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Final 明かされたもう一つの姿…


「ねえ、ようやくわかった?」

「ど、どういうことだ⁉ ま、まさか……陰キャブスのお前が、あのミロワールのアイリなのか⁉」


 幾留は驚き交じりの口調で、前髪を隠した状態の陰キャ風の彼女――鏡花を見やっていたのだ。


 ありえない。そんなのは信じたくないといった顔をする幾留は鏡花の姿を、二度、いや、三度見ほどする。目を白黒させ、動揺を隠せないようで口をうまく動かせずにいた。


「は、は、アハハ……」


 幾留は壊れた感じに笑う。


 いや、まさか、ここに。この学校に、トップレベルの人気ネットアイドル。そのグループの一人、ミロワールのアイリが通ってるわけがないと。

 絶対に信じないといった顔をし、さらに大きく笑ったのだ。


「いや、まさか、だよな。その声、どうせ、ネット上から拾って、スマホとかに録音した声だろ? なあ、オタク」


 幾留は嘲笑うように、擢を見下す。


「違うよ」

「は?」


 幾留の表情が歪んだ。


「さっきのアイリの声。本当だよ。ネットで拾った声じゃないから」


 擢は強気な姿勢で、幾留を睨んだ。

 鏡花のためにも、そして、アイリの想いに答えるためにも断定的に発言したのだ。

 迷う必要性なんてない。


「ネットで拾った声じゃないだと⁉ じゃあ、なんだ? オタク、お前、アイリと知り合いなのか?」

「まあ、そんな感じさ」


 擢はストレートに言う。


「え、あのオタクが、アイリと知り合いだって」

「なんだよ、それ」

「ありえないけど、それが事実だったら、すごそうだな」


 教室にいるクラスメイトも、次第にざわめき始め、うわさ話をするように、やり取りを交わしていたのだ。


「じゃ、じゃあ、どこにアイリがいるんだよ。録音した声じゃないなら、どこにいるって聞いてんだよ」


 幾留はアイリのことが好きなのだ。

 だから、信じたくない。


 そんな強い思いが、擢の心にも響いてきた。

 けど、本当に好きなら、彼女のどんな姿でも好きになるはずである。


 しかし、今の幾留は気づいていない。

 正面に、その人物がいることにだ。


「だから、ここにいるじゃないか」

「は? オタク、俺をからかってるのか?」


 幾留は強気な姿勢になる。


「このブスの陰キャ女子が、アイリなわけないだろ。嘘をつくのもいい加減にしろ」

「嘘じゃないし」


 前髪を下ろした状態の鏡花が口を開く。


 擢の言葉に反応するように、彼女は前髪を上げた。

 そして、アイ特有の輝かしい瞳があらわになる。

 見るものすべてを魅了するほどの眼力に、クラスメイトはくぎ付けになっていた。


「おお、その瞳、顔付き、まさに、ミロワールのアイリだ」

「髪の色合いとかも、長さも違うけど」

「確かに。でも、顔と、声もそっくりだ」


 男女問わず、皆、興奮気に、その光景を周りで見ていたのだ。


「ねえ、幾留?」

「な、なんだよ。というか、アイリだったのか?」


 鏡花から変貌を遂げたアイリ。

 彼女は幾留と堂々と対面する。


「ねえ、私のこと、散々言ってくれたよね?」

「いや、それは違う」

「違わないわ。幾留は人を見た目でしか判断しなかったじゃない。雰囲気が暗いとか、ブスだとか、人を外見で判断して、今まで関わってきた中で最低な男よ」


 アイリは可愛らしい外見の状態で、強気な言葉で言い切ったのだ。

 対する幾留は、まさか本当に彼女がアイリだと思っていなかったらしく、言い返すセリフすら、脳内に浮かんでこないようだった。


「あなた、本当にアホよね」

「す、すいません」


 幾留は手を返したように、感情を変えた。

 自分の好きな存在だったことで、先ほどまでの攻撃的な態度を隠す。


「本当にすいませんでした。本気で謝るので、どうかッ」

「は? 謝っても、私の心を傷つけた代償は重いわよ」

「へ? どういう代償でしょうか。どんな代償でも受けますので、どうかッ」


 今の幾留は陽キャらしくない。

 単なる奴隷か、それ以下の存在のように思えてしまった。


 本当に滑稽な存在。

 擢は彼の顔を見て、正直なところ精々したのだ。






「んんッ、嫌だ、俺はアイリのことが好きだったんだ。俺はアイリのデビュー当時から応援していたんだ。なのに、な、なんで、こんなことにッ」


 幾留の強い思いが教室中に、響き渡ったのだ。

 もう、失ったものは戻らない。

 崩れ去った関係性も修復されることなんて多分ないだろう。


「なあ、幾留って、あんなにダサい奴だったか?」

「あーあ、無理だわ。今までは一緒にいたけど、幾留とは今日限りで絶縁だな」

「そうだな。もう、無理って感じ」


 皆から辛辣な言葉を投げつけられていた。

 幾留はその場に崩れ落ちるように、教室の床に膝まづく。


 今まで多くの人に暴言を吐いて、馬鹿にしてきた末路だろう。

 こればかりは、自己責任といった感じだ。

 誰も同情なんてしてくれない。


「なあ、月渚……」


 最後の希望であるクラスメイトの女子、芹沢月渚へ、助けを求めていた。

 みっともない姿で、土下座したまま、彼女を見ていたのだ。


「はッ、幾留みたいなの、最初っからタイプじゃないし。というか、こっちみんなよ、雑魚」

「……」


 いつも親し気にしてくれた彼女からも見放され、教室で一人だけ、取り残された感じになっていたのだ。

 誰も助けるといった素振りを見せることなく、ひそひそと嘲笑うかのような声が次第に聞こえてきた。


「俺は……」


 苦しみの声だ。

 幾留はその場から立ち上がり、勢いよく教室から、いなくなった。

 居づらくなったのだろう。

 擢はその現状を見、可哀想な気がしたものの、仕方ないのだと思うのだ。


「そ、それにしても、マジで鏡花が、ネットアイドルのアイリって本当なのか?」

「マジで⁉ 夢なのか? 本当に現実か⁉」

「す、すごい」


 静かになっていた教室が熱を帯びたように、湧き上がるほどに、明るくなるのだ。


「う、うん……こんなこと、言っちゃいけないけど、ね、秘密だからね♡」


 アイリはそういうが、すでに遅い。


 先ほどの会話を聞きつけた、他のクラスの方々も教室の扉の所に集まっていた。

 すごい騒ぎだ。

 コンサート会場のように、荒々しい感じである。


「あれ……なんか、結構な騒ぎになってる……?」

「そ、そりゃそうだよ。アイリは、ネットアイドルって言っても、トップレベルのグループ、ミロワールに所属してるんだしさ。当然じゃないかな」


 擢は緊張した口ぶりで告げた。


「あ、あははは……そ、そうだよね。だ、だよね……まあ、もう、隠しようがないよね。こうなったら……」


 アイリは苦笑いをしてみせた。

 なんで、今日に限って、皆、学校に登校する時間帯が早いのだろうか?

 わずかな疑問を抱きながらも、アイリは擢を見た。


「ね、ねえ、一旦、逃げよ」

「え? ちょっと。どういうこと、アイリさん」

「いいの。今はちょっと、この環境は無理ッ」


 アイリは恥ずかしかったらしい。


 普段なら、キスをするのも絶やすくやるのに、大勢の人に直接まじまじと見られるのには、抵抗が無いようだった。

 変わってる。

 擢はそう思った。


「ねえ、早くッ」


 クラスメイト、他のクラスの方々をすり抜けるように、擢はアイリに腕を引っ張られ、教室を後にする。


「ねえ、サインは?」

「私も欲しいッ」

「まってよ、アイリー」


 廊下を走っていると、背後から皆の声が響いてくる。

 僕の彼女は、人気ネットアイドルだ。


 それが今明かされた。

 これからどうなってしまうのだろうか?


 擢はアイリと手を繋ぎ、廊下を走りながら、今後のことを考えていた。


 こんな生活も悪くないのかもしれない。


 擢はアイリを見て、思う。

 二つの姿を見せる彼女が、どんな状態に追い込まれても応援し続けようと――







「自分の作品考察」2022.01.11


 今回の作品はネットアイドルというモノを扱いましたが、なかなか、うまく表現できていなかったかな?

 と、自分も、そんな印象を受けました……。

 あと、この小説は打ち切りみたいな感じの結末になりました。申し訳ないです。

 八話くらいから、これ以上、展開するのは難しいと感じたからですね。

 全部書き終わってから、読み直してみたんですが、今まで書いた作品の中で、あまり出来がよくなかったかもしれませんね。

 やっぱり、世界観とかもそうですが、“ネットアイドル”をどういう風に描けばいいのか、自分の中で確立させることができていなかったのも要因の一つだと感じます。

 一応、今回の裏コンセプトとしては、“鏡”でした。

 現実と、ネット画面の非現実。その狭間を鏡として例えて、表現してみました。

 なので、アイドルグループ名の“ミロワール”は、鏡という意味です。

 さらに、ヒロインが一人でありながら、二つの名前を持っているわけで。

 その二面性を表現するのは、結構難易度が高いといいますか。実際に書いてみて、これは映像がないと伝わりづらいと思いました。

 一つの描写の中で、複数の情報を表現しないと、成立しないような感じなので、多分、小説として表現するのには限界があったと感じました。

 すでに別の作品を投稿しています。

 今回はこれで以上にさせてもらいます……。


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