、パパにこの魔境の管理を任せたの。どうにかして元の土地に戻すようにって」

「そんな無茶な……」

「そうよねぇ。ネルちゃんみたいに幼い子でも無理って分かるんだもの。それでもママたちは十五年以上も頑張ってきたんだけれど……」

 そんなに長い間、この土地の管理をしていたの!?

 たしか一番上のお姉ちゃんが十八歳だったはず。二人は幼い子供を育てながら、こんな危険な土地で頑張ってきたのか……。

「ごめんなさいね。もっとお金に余裕があれば、ネルちゃんにご飯をたくさん食べさせてあげられるんだけど」

 国から貰えていた援助も段々減ってきて、家計はどんどんと火の車。食糧を満足に調達するお金がない。ママはボクの頬に荒れた手を当てながら、申し訳なさそうに事情を説明してくれた。

 そんな手に、“俺”は見覚えがあった。前世、夏も冬も過酷な農作業を続けながらも家庭を守ってくれた、強い母の手だ。現世のママも、長いあいだ苦労してきたのが良く分かる。

「ママはその……今の生活が辛くはないの?」

 そんなボクの問いに、ママはキョトンとしたあと、

「――辛いに決まってるじゃない」

 と答えた。

「じゃあ諦めて他の土地に移住を……」

「でもね。ママには貴方や他のみんながいる。大好きな人たちが一緒だから、私は今とっても幸せよ」

 そういってボクを優しく抱きしめた。その瞬間、ボクの目から堰を切ったように涙が溢れ出した。悲しいんじゃなくて、嬉し涙だ。

 この人はなんて優しいんだろう。ボクも将来はこんな優しくて強い大人になりたい。そう強く思った。

「それに頑張っているのはパパも同じ。だからママもまだ諦めないわ」

次回は明日の21:30ごろを予定しております。

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