夏休み耐久ゲーム配信
「エリザベスさん、夏っぽい企画考えたんですけど」
それはお盆前のことだった。
私たちは、最初に仕事を依頼されたときのDMをそのまま使って、ときどき話をしている。
ご近所付き合いが始まってしばらく経つが、3日~5日に一度という、わりと高頻度で話す仲になっていた。
「夏っぽい企画って、ホラゲとかですか? 」
「ホラーに限らずなんですけど、おすすめってありますか? 何か一本、クリアまで耐久しようかと」
「そうですねぇ」
あまりゲームをしてこなかったというノロさんは、配信をはじめるのを機に、メジャーなハードを揃えていっているという。
ホラーに限らずと言われたが、私はやはりホラーゲームのほうがいいんじゃないかと思った。
それもビックリ系のモンスターがたくさん出てくるやつ。つまり、プレイヤー側のストレス値の高いゲームだ。
前述のとおり、ノロさんのウリはその人柄だと思う。リアクションは大きいのに言葉遣いが乱れないところが魅力だ。
新人配信者をわざわざ発掘する人なんて、大半が生活に『配信を見ること』が組み込まれているから、ノロさんの仕事終わりにも優しい癒し系キャラには、一定の需要があるはずである。
(ハードが手に入るかって問題もあるし、条件を変えていくつか候補があったほうがいいよな)
多様な選択肢は、イラスト仕事でも喜ばれる点だ。
(あと、ノロさんの鎧甲冑ビジュで、画面のインパクトが生かせるのやつ)
まずはハードの問題はあるけど、いわゆるレトロゲー。
これは主人公も敵のモンスターも鎧を着ている。ダメージを受けると装備を落とす仕様で、主人公の騎士はどんどん裸になっていくという笑いどころがある。
次に、ホラーゲームじゃないけど、鎧姿をキャラクリエイトできて、いわゆる『死にゲー』って言われているアクションゲーム。鎧が鎧を操作してるのは面白そうだし、ストレス値もかなり高い。
最後に、王道のフリーPCホラーゲーム。主人公と相棒の青年のハートフルな関係性が描かれていて、分岐によっては泣きゲーとしても有名なやつ。
うん。これならどれを選んでも面白そう。
帰省の新幹線の中で、私はメッセージの送信ボタンを押した。
お盆は、実家のあるクソ田舎に帰ることにしている。
なんにもないところだが、盆の田舎は何かと忙しい。
まず昼にお坊さんが経を上げにくるし、昼が過ぎればひっきりなしに、親戚やら、ご近所さんやら、同じく帰省した誰ソレさんやらがやってきて、夜はいつのまにか宴会に決まっているし、祭りの準備にも駆り出される。どこかで墓参りも行かなきゃいけないし、地元の友達にだって少しは会いたい。
帰省の3日間はずっとそんな感じで、ノロさんの配信をリアルタイムで覗いたのは、最終日、寝る前の深夜3時だった。
(夏休みだからか、同接けっこういるなぁ)
液晶画面の中で、主人公のおじさん騎士と、画面の端の黒甲冑がシンクロしたリアクションをしている。
(そっか、このゲームにしたんだ)
と思って、すぐ眠気に負けちゃったのだが。
朝、ノロさんからメッセージが入っていた。
「やりましたよ! エリザベスさん! 」
……何が?