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鬼火 タナラの魔法使い  作者: つかばアオ
第1章「少年と竜」
1/21

【まえがき】

 彼は何も知らない。彼女は「娘」を探している


※「魔法使い」の話です。そこで完結。続きに関しては、今のところ書く予定はありません。22/01/10

※創作中の作品です。より良い作品とするため書き直しをする可能性があります。通知することなく、掲載をやめる可能性もあります。予めご了承ください。誤字、脱字、思い違いなどありましたら、指摘してもらえると幸いです。


※ちょっとだけ書く。22/12/05

・0




 それは一つの悲劇から始まった。

 とても痛ましい出来事だ。

 知る者たちは、二人のために墓を作った。

 森のなかだ。

 人は住まない森のなか。

 程度の差はあっても知る者は、あれからたびたび二人の為に祈りをささげた。




 どうか安らかに眠ってください。

 どうか、安らかにお眠りください。


 離れ離れとなり、その心はひどく怯えた。

 離れ離れとなり、その心はひどく傷付いた。


 今、あなた様の傍にはあなた様を愛してくれた人がいます。

 今、あなた様の傍にはあなた様が愛した人がいます。


 この先、どのような世界が訪れようとそれは変わることはないでしょう。

 この先、だれであろうと、それを引き裂くことは叶わないでしょう。



 どうか。安息を。







 二人を怨霊などと呼ぶ者もいたわけだが。




 *****




 その昔、テルベラノ王国の辺鄙な土地に村があった。

 豊かな森に囲まれ、少し歩けば町がある。そのような場所だ。

 その村には、七歳となる女の子がいた。エマリンという名の者がいた。

 彼女はとても明るく、笑みの絶えない子だった。

 それは幸せを運ぶ蝶のようで周りのひとを笑顔にした。

 天使のようでかわいかった。

 天使だと言うものもいた。


 そんな彼女の母は、彼女が生まれたことを非常に喜んだ。

 家族が増えた。

 皆も喜んだ。ごちそうを出して、その日といえば皆で祝った。

 なかなか子供に恵まれなかったというのもあってだ。

 彼女の母は結婚したあともそれをひどく悩んでいた。


 エマリンが生まれた後も、子を授かることはなかった。

 どう望もうと、どう願おうと、二人目とはいかなかった。


 諦めもあったはずだ。だから彼女の母は、大事に世話をしていた。

 娘が泣けばすぐさまと駆け寄っていく。夜となれば娘の髪を丁寧にとかす。

 眠れない日もあった。

 それでも、彼女の母は。


 夫は言った。元気に育ってくれたようだ。

 七歳の娘を見て、夫はそう言った。


 彼女の母も、同じことを思った。元気に育ってくれた。


 夫は姦通しているなど、噂があった。

 だが、それについては咎めることなどしない。

 女をよそで一人二人つくろうが、娼婦といるところを見たという話を聞くこともあったが、目をつぶる。

 何かを言う気にはなれなかった。

 思うところはあったとしても。


 橙色の羽をもつ鳥が、いつもよりよく鳴いていた日のことだ。

 エマリンは村の子供たちと遊んでいた。

 村でよくやる遊びだ。

 エマリンは村の外で、ほかの子供たちと一緒に楽しい時間を過ごしている。

 平和な一日だ。


 彼女の母はそのとき家事をしていた。

 夫はいない。仕事で外出している。

 その穏やかな姿は、幸せを歌っているようで、幸せを呼び込んで、次のことを考えている。


 あの頃ほどの若さはもう見られない。


 すると、村の住人が慌てたように走っていく。

 他のだれかが、問いかけた。

 どうしたんですか? 慌てているようですけど。


 事態を知った。

 死食鬼の群れが向かっている。



 エマリンを探した。しかし村のなかを探したところで、見つかるはずもない。

 慌てふためく村人たち。

 誘導する村の住人に尋ねてみる。エマを知りませんか。


 子供が数人ほど村の外へと行って、帰ってきていない。

 男共何人かで森のなかへとこれから入っていくところだ。


 私も。

 いや、あんたは安全な場所へ。


 その時にどういった行動を取るのが正しいのかわからなかった。

 向かうべきだと直感は告げていた。わたしが会いに行くべきだ。

 わたしが助けに行くべきだ。

 あの子は怖い思いをしているはずだ。



 わたしは向かうことができなかった。



 その日、エマリンは帰ってはこなかった。

 その笑顔、その姿を見せてはくれなかった。


 何も聞こえない。静かだ。


 死食鬼の群れは次の場所へと移動してしまったらしい。

 エマは生きているはずだ。

 待っているはずだ。恐かったはずだ。今も恐怖で震えているにちがいない。

 お腹も空かしている。

 待っている。


 森のなかへと入っていく。

 異臭がする。ここはまるで、なにも知らない場所のようだ。



 エマリンの母、ひたむきに生きてきた人だ。

 彼女もそれから村に帰ることはなかった。




 *****




 ある日、テルベラノ王国北東ドラの森に住む魔女の自宅に、妖精であり半人が一体、ハーピーがやってきた。


 ハーピーはこれといって嫌がる素振りを見せず、己の身体から体液といった魔女の求めるものを寄こし、その願いを聞いてもらおうとする。


 唾か、それとも羽根か? 髪か?


 森のようすがおかしい。それに、見慣れない者までうろつき出している。


 みんな言ってるんだ。

 あの鈍感なトロールもおかしいと思い始めている。




 赤森の魔女は身を入れて聞くと、その森に訪れる。


 エマリンの母に取り憑かれてしまう。










 『彼女は「娘」を探している。』



 これは、一つの悲劇から始まったお話だ。


 ずっと昔に起きた痛ましい出来事から、今日へと繋がっている。


 その日、テルベラノ王国に一人の魔法使いが生まれた。そういうお話。


 彼が魔法使いとなるまでの幼少時に得た経験は、その先の彼を形作る。


 良き魔術師とひとから云われるようになるのは、そういった過去があったから。


 関係ないと言うものもいるだろう。それでも。


 魔法使いの誕生と旅立ち。






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