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01 アイドルの美少女と、地味な隣の席の女の子


「今日も私の配信を見てくれてありがとうね♡」


 スマホの画面上に映る美少女は、ネットアイドルのアイリである。

 彼女はネット上で活動しているものの。実は、とあるメンバーの一人であり、月一で舞台とかで歌ったり、演技をしたりと、忙しい生活を送っているのだ。


 今、自室のベッドの端に座り、スマホの画面を見ている師南擢は、彼女のファンだったりする。

 他にも個性的なメンバーもいるのだが、その中でアイリが一番好きだったのだ。


 ピンク色のロングヘアスタイルに、眩しい笑顔。そして、ネット配信の際、変なコメントじゃない限り、反応してくれる優しさがあったのだ。

 数多くのネット配信を見ている人ならば、普通だと思うかもしれないが、擢はそんなにモテたことがなく、寂しい青春を送っていた。


 そんな彼からしたら、自分が書いたコメントに触れてくれるだけでも嬉しく感じるのだ。

 しかし、擢は数多くいるファンの中の一人であり、多分、気にされていないのだと思っていた。


 アイリは愛想もよく、人懐っこいところがあるので、誰かからも愛される存在。

 そんな子が、陰キャで冴えない擢と付き合うわけがないと思う。

 擢は自分を変えたいと思うが、なかなかそんな勇気もないのだ。


「はああ……こんな僕が、付き合えるわけなんてないよな」


 そもそも、どこに住んでいるのかもわからないし、事務所との繋がりがない故、一生付き合えないだろうと悲観的になってしまう。


 それに、今日の配信で、好きな人がいるという発言を、間違って口にした放送事故なんかもあったりした。

 多分、その好きな相手は、アイリと相応しい存在なんだと思ってしまう。


「今日の配信も楽しかったけど、なんかな……苦しいな。誰なんだろ、好きな人って」


 擢はベッドに横になった。

 ネット上のアイリの慌て具合、どう考えても嘘じゃない。

 そんな気がした。


「もう寝よ」


 擢はスマホを閉じ、布団の中に入って就寝するのだった。






 翌日、擢は教室に入った。

 朝のホームルームまで、大分時間がある。

 ゆえに、教室には殆どの人が登校していないのだ。

 唯一あの人物らを除いて。


「それでさ、今日は何をする?」

「ああ、そうだな。いつも通りだとつまんないし、新しいことでもするか?」

「じゃ、なんかのゲームしようぜ」

「どんな?」

「あれだよ、あれ」


 教室の後ろの席に集まり、会話するのは陽キャの三人。


 そのリーダーは、佐々波幾留だ。

 イケメン風の男子生徒であり、女子からも人気のある存在。

 擢は彼と視線を合わせないように、サッと、いつも通りの席に向かい、座る。


「今話題のさ、罰ゲームさ」

「ああ、あれな」

「ん? なんだよ、お前、さっさと行けよ」


 陽キャらが会話している際、一人の仲間が声を荒らげる。彼の視線は、近くを歩いていた女の子に向けられていた。


「ご、ごめんなさい……」


 その子は申し訳なさそうに俯き、おどおどした口調。


「あッ、――ったく、キモイしさ。いつまで学校に来たんだよ。教室が変な空気で汚染されんだろ」

「お前、その言い方、キツすぎだろ」

「でも、しょうがねえんじゃね」


 三人の陽キャは嘲笑っている。


 ショートヘアの前髪で目元下まで隠した女の子は、鈴木鏡花。

 クラスメイトであり、基本的に自発的に他人へ話しかけることのない女子生徒である。


 そんな彼女は学校で一番の地味な陰キャ女子として有名でもあった。

 それは、去年この学校で行われた美少女コンテストに参加したことが一番の原因。

 鏡花は陽キャ女子らの悪戯により、強制参加させられ、その醜態を晒してしまうことになったのだ。


 それが理由で、学校中に、その存在や噂が広がってしまい、鏡花は苦しい学校生活を送る羽目になっていた。

 地味な彼女はさらに居場所がなくなり、さらに陰キャというモノに磨きがかかってしまった感じだ。


「……ごめん、なさい……ごめんさない」

「ちッ、ブスの分際で学校に来るなよな」


 追撃するかのように、幾留の辛辣な言葉が、彼女の心に突き刺さる。


「あーあ、この学校に、アイリみたいな子がいればな」


 アイリは擢も好きなネットアイドルである。

 意外にも陽キャのリーダーと似たような趣味をしていたりもするのだ。


 だが、陰キャと陽キャ。同じ趣味をしていても、辺りの反応は違う。

 陰キャがアイドル好きだというと、キモイとか、奇異の目を向けられたりと散々である。

 ただ、陽キャが言うと、なぜか、女子との会話が盛り上がるという、意味不明な現実が生じてたりするのだ。


「というか、陰キャブス。いつまで、幾留様のところにいるのよ。さっさとどっかに行け」


 教室に入ってきた、ショートヘアの陽キャ女子――芹沢月渚による上から目線の言葉が、鏡花の心を襲う。

 彼女の家柄は裕福であり、お金にも困ったことなんてない。いわゆるお嬢様風の女子生徒で、親しい関係でない限り、彼女に逆らう人なんていないのだ。


「ご、ごめん……すぐに行くから」

「はッ、最初っからそうしていればいいのよ」


 芹沢は強気な姿勢で舌打ちをするものの、幾留の前では態度が変わる。


「ねえ、今、皆でどんな話をしてたのー」

「なんかのゲームをするって話さ」

「へえ、私もやりたい」


 また、面倒な存在が増えたと、自分の席に座っていた擢は思った。






 陰キャ女子である鏡花が擢の方へ近づいてくる。廊下側の席に座っている擢の隣が彼女の席なのだ。

 擢も陰キャではあるが、内心、絶対に付き合いたくないと思っていた。


 やはり、デートして遊ぶ彼女は、ネットアイドルのアイリみたいな子が良い。

 可愛らしく愛嬌があり、一緒にいて不快にならず、満面の笑顔を見せてくれる女の子の方がいいに決まっている。


 擢は、隣の彼女を見ることなく、スマホで、アイリの今月のスケジュールを確認していた。


「おい――」

「……」


 擢はジーっと、スマホ画面を見ていた。


「おい、オタク、聞いてんのか?」

「え⁉ な、なに⁉」


 擢はアイリのスケジュールに夢中になっていて、幾留の呼びかけに気づかなかったのだ。


「なあ、オタク。無視か?」

「ち、違うよ」

「だったら、来い。お前にやらせたいゲームがあるんだ」

「ゲーム?」

「ああ」


 幾留に呼び出され、陽キャらがいる席へと移動することになった。

 辺りにいる陽キャらは、擢の姿を見るなり、ニヤニヤとしていて感じが悪い。

 いつも通り、何かをさせられるのだろう。


「なあ、お前、ゲームも好きだろ」

「う、うん……一応は」

「じゃあ、これを俺らとやろうぜ」

「な、なんで?」


 擢は聞き返す。


「お前、あのことを忘れたのか?」


 幾留が耳元でボソッと呟く。

 あのことだ。


 水着姿のアイリの写真のことであり、それを彼に見られ、奪われてしまったのだ。その写真はオークションとかで、数百万円で取引されるほど価値のあるモノ。


 今はその写真を人質に脅されているのだ。

 下手なことをしたら、二度と戻ってこない。


「わ、わかったよ」


 擢はしょうがなく頷く。


「早く、早く、オタクやって」


 陽キャ女子、芹沢もやるように強要してくるのだ。

 それは王様ゲームをオマージュした遊びであり、四枚のカードから一枚を選ぶもの。


 基本的に赤色のカードだが、例外的に黄色と黒色があった。

 黒を引いた場合、何かの罰ゲームを受ける。

 その罰ゲームを決めるのは、黄色を引いた者。


「いくからな、いっせーのーで」


 陽キャ男子三人を含めた擢が、机に置かれた裏返ったカードをめくる。


「俺。赤」

「俺も」

「お前は?」


 幾留に問われる。


「……黒色」

「はッ、お前、運が悪いな。俺、黄色」

「んッ……」


 擢は絶句した。

 言葉が出なくなったのだ。


「おい、どんなことを言うんだよ」


 辺りにいる陽キャが引き立てる。


「そりゃ、決まってんだろ。オタク、あのキモくて陰キャブスと一か月間デートしろ」


 幾留は、鏡花に聞こえるような声で、堂々と口にしているのだ。


「なあ、いいだろ。どうせ、お前、童貞で彼女ともいないんだろ? だったら、付き合ってみろよ」

「……う、うん」


 擢は頷く。


 もう逃れられないと悟った。


 この四枚のカードは、参加者が見ている前でシャッフルしてから、テーブルに置き、そこから始めることがルールだ。

 けど、あらかじめ置かれていた。

 始めから罠に始める気前提だったというわけだ。


 擢は仕方なく、学校で一番の陰キャ系女子と付き合うことになった。

 こんなにも苦しい青春を送る羽目になるなんて……。


 心の中でため息を吐くのだった。


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