4件 案内
〈登場人物〉
アイラ
青崎 蒼汰
白井 亮太
土曜日。
アイラはそのまま表社会に出ることになった。
「3ヶ月ぶり…かな?」
アイラは全く表に出ない訳ではなく、出る理由が無いから出ないだけなのだ。
そして、今日は面会の日。
家の間を潜り抜け、表に出るとその目の前は御木駅と書かれた駅だった。
アイラは眩しい社会の姿を手で塞ぎ改めて、周りを見る。
「表はちょっと見ないだけでよく変わるね~ マップも何も分からなくなるよ」
そうして、駅の前にある市のマップを見つめた。
「警察署。ってどこ?」
ポツッとつぶやき頭を傾けるアイラ。
彼は今まで1度も警察所に行ったことが無く正直。
警察自体も、蒼汰が初めて見る存在なのだ。
アイラが、マップをジーッと見つめ続けていると、1人の男性がアイラに声を掛ける。
「あの~何処かお探しですか?良ければ目的地まで案内しますけど」
アイラは頭だけ声が聞こえる方に向ける。
そこには、アイラより身長の少し高く、眼鏡を付けた男性の姿があった。
Yシャツの上。首からぶら下がった緑色の紐がより目立って見えた。
無言で見つめていたアイラを見て察したのか紐の先に着いた物を胸元まで上げて話し始めた。
「申し遅れました。自分は『御木市役所 観光案内課の白井亮太』と申します」
「・・・へぇ~役所の人なんだ!じゃあお言葉に甘えて教えてもらおうかな」
体ごと亮太に向けると笑顔でそう言った。
すると、亮太も笑顔で頷き
「じゃあ、目的地を教えてください」
「御木警察署で!」
そのきれいな発音。
流れるような単語。
その言葉が笑顔のまま亮太の思考を止めた。
その3秒の間の後。
「エェー分かりました。じゃあ徒歩で10分ほどなのでついて来てください」
(今は仕事中だ!無礼は許されない!)
そういう考えに至った亮太はそのまま、案内をする事にした。
〈歩き始めて1分〉
ふとアイラが話を切り出した。
「亮太…だっけ?ていうか呼び捨てでもいい?」
「え?えぇ。大丈夫ですよ」
〈歩き始めて2分〉
「亮太ってこの市出身なの?」
「はい。生まれも育ちも此処ですので、とても愛着があるんです」
〈歩き始めて3分〉
「無礼でなければあなたのお名前をお聞きしてもよろしいですか?」
「いいよ~俺はアイラ。後、俺の前では基本ため口でいいよ」
〈歩き始めて4分〉
「アイラさ…アイラはこの辺の人?」
「うん!でも、あんまりココに来ないからさ。分かんなくなっちゃって」
(今住んでるのがまた別の場所なのか?)
〈歩き始めて8分〉
「って感じで、上司も大変なんだ~」
「大変だね~」
〈歩き始めて10分〉
「お。見えてきたよ」
「おっきいね~」
最初に亮太が言った通り、丁度10分で警察署までたどり着くことができた。
アイラと亮太はアイラのトーク技術により一瞬にして仲良くなっていた。
警察署の前まで行くと、タイミングよく蒼汰がスマホを片手に出てきていた。
「蒼汰~」
「・・・アイラさん。あなたホントにフレンドリーですね」
「え~そうかな~」
蒼汰がアイラの方に近づき、亮太の名札に目を落とすと、ペコリと一礼した。
「案内ありがとうございました」
「いえいえ。これが仕事ですので…あなたは…」
「御木警察署 組織犯罪対策課の青崎です」
そう言って、自分の名刺を亮太に差し出した。
亮太は両手で〈頂戴します〉と言い名刺を見つめた。
組織犯罪対策課…
その言葉だけを見つめた亮太はその後、またアイラの方を向いた。
「アイラは…犯罪者なんですか…?」
「――」
その言葉に蒼汰は黙り、下を見た。
アイラ本人は〈うーん〉と腕を組み考えた後、笑顔で
「そうだね。俺は犯罪者だよ。――生まれたときから」
その言葉を聞くと、一瞬亮太の顔が青白くなった。
だが、すぐに顔色を取り戻すと、
「それでも。俺がアイラに話しかけたのが元だ。
きっとこれも何かの縁だし。また、出会えたらその時はよろしくって事でいいんじゃないかな?」
その言葉を聞くと、アイラはとても驚いた表情を見せた。
アイラはてっきり怖がられて逃げていくものだと思っていたからだ。
その顔を見ていた蒼汰もまた驚いていた。
(アイラさんにも、笑顔以外の表情があったんだ。少し意外だな)
そうして、亮太はアイラに1歩近づき。右手をグーの状態で前に突き出した。
その行動に少し頭を傾けたアイラだったが、思い出したような顔をするとまた笑顔に戻りアイラも左手を出して、グータッチをした。
そのあと、亮太は市役所に戻っていきアイラも蒼汰と一緒に面会場へと移動した。
タクシーを拾い移動中、今日の予定について話し始めた。
「取り合えず、3時ごろまで刑務所の中にいる奴らに会いに行きます」
「刑務所に入ってるのは誰だっけ?」
「七沢。星宮。が現在刑務所に入っている者です。
そして、丁度今朝、橋本が刑務所に連行されてきました」
その言葉に首を傾げるアイラ。
「めっちゃすごいハッキングマンじゃ無かったの?」
「それが、コンビニで万引きをしようとしたところを店員に見つかり、そのまま刑務所まで連行された…との事でした」
「少しかっこ悪いね」
その言葉に苦笑する蒼汰。
そんな中で、アイラはその蒼汰の顔を見つめる。
そしてふと
「蒼汰って真顔しかできないのかと思ってたよ」
「――仕事上。あまり笑えない立場ですから」
「ん~ 俺働いたことないし分かんないけど…楽しまないと意味なくない?」
「――ッ」
そう言うと、アイラはタクシーから見える景色を楽しそうに見つめ始めた。
蒼汰も自分の方の窓を見ると、小さく溜息をついたのだった。
蒼汰の苦笑いその顔だけでもアイラには新鮮だったのでしょう…
今回も読んで頂きありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ




