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好きな終末発表ドラゴン

※一部の人を不快にさせかねない表現が含まれます。

『好きな終末発表ドラゴンが~』


『好きな終末を発表します~』


『原爆』


『大噴火』


『共食い』


『仲間どうしで殺し合うやつ』


『正式名称が~分からない終末も~好き好き大好き~』


 柔和な表情。細身の体。白く滑らかな毛並み。

 それはちょうど人の背丈ほどの大きさだったが、長く伸びた顎と折りたたまれた翼は、明らかにそれが竜の類であることを示していた。

 人の言葉を駆使し奇妙な歌を歌いながら、それはひび割れた道路を歩いている。道のわきには鉄や土で出来た角ばった建物がそびえており、それらは前時代に「ビル」と呼ばれたものであった。

 その場所はかつて「東京」と呼ばれていた。多くの人間がひしめく大都市だったが、今はどこにも人間の姿はない。

 はじまりはアジアの一国で起きた大爆発だった。開発中の原子爆弾が暴発したのだが、近隣に格納されていた他の原子爆弾にも引火した。

 連鎖的な爆発が起こり、それだけで一国が焼失することとなった。

 悲劇はそれだけに留まらない。それは地球の有史以来、最も大きな爆発であった。爆発は大地をえぐり、周辺の火山を刺激した。

 これにより未曽有の連鎖的大噴火が起こる。日本では富士山などが噴火し、付近の都市を焼き尽くした。

 噴煙は数年にわたり地球全体を覆った。まず食料不足、次いで日光の不足が人間を狂わせた。人は高等動物の名を捨て、何よりも醜く、食らい合った。

 以上が人間滅亡の一部始終であるが、それを語る人間はとうの昔に絶滅している。

 現在、全てを知るのはこの小さな竜のみである。


『好きな終焉が~また出てきたそのときは~発表したい~発表したい~』


 がたり。石塊が崩れる音がする。

 竜はゆるりと首を傾けた。視線の方向、ビルの陰に四足歩行の獣がいる。頭部には三角の耳が上に向かって生え、日光が橙色の毛並みを鮮やかに照らしている。それはかつてキツネと呼ばれた生物に似ていた。

 その獣は二つの目でしばらく竜をじっと見つめてから、目元を細めるような仕草をした。

「きゅ、む」

 獣が小さく鳴く。まるで竜と意思の疎通を図っているかのようだった。

 竜は獣と同じように目を細め、返答するように鳴いた。

「つ、りゅ」

「しゅ」

 鳴き返し、獣は石塊の向こうへ走り去った。竜は数分ほど獣が逃げた方向を見ていたが、遠吠えが聞こえると踵を返して歩き始めた。

 太陽は今、竜のちょうど真上にある。空の青は深まり、石塊の根元に生えた草本は緑を増している。はるか遠くに見えるはげ山には少しずつ草木が戻りつつあり、薄い黄緑色に色づいていた。

 竜はゆっくりと辺りを睥睨し、鼻を鳴らす。

 足元のひび割れたアスファルトからたんぽぽの綿毛が顔を出している。竜はそれを慎重にまたいで、歌いながら東京を後にする。

 竜の尾が起こしたゆるい風で綿毛が数本、宙に舞った。だんだんと風に乗って空に舞い上がっていく。それは新たな時代の幕開けの合図だった。


『好きな終末発表ドラゴンが~』


『好きな終末を発表します~』


『原爆』


『大噴火』


『共食い』


『新たな何かが始まるやつ』


『正式名称が~分からない終末も~好き好き大好き~』


『好きな終末が~また出てきたそのときは~発表したい~発表したい~』

超越者が過去に起こった事実をわらべ歌のように歌っている、という話でした。冒頭のみ読んだ方は不快に思われたかもしれません。申し訳ございません。

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― 新着の感想 ―
[一言] 実際に人類がこんな終末を迎えてしまったら嫌ですね……(´・ω・`) すべてが更地と化したあとの世界で、まるで神々が一から再生しようとしているような、そんな空気感を感じました。 立ち去った獣も…
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