8件 あの世…
〈登場人物〉
アイラ
青崎 蒼汰
「は?いきなり何言っているんですか?」
蒼汰は呆れたような口ぶりでそう答えた。
するとアイラは〈そうだよね〉と答えて笑顔で話を続けた。
「まぁ。特に俺の持論だから聞き流してくれてもいいんだけど……」
「では、歩きながら話してください。自分の勤務時間もあるんで」
「はいはい 社会人も大変だね~」
そう言いながらアイラは頭の後ろに手を置いていたのを体の後ろに下ろして歩きながら話を始めた。
「俺たちみたいな世間一般的に犯罪者と呼ばれているような奴らは、俺は地獄に落ちるって思ってるんだ」
「そんなの、物語では当たり前の設定じゃないですか?」
「うーん……まぁそうなんだけど、俺みたいに色々な人に迷惑をかける人だけだと思っているんだ。
例えば、『人を殺しても、周りの人に見られたりしない完全犯罪なら地獄に落ちない』ってこと」
「そんな判定基準だと地獄の人数めっちゃ少なくなってしまいますよ?」
そう聞くとアイラは真っ直ぐに蒼汰を見つめながら、答えた。
「それで、警察とか自衛隊とか。誰かを助ける行動をとったらその人は『周りに迷惑をかけても天国に行ける』って思ってる」
「――ッ」
蒼汰はそんな真っ直ぐな視線に耐えられず、地面に視線を落とした。
うつむきながら暗い顔で蒼汰は答えた。
「そんなこと言ってしまったら……」
ボソッと呟く蒼汰の声が聞こえないからか、伸びをして深呼吸をするアイラ。
そして、笑顔で蒼汰を軽く見た後
「それじゃ。また明日警察署行くから~」
「え?なんで?」
軽く裏返った声でそう質問する蒼汰に、ケロッとした顔をしながらアイラは
「だって、蒼汰。心なしか俺といると顔が柔らかくなるんだもん。俺だってできれば、俺の周りにいる人には笑ってて欲しいんだよ」
そう答えるアイラの輪郭を月の光が優しくなぞる。
そんなアイラの姿を見て蒼汰は、口元を軽く緩めた。
少しばかり口角を上げると、息を一度置き、話した。
「気のせいですよ。――ただ少しだけ、誰かに頼ってもらえることが嬉しく感じているだけです」
「ほら 嬉しいんじゃん」
「はいはい。それじゃあ御木警察署でお待ちしてます」
そういって一礼をすると辿り着いた警察署の中にゆっくりとした足取りで入って行った。
その背中を下唇を軽く噛みながらアイラは見つめていたのだった。
そして無意識のうちにかすれ声で出た言葉は……
「俺の代わりに、笑っていてくれ……」
そんな小さな呟きを車の走る音がかき消した。
そうして、また1人。裏路地へと帰っていくアイラの姿を駅の通りにある街頭だけが見つめていた。
「…」は『ドラ様』同様、短い話を意味します。
『笑顔で』と言わなかったことにも意味があるかも……?
今回も読んで頂きありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ




