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第12話

「はぁ~……」

 ボクは自室のベッドに倒れ込み、大きなため息をついた。あの後、村民たちの誤解を解くためにどれだけ苦労したか……。好きで野菜を育てているだけだと言っても誰も信じてくれないし。まぁ実際に女神様から依頼されているわけだし、完全に嘘というわけでもないんだけれどね。

「でもなぁ……あんな期待に満ちた目で見られたら委縮しちゃうよ」

 さすがに救世主ってのは言い過ぎだ。こっちは二度目の人生は平和にスローライフを満喫したいだけだっての。

 救世主の話はともかく、土壌の問題はどうにか解決の見込みが立ったのは良かった。

 花壇の実験で分かったとおり、土に含まれる瘴気……だと聞こえが悪いから謎の栄養成分――いや、もう魔素でいいや。発案者の権利でそう呼ぶことにする。

 土壌に含まれる魔素の濃度を調整すれば、失敗せず生育できることが分かった。

 ただし毎回、混ぜものとなる土を調達するのがとても大変なのだ。なにしろ土はかなり重い。なんと一立方メートルで一トンを優に超える。だから他の領から仕入れるのだって、かなりのコストがかかってしまう。小麦を仕入れた方が安くつくんじゃ本末転倒だ。

 ならばどうするか。意外にもその方法は簡単だった。

「まさか前世でやっていたベランダ菜園が功を奏すなんてなぁ」

 そう、植木鉢(プランター)での栽培だ。魔素が際限なくある大地で育てるから問題が起きるのであって、魔素の供給源を容器で物理的に遮断してやればいい。もちろん、その過程で土の栄養は減ってしまうけど……そのときはコーネル印のスコップで掘った男爵領の土を足してやれば問題ないだろう。

「うん、これでまた一歩前進だ」

 とはいえ問題はまだまだ山積みである。

 まずひとつ目は、領民たちへの教育だ。彼らは農業に対してあまりにも無知すぎる。ボクがいくら土壌改良や品種改良について説明しても首を傾げてばかりで、どこかピンとこない様子なのだ。

「それも仕方ないんだけどね。日本と違って、国民みんなが学校に通っているわけじゃないし」

 理科とか基本的な素地ができていないんだろうなぁ。今思えば、当たり前のように義務教育レベルを学べる日本が恵まれていたんだと思う。

 ボクはそこまで人に教えるのが得意じゃないので心が挫けそうだけど、辛抱強く教えていこう。これは女神様に”農業を広めてくれ”って頼まれていることでもあるし。

「いざとなったら救世主の威光を使って無理やり納得(洗脳)を……あんまり気乗りはしないけど、野菜の素晴らしさを伝えるためには仕方ないよね?」

 ともかくこれは一朝一夕ですぐどうにかなる問題じゃないので、いったん保留だ。

 ふたつ目はスキルの問題。実はこっちの方が深刻だったりする。大きな粘土工作はできないし、作った道具も時間が経つとただの土に戻ってしまうのだ。今のところジャガイモ農業はボクの作った農具に依存している状況なので、早急に改善しなくっちゃ。

「やっぱり一番の原因は、ボクのスキルがまだまだ未熟なせいだよね」

 神様が作ったスキルというシステム。与えられたジョブに相応しいスキルを覚えられるんだけど、覚えたら最初から十全に使えるという便利なものではなく、習熟度によって成長していく。

 たとえば戦闘系のスキル。剣術や炎魔法のスキルであれば、魔物を倒すことで成長するって言われている。一方で鍛冶や建築などの技術系スキルならば、実際に手を動かしたり設計図を描いたりと、その行動によっても成長する。

 つまりボクがクレイクラフトのスキルを成長させようとするなら、粘土工作を繰り返す必要があるのだ。

 そして困ったことに、ボクが使えるスキルの回数はそこまで多くない。スキルを何度か使っているうちに、極端な疲労感に襲われてしまう。

「これは推測だけど、たぶんステータス的な要素があるんだと思う」

 そこで思い浮かんだのが前世でやっていたRPGだ。体力が減れば戦闘不能になるし、魔法を使えば魔力が減るというアレだ。スキルも同じで、使うたびにボクの中にあるパワーが減っていると仮定すれば辻褄が合いそう。

「よし、明日はもっと詳しくスキルの検証をしよう」

 そういうわけで夜が明けまして。ボクの居場所ともえいる実験用の花壇へとやってきた。

「んー、太陽がまぶしい」

 真上に浮かぶ太陽を眺めつつ、検証スタートである。本当はもっと早い時間から取り組むつもりだったんだけれど、朝の畑仕事をこなしてから昼食を食べたら、うっかりお昼寝を……うぅ、仕方がないとはいえ、体力の低さがどうにも歯痒い。

粘土工作(クレイクラフト)

 気を取り直しつつ、ボクは地面に手を当てた。カチカチだった地面がいつものように柔らかくなり、畑の土がボクの思うままに形作られていく。

「うん、やっぱりだ」

 完成したのはバスケットボールくらいの丸い土塊。一回のスキルで変化させられる土の量はこれが限界みたいだ。これでだいたい一週間はこの形を維持してくれるはず。

 最初のころは両手で包めるくらいの量だったことを考えると、ちゃんと成長しているみたい。

「ゲームと違ってステータスが見れないのが不便だ……」

 リアルタイムでポイントの推移が分かればいいんだけど、その方法がない。もしかしたら状態が分かるスキルがあるのかなぁ。

 ないものを欲しがっても仕方がないので、自分で編み出すことに。

「仮の数値化……そうだなぁ。最初のころに変化させられていた土、おにぎり一個分を一単位にしてみようか。単位の名前は――魔法みたいな元素ってことで【魔素】にしよう」

 不思議な現象を起こす要素はひとまず魔素って呼ぶことにする。安直かもしれないけど、昔の学者だって同じだ。アリストテレスだって世界はたった四つの元素で成り立っているって考えていたし、違ったら後で修正すればいいだけの話。

 ということで、おにぎり一個分の土を変化させるために必要なエネルギーが一魔素ポイント、MPとしてみよう。

 さて、目の前にある丸い土塊はどうだろうか。おにぎりの一辺が八センチの正三角形で、厚みが三センチだとしたら体積は……あー、面倒臭い。だいたい五十個分くらいだろう。はい、スキル一回分のMPは五十。

「……って五十倍も増えたってこと!?」

 スキル、めっちゃ成長してるじゃん!

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