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第一話 様子がおかしい幼馴染

「さっきは凄く楽しそうにしていたけどあのと随分と仲がいいのね?」


 美しい顔の眉間に微かに皺を寄せ俺に詰め寄る目の前の女性。彼女の名前は北条カノン、俺の幼馴染だ。美しい亜麻色の髪が風にたなびく。放課後の校舎を背に薄暗くなる空と相まって彼女の表情に不気味な怖さを覚えた。


 俺は先ほどまで委員会の後輩と会話をしていたのだがその様子を見ていたらしいカノンに突然、詰め寄られている状況だった。


「ん? いや別に仲がいいとかそういうわけでは……」


 なぜかとっさに言い訳の言葉が飛び出す。しどろもどろになりながら俺は彼女に言葉を返す。


「彼女はただ委員会の仲間ってだけだよ。別に深い仲とかそう言うんじゃなくて……。決して誤解して欲しくないんだけどそういうんじゃ全然ないから」


「ふふふ……」

「え?」


 彼女が唐突に笑い出す。そして俺にこう告げた。


「どうしてそんなに慌てて言い訳するの? 別に私は彼女でも何でもないんだから取り繕う必要なんてないのに」


 彼女は笑って何も気にしていないような様子で俺にそう言った。だが彼女の表情が冷たく強張っているように見えて俺はさらに言い訳を続けてしまう。


「あ、いや。変に誤解されてもあれかなと思って」


「ふーん、まあ別にいいけれど」


 先ほどの笑顔が消え、急に興味のなさそうな顔になる。その変化に俺は少し背中に冷たいものを感じた。


「よお、朝からお熱いことで」


 突然後ろから俺たちを野次るような声がした。こんな声をかけてくるのはあいつしかいない。


「からかうのはよせ」


 朝っぱらからからかってくるこいつは中学からの友人の猿山里さるやまさとしだ。見ての通りお調子者でいつも俺をいじっては楽しんでいるらしい。嫌な趣味だ。


「猿山君、私はただの幼馴染だから変な風に言うのはやめてよ。私は先に行くわね」


 猿山に笑顔で牽制するカノン。


「ひひひっごめんね。北条さんまたね」


 猿山がふざけながらカノンに謝罪する。いや恐れ知らずにもほどがあるなこいつ。しかし今はこいつの能天気さに救われた。


「いやーしかし、羨ましいぜ。北条さんと仲が良いなんて」


「別に仲よかねーよ。昔ちょっと知り合いだったってだけだ」


「かー、いいねえ、そんなかっこいいセリフ俺も言ってみたいぜ」


 ダメだこいつ。完全に俺の反応を見て楽しんでいやがる。


 そんなありきたりな会話をしながらそれぞれの家路につき猿山とも別れた。すると突然電話がかかってくる。この番号……カノンか? さっき別れたばかりだというのに……。訝しく思いながらも俺はそれに応答した。


「後ろ」


「え?」


「今、あなたの後ろにいるよ」


 そう言われて俺は驚きつつも振り返る。すると笑顔のカノンが手を振って立っていた。そして小走りに近づいてくる。


「お、おい……。驚かせるのはよせよ……」


「ふふふ。あなたの驚いた顔が見たくなっちゃって」


 カノンとは幼馴染なので家も近い。当然変える方角も一緒になるわけだから八合うのも不自然ではないわけだが……。俺は目の前の幼馴染に対して少し違和感を覚えていた。


 それにカノンってこんなに茶目っ気があるような性格だっただろうか……? 俺が一番に違和感を持ったポイントはそこだった。彼女は比較的おとなしくクールな印象をまとった女性だった。こんな風に俺を驚かせたりなんて以前なら絶対にしなかったはずだ。何かがおかしい俺はそう感じていた。


「一緒に帰りましょう?」


「ああ……。そうだな」



 俺たちは歩幅を合わせて歩き出す。俺は何を話していいのか分からなかった。幼馴染とはいえ最近は疎遠になっていたからだ。


 俺が話題に困っているとカノンが唐突に口を開く。


「この公園、覚えてる?」


「ん?」


 見ると昔一緒に遊んだ懐かしの公園を指さしていた。今は寂れてしまってひとっこひとりいないようだ。


「ああ、覚えてるよ。昔はよくここで遊んだよな」


「そうそう、楽しかったよね。それで……何をして遊んでいたか覚えてる?」


「ああ……。確かかくれんぼとかだったか……?」


「うんうん。覚えててくれて嬉しいな。負けたほうが勝った方の言うことを聞くなんて約束しちゃったりしてね」


「ん? そんなことあったか?」


「酷いなあ。もしかして忘れちゃったの……?」


「ああ……。すまん」


「それじゃああの時の約束も忘れちゃったんだ」


 彼女がボソッと呟く。非常に無機質で冷たい声だったので俺は思わずびくっとしてしまう。そんな俺を見て彼女は笑っておどける。


「もうー昔から忘れっぽいんだから」


 そう言って俺の背中を軽く叩く彼女の表情は明るい。だが声は無機質なままだった。表情と一致しない声。俺にはそれがたまらなく怖く感じた。


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