02 クラスの地味な女の子は…⁉
「えっとさ」
「……」
学校で一番の陰キャ女子と付き合うことになってしまった。
多分、人生で不幸なのは自分なのかもしれないと、放課後の通学路を彼女と歩きながら、擢は考えてしまう。
付き合う相手が、ネットアイドルのアイリとかだった良かったのにと思う反面。自分なんかが無理なんだろうなとも感じていた。
でも、陽キャからの罰ゲームであり、陰キャ女子の鏡花とのデートを断ったりしたら、幾留から何をされるかわからない。
アイリの高額写真も人質に取られていて、変な言動も取れないのだ。
それと、幾留との約束で、本当に付き合っているのかを証明する必要性がある。毎回写真を撮り、どんなデートだったのか、レポートのようなものまで書かされる羽目になった。
擢も好きではない子と関わることに抵抗があるのに、それが一か月も続くなんてと、絶望感に襲われる。
それにしても、鏡花との会話がまったく盛り上がらない。
それどころか、話題を振っても、無視されるか、ボソッと言われる程度で、何も続かないのだ。
擢も陰キャなのだが、彼女はそれをさらに上回るほどの陰キャである。
基本的に前髪で瞳を隠しているし、不愛想で服装も今どきの女子高生らしくもなく、派手さもない。
隣を一緒に歩いている彼女を見るだけで、擢の心も暗く染まっていくようだった。
ああ、早く一か月経過しないかな……。
心の中で、そんなことばかり考えてしまっている。
鏡花のことは嫌いとか、そういうわけではない。
ただ、似ているところが垣間見れるからこそ、余計、嫌に感じるのだろう。
「……師南君」
なんの前触れもなく、彼女から話しかけられた。
「な、何かな?」
「ごめん、ね……こんな私と付き合う羽目になって」
「え、いや、そ、そんなこと思ってないよ」
擢は堂々と嘘をついてしまった。
本音を言ってしまったら、鏡花は絶対に傷ついてしまうだろう。
それを避けたかったのだ。
「嘘をつかなくてもいいよ……こんな私のために、無駄な時間を使わせてしまって」
「無駄だなんて……」
擢は誤魔化そうとする。
それにしても、鏡花は根がことごとくネガティブすぎると思う。
前向きな姿勢ではなく、常にマイナスな発言ばかりだった。
「私、昔からこんな感じなの。昔から何やってもうまくいかないし。人生が楽しいなんて思ったこともないし……でも、消えてしまうのも、両親に悪いし」
「そ、そうだよね……」
先ほどよりかは口を開いてくれるようになったものの、暗い話ばかりだ。
一か月間も、こんな鬱になりそうな話を聞かなければいけないのだろうか?
擢の心に重いものがのしかかる感覚に襲われる。
「私ね、もう学校に通うのも嫌だったの。高校にも行きたくなかったんだけど。両親が行きなさいって」
「そうなんだ。でも、高校くらいは出ておかないとね」
「うん……」
鏡花は優しく頷いた。
「でも、私ね。あの高校に通う唯一の理由があるの」
「理由?」
「うん」
彼女は声のトーンが変わったような気がした。
「こんな私だけど、学校に好きな人がいるから」
「え?」
突然の発言だった。
衝撃的な告白というべきか、擢は驚きを隠しきれず、目をキョロキョロさせ、戸惑う。
い、一体、誰⁉
陰キャな彼女から好かれる人なんて、相当運が悪いんだろうなと、内心考えていた。
でも、擢は自分ではないだろうと思う。
似た感じの陰キャを好きになるわけがない。
彼女も一人の女の子であり、イケメン風の男子生徒がいいに決まっている。
「ご、ごめんね……なんか、こんなことを話して。陰キャ女子の恋愛事情なんて、需要なんてないよね……」
「え、いや、その……さっきよりかは会話できたし、むしろ、その、話題を振ってくれてよかったと思うよ」
擢は何とか誤魔化せる言葉を何とか見つけながら口にしていた。
辛い……。
自分の心に嘘をついて会話し続けるのは苦しいし、疚しく感じるのだ。
早く帰宅したい。
でも、どこかによって、デートをしたという情報を、スマホの写真に収める必要性があった。それと、鏡花とのデートの感想も書く必要性がある。
会話して、そのまま終わりということにしたら、何の情報も残せずに終わってしまう。
コンビニとかでもいいから、どこかに立ち寄らなければいけない。
そう思い、擢は辺りをチラチラと見渡す。
通学路には、コンビニと、ドラックストア、スーパー、喫茶店などがある。
そんなに都市部にある学校ではないため、比較的あっさりとした店屋しかなかった。
擢は、平日そんなに財布にお金を入れていない。
気軽に入れる場所を選ぶことにした。
「えっとさ。鈴木さん? お腹とかさ、減ってない?」
「私、そんなに」
「でもさ。あそこにコンビニがあるし、行こうよ」
「そんなに言うなら……」
地味な彼女は、しょうがなく頷いてくれた。
擢は彼女と一緒にコンビニ入る。
店内には、一人、二人しかいなかった。
唯一の救いは、同じ学校に通っている人がいなかったことだ。
擢は彼女と一緒にお菓子コーナーに向かう。
「何にする」
「……」
鏡花はじっくりとおとなしく、お菓子のパッケージを見ていた。
「ねえ、鈴木さん?」
「え、な、なんでしょうか?」
「鈴木さんは何が好きなのかなって思って」
「私は、チョコが好きかな」
「へえ、そうなん――……え?」
擢は彼女が手に取ったチョコのお菓子を目にし、目を白黒させた。
「何かダメだった?」
「そうじゃないよ」
鏡花が手にしているものは、ネットアイドルのアイリが好きなお菓子と同じだったからだ。どこからどう見ても、パッケージも同じであり、見間違いようがない。
「普通に買ってもいいよ。じゃあ、僕は、これにしようかな」
擢は棚にあった、スナック系の袋菓子を手に取った。
そのお菓子は、ネットアイドルのアイリが宣伝している商品の一つ。
ピンク色のロングヘアに、魅力的な笑顔が特徴的。
申し訳ないが、今隣にいる鏡花とは正反対の容姿をしており、天と地ほどの差があった。
鏡花がもし、ネットアイドルのアイリだったら途轍もなく幸せだっただろう。
擢はお菓子のパッケージに表示されているアイリの写真をじっくりと見る。
そのひと時だけ、心にオアシスを感じた。
「鈴木さん、行こうか」
「う、うん」
あれ?
一瞬だけ、鏡花の瞳が見えた。
たった一瞬の出来事だったが、その綺麗な瞳は、ネットアイドル――アイリの瞳とよく似ている。いや、似ているとかではなく、同じにさえ感じたのだ。
ま、まさかな……。
擢は何かの見間違いだと思い込む。
あんな美少女が、身近に存在するなんてありえないからだ。
普通に都会の方の学校に通っているはずである。
そう信じて疑わなかった。
二人はレジで会計を済ませた後、コンビニの前に出る。
そして、購入したものをスマホの写真で撮影し、幾留のスマホに送信した。
陽キャの幾留は、一か月間罰ゲームだとか言っていたが、多分、いつも通り、嘘だと思う。
擢はため息を吐き、鏡花と一緒に、岐路につくのだった。