プロローグ1 「崩れ出す世界」
はじめまして、かこです。
まずは作品をご覧下さり、誠にありがとうございます。
コンテスト用に書き上げた作品になります。最後まで付き合いいただけますと幸いです。
日が沈んでいく。その様を眺めていた。
空も雲も紅く染め上げられる一方で、その反対側は青く、暗く落ちていく。
「なぁ」
文月とは7月。夏が盛るこの時期の夕暮れは、しばらく眺めていたくなるほどに綺麗だ。
「なぁって」
夏は夜。世間的にはそう言われるだろうけれど、私は夜よりも夕暮れが好き。
「お前に言ってるんだけど」
肩に手が乗ってきた。
さっきから聞こえていた声は、どうやら私を呼んでいたらしい。
「私? 何の用?」
振り返る。
茶髪を通り過ぎて、もはや金髪といった方が近い髪色の男の子が立っていた。
話しかけられても気づくはずがない、そもそも面識ないし。
「なぁお前、暇してるだろ?」
え? ああ。一瞬何が起こったのかと思ったけど、これが俗に言うナンパってやつか?
あろうことか私に声をかけるなんて、よほど相手がいないのだろうか。
自慢できることでもないけれど、高二にして彼氏どころか友人の一人も、私にはいない。案外人を見る目がないんだね。
「残念だけど今は忙しいの、他をあたって」
風が草木を靡かせて、一緒に私の髪も揺れた。
「別に今の話はしてねーよ」
空に戻していた視線。ゆっくりとまた、彼に向いた。
どういうことだろうか。
「なんだその顔?」
私の訝しんだ顔を鼻で笑いながら、「まぁ、いいけど」って付け加えて横に並んで来た。
視線は空の方に向かって、体の重さを手すりに預ける。私と同じような格好。
「お前さ、退屈だと思ってんだろ。この世界」
一度は疑ったけど、もしかしてナンパじゃない? のかな。
水の流れる音だけがこの間をつなぐ。心はとても落ち着いていて、それでも返す言葉に困ったのは、彼の言葉に間違いがないからだ。
「……まぁね」
嘘を吐くのは苦手だ。結局、彼の思う通りの返答になった。
「そんな雰囲気がしてる」
「それは……褒めてるの?」
「まさか。褒めも貶しもしてねーよ。そのままの意味だ」
どちらかといえば貶しているとさえ、私には思える。
「ほんと、くだらねぇーよな、この世界は」
訳アリかな。手すりを握る手にギュッと力が入る。
「なぁ?」
「なに?」
「この世界はどうしようもねぇー、だから俺は俺で好きにさせてもらおうと思ってんだ」
「ふーん」
申し訳ないけれど、どうでもいい。
「来いよ」
そう、思っていた。
「ん?」
首を回す。
右手が差し出されていた。
困ることも迷うこともない。手を見下ろしはすれど、私にその手を取るつもりはないから。
「お前は俺たちと同じだ、つまんねぇんだろ?」
俺たち?
気にはかかる。その、ありのままさし伸ばした手のひらも、曇り一つない表情も。
「ならぶっ壊してやるよ、その退屈を」
取っていい手か、そもそも取る必要がある手か。少し考えた。
答えは出なかったけれど、右手は少し、手すりから浮き上がった。
「うしっ、じゃあ行くか」
その途端彼の手がぐっと伸びて、掴まれる手のひら。
そのまま左手で手すりを掴んで飛び上がり、その上にしゃがみ込む。
「ちょっ、どこ行く気?」
「飛ぶぞ?」
「は!?」
話聞いてる?
そう思ってしまうほどの満面の笑みを浮かべてる。
「安心しろ、絶対に後悔も退屈もしないし、させねぇ。楽しみ殺してやるからよ」
待って待って、ついてけない。
楽しみ殺すって何? 殺されるの?
なんて、既に後悔してるんだけど、そんなのお構いなしに本当に飛び出した。
というか、飛んだ。
「え?」
信じられないほどの脚力。川の対岸まで300メートル近いにも関わらずそれを軽々と超え、そこに建ち並ぶ30階建てくらいのビルの屋上まで、ひとっ飛びだ。
「どうなってるの!?」
耳元で叫んだ声さえも届かないようで、5分ほど成す術なく引きずりまわされるのだった。
「うぃーっす」
都会に今どき珍しい、廃墟のビル。壁や天井が抜け落ちて、ところどころから空が覗いている。
そこに8階から侵入した。
「全員揃ってるみたいだな」
私はもう、すでにくたくただ。到着と同時に膝から崩れる。
彼は息の一つも切らしていない。この人、身体能力どうなってるわけ。
「リーダーおそーい、10分遅れだよ?」
「たった10分だろ? 次は気を付けるよ」
「それ前も言ってたって、てかその子誰?」
女の子の声がする。
少し息が整って顔を上げると、3人ばかり知らない顔が私を見ていた。
「あー、なんか退屈そうだったから連れてきた」
「こんなばたばたしてる時にそれする? ウケるんだけど。で、名前は?」
「知らん」
「はい?」
それはそうなるよね。私もびっくりしてるもん。
「あっ、えっと……私、一色香織っていいます」
「お前香織っていうのか、俺は力兼継、兼継だ」
いきなり呼び捨て。なんとなくそんな気がしてたから別にいいけどさ。
「んでお前から見て右から、西鶴、繋、胡桃だ」
長身の男の子が西鶴で、さっきから兼継と話していたのが繋。胡桃は大人しそうな女の子だ。
「悪いけど、今日は特にすることないと思うよ? ていうか、参考までに訊きたかったんだけど、香織って言ったけ? セカイワ?」
セカイワ?
なにそれ、なんかの合言葉かな?
「セカイワ? ってなんですか?」
素直に首をかしげると、変な空気が漂い始める。
「……えっと、リーダー。この子未覚醒じゃない?」
「っぽいな」
「いや、っぽいなじゃなくさ! え? なに? なんで世界使えない子連れてきちゃうわけ? そもそもなんにもできないっしょ!」
「いるか? それ」
「いるでしょ!? ねぇ?」
左右を見る繋だけど、二人の態度は煮え切らない。
「……ないよりはいい?」
「胡桃ちゃん、それどっちにも取れるよ?」
あ、「世界がないよりはあった方がいい」か「世界がない人でもないよりはいい」。確かにどっちにもとれる。
「適度に暇な奴ならそれでいいよ」
またなんとも投げやりなことを言うと、兼継は「それより、時間が押してる最終調整に入るぞ」っと、崩れて半分ほどしか原型のない黒板の前に立った。
「主に、アンタのせいね」
黒板と向かい合わせのところにソファーが置いてある。そんなに綺麗なものではないから拾い物か何かかな。
胡桃と繋はそれに腰を下ろす。
ただでさえ4メートル四方くらいの大きさしかないのに、ソファーを置くとよりこじんまりとして見えた。
「まぁ、そういうな、退屈しないだろ?」
そう言ってから一度、チョークを黒板に打って仕切り直す。
「さて、新人もいるし、まずは目標の確認だ」
そう言って黒板に書かれていた人名らしき文字列をまるっと囲った。
「改めて今進めている暇つぶしの最終目標だが、二楷堂ことは、この女を今日、殺害する」
「え? 殺害!?」
バットで突然、後頭部を殴られたかのような、そんな今日一番の驚きだった。
✳︎ ✳︎ ✳︎
世界が音を立てて崩れた。私の中の世界が。
常識も日常も、固定概念も偏見も、その全部が根底から覆る、そんな出来事だった。
月が光る夜。薄くかかった雲。
足元からビルが崩壊して、降り注ぐ破片と昇る土煙。
その中で翻った兼継が、愉快そうに笑っている。
目の前で壊れるそれに、疑問の一つも浮かべずこう言うんだ。
「なっ、最高だろ?」
常軌を逸していた。
これが『世界』。
一人の人が持つには余りあるその力に、震えた。
怯えていたんじゃない、浮き足立っていたんだ。
そう。世界は存外、捨てたもんじゃないなって。
時間は、3時間の時を遡る。
「ってわけ、おーけー?」
「ごめん、もう一回お願い」
私は今、竹箒に跨って空を飛んでいる。
自分で言っておいてなんだけど、まったくもって意味が分からない状況だった。
「だよねー、まずなんだけどさ、間違えないで欲しいのは、二楷堂を殺害するって言うのは、死を偽装するってことね」
死を偽装? なんのために。
ただでさえ訳の分からない現状にも関わらず、次から次へと訳の分からないことばかり言われる。
確かにこれは、退屈する暇などない。
「で、私と繋はなんで空港に向かってるんだっけ?」
あの後、廃ビルで詳しい説明があると思っていたんだけど、兼継からとりあえず繋に付いて行くようにとしか言われなかった。
投げやりにもほどがある。
世界って何?
死を偽装ってなんのため?
そもそもなんでこの箒は空を飛べるの?
もはや何一つわからない状況だった。
「その前に一つ確認なんだけどさ、香織は二楷堂ことはのこと、知ってるの?」
「ニュースになってるよね? シンガーソングライターで事務所とトラブルになってるっていう」
確か事務所との契約を解約しようとした二楷堂に対して、事務所側が脅迫まがいな言動を取った。その内容がネットにばら撒かれ炎上。
投稿されたのは三日前の深夜で、そこから瞬く間に着火し、その日以来ニュース番組はどこも取り上げない日はないくらい大きな炎になっている。
「そ。今日の昼過ぎ事務所が会見を開いたんだけど、そこであるタブーが起こったの」
「タブー?」
「事務所側が、二楷堂の世界について言及したんよ。おかげでこっちはばたばたなわけ」
出た。世界。
その言葉がちょくちょく出てくるけど、意味がいまいちよくわかっていない。
「まぁ言っても、香織だってよくわかってないしょ? 会見の場もおんなじ。一時は騒然としてたよ、なに言ってるんだろうこの人たちって」
なにそれシュール。
その時間帯は普通に学校にいたから見れていない。ツイッターに上がってないかな。後で調べてみよっと。
「けど、知っている人からすれば大問題なわけ。このままだと、二楷堂ことははまともな人生を送れないだろうね」
「だから死を偽装してその子を助けようってことか」
「そゆこと」
でもその偽装に意味ってあるのかな。
今回の騒動が起きなかったとしても、彼女は既に顔も声も知られている。
シンガーソングライターでデビューしたけど、バラエティーやドラマ、映画にも出演してるし、どっちかって言うとタレントとしてのイメージの方が強いくらいだ。
仮に死を偽装したとしてもどのみち、まともな人生にはならない気がしてしまう。
けれどその前に、まずは別のことが気に掛かっていた。
「ごめん、そもそもの話なんだけどさ、世界ってなんなの?」
「覚醒してない子に世界を説明するのって難しいなーぁ」
「じゃあ、この箒が飛んでるのも、世界ってやつのおかげなの?」
「そだね、わかるように言えば特殊能力って扱いでいいと思う」
なにそれ、漫画みたい。って、今の状況もまさしくそれか。
「なるほど、要は二楷堂ことはに、何かしらの特殊な能力があるって世間に知れ渡ったんだ」
確かにそうなると、今まで通りってわけにはいかなそうな気がする。これまでは隠して生活してきたわけだし。
「そそ。きっと二楷堂ことはがネットに拡散したんだと思ってるんじゃない? 要は腹いせってやつ。主力のあの子がいなくなったら、どのみち事務所の方はもう畳まざるを得ないだろうしねー」
ニュースの話だと事務所としての信用が失墜。二楷堂ことはの炎上をきっかけに次々と事務所のメンバーが契約を解消しているらしいし、ここから立て直せる見込みは本当に薄い。
「ようやくわかったよ、それで、最初に戻るけど、空港には何があるの?」
「残念だけど、時間みたい。見えてきたよ」
繋に促されるまま視線を向けた先には、飛行機が一機飛んでいる。同じくらいの高さだし、着陸に向かっているのかも。
「ウチらはあれに乗って来るある人と、取引をするのが目的。ちなみにここで失敗すると、全部台無しだからー」
「え? 私取引の内容すら知らないんだけど?」
「まー、なんとかなるっしょ。話してて思ったけど、香織ってだいぶ順応性高いよねー。だから大丈夫! たぶん。あーでも基本は私がやるから、ダメそうだったらその場の雰囲気でフォローして」
「兼継もそういうところあるけどさ、みんなちょっと投げやり過ぎない?」
繋にも思うところがあるのか、苦笑いで流されてしまった。
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