表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼火 タナラの魔法使い  作者: つかばアオ
第3章「少年と魔女」
18/21

17

 ・17




 四年の月日が流れた。あの事件で最終的に見つかった遺体は七人ほどである。タナラ村に住む男性タイロン・シモンズに賞金稼ぎの集団男性六人だった。タナラ村付近の森では、タイロン・シモンズを含め賞金稼ぎの三人が銃殺されており、さらに焼死体が二人ほど発見された。タイロン・シモンズの住居である一軒家の近くでは、身体はほとんど無傷、頭部だけを失った二人の遺体が発見された。


 タイロン・シモンズとタイラー・マイエと共に暮らしていたとされる少女エマについてだが、「死んだ」とされている。


 遺体は見つからなかった。血痕だけが残されている。悲しいことだが、おそらく死食鬼が森にいたのだろうと推測される。事件以来、タナラ村でその姿を見たものはいない。


 同時期に、テルベラノ王国に一人の魔法使いが誕生する。






「坊主」帽子、白髪交じりの髪の毛、豊かな髭を生やした四十代ぐらいの男だった。彼は器用に煙草を口に咥えながらそう言うと、白い煙漂わせるそれを指で挟んで、その片手を上げてみせる。「坊主も同じ列車だったか。俺も同じだ」


 タイラーは俯いていた顔を上げた。さきほど街で出会った彼を覚えている。しかし、たいした返事はしなかった。「覚えている」と、わかるような素振りをしただけである。


「ひとりでどこにいくんだ」


 タイラーは片手に手紙を持っていた。ふたたび俯くと、折り目のついた紙を一目する。そこには『騎士団』の文字が書かれている。十四の誕生日、祝いの言葉が綴られていた。


「首都に用があって」タイラーは端的に答える。


「首都に? へえ、首都か。それなら俺のほうが先に降りることになるな。長い道のりだ」


 タイラーは手紙に目をやり、そのあと折り目に沿ってたたむと、それを茶色い封筒に戻す。服のポケットにしまった。足元に置いてあった大型の鞄を持つと、もう片方の手で別のポケットから首飾りを取り出す。


「それで、荷物は全部か? ずいぶんと少ないように見えるが」


 大事な首飾りだ。彼は真紅色の宝石を握り締める。


「大丈夫だ。これでぜんぶ。忘れたものはないと思う」


 彼は国が所有する数少ない魔術師として、この国で生きていく。若いだろう。されど、国中を回り、自身に与えられた仕事を熟していく。彼は学んできた。いまだ行方不明の両親のことも忘れず。指名手配の。


 手始めに、彼女に会うべきか。









 *****






 彼はジュナ(エマリンの母)の手によって延命させられ魔法使いとなった。そしてその結果、「許さない」とまで言ったテルベラノ王国の為に働くこととなった。


 言葉に関しては、幼さもありそのとき冷静な判断力を失って出た言葉ではある。だが、現実を直視してからもそうで、悲しみそのものは消えないだろう。多くを失った。


 起きた出来事を、彼はずっと忘れることはないだろう。


 つまり、彼はそのなかで事件後といえば、「父母共に魔術師」「もう一人の生みの親、赤森の魔女」「小さな魔法使い」として首都へと連れていかれたわけだが。


 働いているということは、彼は時間を掛けて向き合ったわけだ。


 王立騎士団と出会うことにより、騎士団とはまた別の魔術師の集団(魔術師会)に加わる道を選んだ。


 彼は一人にはならなかった。




「本気で言ってるんですか? このままでは、彼は誰一人、人を信じることができなくなります」


「悲しいことがいっぱいあったんだ。これからは良いことが待っている。はずだ」




 エマリンの母にとっては都合の良い状況にはなった。




 仕事中、タイラーは赤毛の女と出会う。エマに似た赤毛だ。彼よりも年上の女だ。魔法を使う、所属不明の謎の女だ。


 彼女も両親を探しているとか。


 とはいえ、それはまた別のお話。




 これは――その日、テルベラノ王国に一人の魔法使いが生まれた。そういうお話。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ