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イーストオブエアー~空気はパンを凌駕する~

作者: kaji

この世には時と場合によっては人を憎むことが許される……気がする。


                    『保志井の日記』より抜粋(俺)


憎い憎い。お昼ごはんにジュースを買うやつが憎い。

憎い憎い。放課後にパンを買って帰るやつが憎い。


俺はその日、毎日の日課である昼食にジュースを買う人間に呪いをかけるために自販機の近くの影で呪詛を唱えていた。

俺は金が無かった。なぜなら俺の母親はかなりお金に厳しくて1月のお小遣いを1000円しかくれないのだ。高校生で1000円だぜ。10円チョコ100個も買えないし、ジュースに至っては10本も買えない。母親は男なら1000円で何とかして見せろとか言いながら自分は贅沢三昧で今日もヒマラヤにイエティを見てくると書き置きを置いて勝手に出かけて行ってしまった。

俺が誰かだってそんなことはどうでもいいだろうが。まあそうもいかないか。一回しか言わないからな。いいな。俺は岡根保志井おかねほしい高校1年だ。まあとにかくこのように母親が家にいなくなった時は結構頻繁に塩を舐めて生活している。塩こそ人類にとってかかせないものだ。塩バンザイ。それに加えて水だ。これこそ人類のリーサル・ウェポン。滞納しても水道だけはなかなか止められないなんと話もあるほどだ。それだけ人間にとっては水というものは大切なものだ。

俺が柱の影からジュースを買っているやつに呪いをかけていると俺にとっての天使が声をかけてきた。


「また。そんなことやってるんだ。もう止めた方がいいよ。みっともない」


その声の主の姿は後光が差してよく見えないが声から察すると俺の幼なじみの山崎小麦やまざきこむぎだ。家がパン屋をやっているのでよく俺にパンを持ってきてくれる。俺はよく知らないが小麦の実家の山崎なんとかというパンとかいうパン屋は結構有名らしい。家に帰れば捨てるくらいパンがあるというなんとも羨ましいやつだ。前に俺が一生パンを食べさせてくださいとプロポーズしたがあなたと発酵するなんてありえないとパン屋の娘らしい断れ方?をされた。まあとにかく俺に食べ物をくれるとてもいいやつだ。俺はこいつほどいいやつは見たことはない。後光が差してよく見えないがおそらく言葉に表せない程の美人に違いない。性格もよくて容姿端麗とはなんて神に選ばれた人間なのか。普段世話になっているからこれくらいヨイショしておけばいいだろう。言い換えればそうだな。アンパン○ンみたいなやつなんだ。


「ねえ。聞いてる?」

「イースト。聞いてるよ。それでなんだっけ?」

「あのねえ。……。まあいいや。お腹空いてるんでしょ。そんなことしてないでアンパンあげるから食べなさい」

「おお。ありがとお。やはり持つべきものは心の友だな。先人もいいことを言ったものだ」

「???……。もう行くね」

「ああ。またな。親父さんによろしくな」

「うん。分かった。またね」


俺はもらったアンパンを食べた。うまいやはりアンパンは粒あんに限るな。こしあんも悪くないがやはり俺は粒あんだ。あの食感がたまら無くいい。アンパンを考案した木村さんに感謝したい。

 次の日、俺は奮発して今日は弁当を持ってきた。やっぱりいつも小麦にパンをもらうのは悪いからな。今日は聞いて驚くな。もやしご飯だ。やはり日本人は米に限るだろう。米は昔大流行した外国のブレンド米をお米屋さんから格安で譲ってもらった。汚染米もあるぞと言われたがそこはさすがに遠慮しておいた。もやしは農薬を一切使っていない自家製のもやしだ。今日摘みとってきたので新鮮そのものだ。それをさっとごま油で炒めてきた。もやしがごま油に程よく浸かってとてもおいしそうだ。


「タイのお百姓さん。中国のお百姓さん。日本のお百姓さん。アメリカのお百姓さん。いただきます!」


しっかり生産者の皆様に感謝しながら一粒一粒じっくりと40分程かけて咀嚼した。米は噛めば噛むほど味が出てくるなどと言う人もいるがその人は本当にしっかりと米を噛んだのだろうか。俺はその味を感じる前に米粒が消えてしまうのだがどうしてだろうか。やはり俺は米に対する愛情というものが足りないのかも知れない。日ごろ浮気して小麦と酵母のコラボレーションばっかり食べているからきっと俺には味が分からないのだろう。

 昼食を終えて教室から出るとゴミ箱にハンバーガーを捨てている男に遭遇した。こんなエコな時代に食物を捨てるなんてとんでもないやつだ。しかもあれはハンバーグがダブルにチーズが2枚も乗っている。とても高いハンバーガーだ。羨まし、いやこれを捨てるとは許せんやつだ。これは一言言ってやらんといけないな。


「おい。貴様。今ハンバーガーを捨てていただろう。俺は見ていたぞ」

「何? あんた?」


う。意外と怖そうな男だ。たぶん同級生だと思うがこれから3人ほど殺して来ますわ。と言いたげな目をした男だ。左手をポケットに入れているがきっとあのポケットにはバタフライナイフが入っているに違いない。用心しなければいけないな。


「おい。だから何だ?」

「いや。あのな。そこは燃えるゴミだと言いたくてだな。まあ聞け。ハンバーガーは燃えるゴミじゃないぞ。生ゴミだ。だいたい学校のゴミ箱に食い残しを捨てるなんてどうかしているぞ。いや。いや。そう睨むなって。まあ。聞けよ。お前用務員さんの気持ちを考えたことがあるのか。無いだろう。まあ俺も無いよ。それはまあいい。ちょっと近づかないでくれよ。頼むから俺の1m以内には近づくなよ。まあ待て。待て。それで何だったかな。ああ。そうだ。用務員さんの気持ちを考えたことがあるか。毎日学校中から集められたゴミを仕分けしてだな。ちゃんと捨ててくれるんだ。お前はその用務員さんの気持ちを踏みにじっていることになるんだぞ。って。おい。どこに行く。まだ話は終わっていないぞ」


俺が熱弁をふるっている間にハンバーガー男はどこかに行ってしまった。たかが319文字喋ったくらいでどこかに言ってしまうとは意外と大したことの無いやつだ。ちなみにハンバーガーは後でおいしくいただきました。

 俺は放課後に帰りの道すがらに10円チョコを買った。すごく幸せな気分になった。たまにチョコが無性に食べたくなるのだがどうしてだろうか。チョコレートには中毒作用でもあるのだろうか。チョコレート依存症とかあるのだろうか。アルコール依存所とかニコチン依存症などがあるみたいな感じで。今はインターネット依存症などというものもあるからもしかしたらあるのかもしれない。知らないけど。

 母親がいなくなって1月程経ったある日、ついに俺にもお迎えが来たようだ。その日は休みの日だったが昼過ぎになったのだが体が起き上がるのを拒否しているのだ。お腹が減ったとかそんなことを超越して体がひどく軽い。まるで浮遊しているかのような感覚だ。最後にビックプリンを丸呑してみたかったなあ。あのカラメルがたまらんのだよなあ。こう右手で持って一気に流し込みたかったなあ。なんて俗物的なことを考えていると突然意識を失った。

 空腹で再び起きた。今の時間が分からないが夕日が射しているのでたぶん夕方くらいだと思う。どうやらまだ死んでいないようだ。昨日奮発して10円チョコを買ってしまったのが仇となったかもしれない。やっぱり5円チョコにすれば良かったなあ。今となっては動くことができないので小麦にパンを持ってきてもらうこともできない。まさかこの飽食の日本で餓死しそうになるとは思わなかった。餓死したら新聞に載るかな。後、餓死したら小麦はどう思うのだろうか。やっぱり私がプロポーズ受けていればこんなことにならなかったとかそんなことを思うだろうか。ああ。段々頭の中が真っ白になってきたぞ。何も考えられなくなる前にこれだけは言わなければいけないな。さようなら。みなさん。お元気で。あら。まだ意識があるみたいだな。うーん。もう言うことは無いんだがな。さて。どうしようか。よし。それならこの前覚えた小話でも一つ。昔、昔、あるところにお爺さんとお婆さんが……。



 うーん。何だか体がひどく熱い。やめろ。それ以上俺の体を熱するな。もう熱くて熱くてしょうがない。これでは体が溶けてしまう。仕方が無い。起きようか。

 目を開けるといつの間にか昼になっていた。とりあえずベッドから起きてみる。体は相変わらず軽いが何かさっきまでの自分と違う気がする。今まで当たり前のように感じていた感覚がないのだ。それは何か。空腹感が無いのだ。満腹感も無いので寝ている間に栄養を摂取したような不可思議要素もない。

 とりあえず大きく深呼吸してみる。体に酸素が巡る感覚が感じられる。そして、俺の体に活力がみなぎってきた。今までに無い感覚。

 水を飲んでみる。喉から胃まで流れ込み胃の中に染み渡るような感覚を感じる。体が水分で満たされる。体にパワーがみなぎってきた。これも今までにない感覚。


「マサカ。仙人ニ……ごふ。ごふ。ふう。俺ハ」


声を出すとひどくしわがれたような声が出た。まるで俺の声じゃないみたいだ。仙人は空気だけで生活できるという話を聞いたことがある。もしかしたら強制的な断食で俺はいつの間にかに仙人になったのかもしれない。そう思うと今や食べ物などを口にしている人類がひどく愚かに見えた。

 俺は仙人の状態のまま学校に登校した。周りの景色が輝いて見える。こんなにも世界は美しいものだったのか。幸せというものは案外もうすぐ傍にあるものだったらしい。学校で先生の授業を聞く。いつもの退屈な授業も今日は託宣のように聞こえる。こう聞いていると先生も意外といいことを言っているな。

 お昼になるといつものように小麦がパンを持ってきた。今日はいつもよりも豪華な惣菜のパンを持ってきてくれた。俺はやんわりと拒否する。どうかしたのかと聞かれたが俺はこのように返事をした。


「俺にはこの大気中の空気があるから問題無い。ああ。教室の空気は格別にうまいな」

「……」


ひどく怪訝な表情をされた。まあ小麦ごときには分からんだろう。


「俺から言わせるとだな。お前はまだ下劣なものを食べているのか恥をしれと言いたいくらいだ。ほら。この空気のおいしさを感じるんだ」

「へー。そんなに排気ガスで汚れた空気がそんなにいいんですかね」

「お前には到底分からんだろうな。まあということでパンはいいからな。俺はこれから思う存分空気を楽しむことにするよ」

「じゃあ勝手にすれば、じゃあね」


邪魔者を追い払ったので空気をかみ締める俺。うーん。空気って場所や吸い込み方によって色んな味が楽しむことができるんだなあ。新しい発見だ。小麦の視線が気になるがまあ。いいだろう。恐らく俺の豹変におかしく思っているのかもしれない。その日は小麦に捕まらないように早々と帰った。

 その日の夜、水道水の塩素をかみ締めていると突然母親が帰ってきた。


「ごめーん。生きてるね。良かったあ。忘れてた訳じゃないよ。ほら。ほら。お土産買ってきたから許してね」


どさっと牛肉やらシャケやら何だか分からない食材をテーブルに置く母親。紙袋に北海道とか書いているけどヒマラヤにイエティ見つけにいったんじゃないのか。


「いや。わしはいらんよ。そんなもの」

「何。怒ってるの。ほらこれすごくおいしいよ。現地の人がね。このシャケ、イエティが捕ったって言ってたから思わず買っちゃったの」


どこまでが本当でどこからが嘘なのか分からなかったがとにかく俺の口にシャケを押し付けるのだけは止めてくれ。


「止めろ! そんなもの食えるか!」

「何? そっかあ。やっぱり肉だよね。ほら。これなんてすごくおいしいよ」


なんだかよく分からない串焼きのようなものを無理やり口に入れられる。


「止めろ! 止めろ! ああ。汚されるうううう。ぐわああああ」

「どうしたの? そんなにうれしがっちゃって。あら気を失っちゃった。そんなにおいしかったのかしら」


俺はいつの間にか気を失った。そうかと思うとすぐに意識が戻った。意識が戻ると俺は狂ったようにご飯を食べた。まるで今までの分を取り返すように


食べに!


食べた!


食べまくった!



次の日の学校のお昼時間で俺は昨日の母親の残り物の前沢牛のステーキを食べていると小麦がにやにやしながらやってきた。


「あら。あんた空気しか食べないんじゃないの?」

「何を言ってるんだ。馬鹿女」

「人間の活力というものはな。全て食物から生まれるんだ。例えばこの前沢牛を食べるとする。むしゃ。むしゃ。それが俺の血となり……むしゃむしゃ……肉となるのだ。なあ俺の言ってることが分かるだろう。むしゃむしゃ」

「ええ。よーく。分かったわ。あんたがよっぽどむかつく人間だということがね」

「ひがむな。ひがむな。少しはわけてやろうか。この三陸産のあわびとかはどうだ。実においしいぞ」

「どうでもいいけど弁当にそんなものをいれるのはどうかと思うけどね」

「ほら。あんぱんあげるから」

「け。そんなものいるか」

「後で後悔しても知らないからね。ふん。死んじゃえ」


怒りながら小麦は教室から出て行った。ああ。肉うまいわ。




家に帰るとまた母親は家のどこにもいなかった。旅行用のバックが無かったのでまた旅行に行ったのかもしれない。


「それはねーよおおおおおおおおおお。マジかアああああ。俺もう。毎日肉食べないと生きていけないの体なのにいいい。どこいった。あの馬鹿親めええ。携帯。携帯。おかけになった。って繋がらねえし。嘘だろおおお。まだその辺にいるかもしれん」


俺は必死に母親を探し回った。探し回ること20分。


「いねええええ!!」


見ると冷蔵庫に書き置きがあった。



ほしちゃんへ


今度はイースター島に行ってくるね♪

お土産にモアイ像持って帰るから期待しててね。

じゃあねえー。


母より



「ふざけるなああああ。しかも持って来れる訳ねえじゃねえか。絶対空港で止められるよ。俺。終わったあああああ!」


俺は書置きを持って崩れ落ちた。今度こそ。俺だめだろう。その日はたまたまあった食パンを食べた。うん。やっぱりパンうまいわ。改めてパンのおいしさを噛み締めた。


次の日学校で俺は小麦に懇願していた。


「すいません。小麦さん。アンパンを恵んでくれませんか?」

「あら。昨日はそんなものとか言っていたのにどうしたの?」

「いえ。昨日ようやくアンパンのよさに気がつきました」

「ふーん。そうなんだ。どうしよっかなあ」


もったいぶってアンパンをひらりひらりとさせる小麦。ああ。そんなパンを乱暴に扱っては駄目ですよ。あんの風味が失われるじゃないですか。俺は恥も外面も気にせず小麦に頭を下げた。


「そんなこと言わずにお願いしますよ。小麦さん。俺と小麦さんの仲じゃないですか」

「どんな仲か知らないけど……仕方がない。あげるわよ」

「ありがとう。小麦。大好きだー」

「ちょ。やめてよ」


俺はうれしさのあまり思わず小麦に抱きついていた。アンパンで殴られた。やっぱり最後は持つべきものはパン屋をやっている友達だなと思った。ありがとう。小麦。

I L0VE YOU。


終りですよ。



ご拝読ありがとうございます。

 今回は殆どアドリブで書きました。登場人物は3人しか出てきませんし、殆どが主人公のひとり語りで構成されています。かなり訳の分からない話が出来上がりましたがどうも自分はこういった形式の方が得意のようです。一応オチはつけましたがストーリーは無いようなものです。

 よろしくお願いします。

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