第8話 Aクラスの担任
リンクを中心に盛り上がっていた入学式典の会場だったが、すぐに各クラスの案内人が現れそれぞれ教室に案内するため新入生に声かけを始めた。
そのおかげでリンクはなんとか人混みから解放してもらえた。
「疲れた…」
「だ、大丈夫だった?」
解放されたリンクにようやく近づけたソフィアが声をかける。
「うん…学校では目立たないように過ごすつもりだったんだけどな」
「しょうがないよ……。
私の方でも、いろいろ調べてみるから。
残念ながら目立っちゃったリンクと別のクラスだし……」
寂しそうに髪をいじりながらソフィアが言った。
そのとき、なかなか集まらない新入生に痺れを切らせたのかAクラスのバッチと、案内人とかかれた腕章をつけた上級生が一歩前にでた。
「Aクラスの諸君!
ガイダンス教室に案内する。私についてきたまえ!」
Aクラスの案内人は、明らかに自分についてきていない式典のヒーローを見ながら言った。
リンクは慌てて声の方に向かう。
「ありがとう、ソフィア。
……それじゃあ、またね」
「うん、またね」
走るリンクの後ろでは、心配そうな顔をしたソフィアがリンクに手を振っていた。
案内人について校舎を進むと、小さな教室にたどり着いた。
「好きな席に座ってくれたまえ。」
案内人はそれだけ言うと教室をでてどこかへ行ってしまった。
彼は偉い生徒なのだろうかと思いリンクはすれ違い際に案内人を観察すると、胸元にはクラスバッチだけでなく学校の紋章のようなバッチもついていることに気づいた。
「彼は3学年の首席なんだよ。」
後ろから声をかけられリンクは振り向く。
そこにはにこにこと笑顔浮かべたエマと、仏頂面でそっぽを向いたアーサーがいた。
「やあ、リンク。また会えて嬉しいよ!
まさか同じクラスになれるなんて」
リンクの返事も待たずにエマはリンクにハグをした。
「エマ、こちらこそ会えて嬉しいよ
……と、アーサー?」
エマをさりげなく剥がしつつ、アーサーに一応目を向ける。
しかし、アーサーと目が会うことはなかった。
「……。」
「ほら、アーサーもリンクと仲良くしてよ」
二人の間にエマが入って右手でアーサーの手を、左手でリンクの手を掴み、なんとか握手させようと引っ張る。
が、すぐにアーサーはエマの手を振り払った。
「クラスが同じだからといって、仲良くする必要はない。」
それだけ言うとアーサーは教室の中を進み、誰も座らない教卓前の席に座った。
エマとリンクは空いていた一番後ろの席に座った。
「エマはアーサーの隣に座らなくていいの?」
「うん、アーサーは一人でも大丈夫だから。
……普段はこんなに酷くないんだけど、リンクの前だとなんか意地を張るみたいだし。
私としては二人に仲良くなって欲しいけど、アーサーも言ってた通り無理に仲良くすることもないから…」
「……僕が仲良くしようとしても、向こうにその気がないならどうしようもないからね。」
と言いつつも、リンクもアーサーと仲良くする気など全くなかった。
(学校生活に支障が出ることもないだろうし、どうでもいいや)
誰とでもとりあえず仲良くしようとするリンクにしては珍しい対応だった。
「それよりも、エマはなんで僕なんかの隣にきたの?
アーサー以外にも知り合いはいるようだけど」
貴族仲間なのか、入学式典前にエマは色んな新入生と会話をしていたのを思い出した。
「ああ、それは親の仕事関係の知り合いだから挨拶してただけだよ。
一応、私も貴族だから。
でも、アーサー以外はみんな別のクラスになっちゃったね。」
「そうなんだ……」
リンクは貴族でもAクラスに入れるわけではないという事実に少し驚いた。どうやらかなり実力主義の学校らしい。
「それに僕なんかって言うけど、リンクは異常な魔力をもった今年一番注目されてる新入生なんだから。」
「それはそうだったけど、別に今は注目されてないよ。」
ほら、とエマに教室内を見るように促す。
式典会場では周りにたくさん人が集まってきてリンクを称賛してくれていたが、それはAクラス以外に分類された生徒達だった。そのためか、Aクラスバッチを持つ生徒しかいないこの教室内で、特にリンクに称賛の声をかけてくるものはいなかった。
「それは単純に、Aクラスの生徒達は皆自分の魔力が一番だと思ってこの学校に来ているわけだから、ちょっとしたライバル心とプライドで気にしてないふりをしてるだけだよ。
ほんとはみんなリンクに興味があるはずさ。
あとは、横に貴族の私がいるから話しかけにくいんだと思う」
エマは周りに聞こえないようにリンクの耳元に囁いた。
(嫌われてるわけではないようだけど、注目はされているってことか____)
一応、常に誰かに見られていると思って動こうと、リンクは考えた。
「貴族と会ったことがない人も多いから、どう接していいかわからないのもあるのかな
まあ、学校内では身分は関係ないってなっているはずだけど。
___ということで、遠巻きにされているもの同士だからリンクの隣に座ったの」
相変わらず笑顔でエマは言う。
実際には、単純にイケメンであるリンクに声をかけたそうな女子生徒がいることに気づいてはいたが、あえてエマは何も言わなかった。
(貴族と仲良くなれたのはいいことだけど___)
一方でリンクは、エマの言葉には「つまりぼっち同士仲良くしようぜ」と言う意味も含まれていると思い込み、少し落ち込んでいた。
しばらくすると、3学年の首席らしい案内人の男が一人の男性を連れて戻ってきた。歳は30代くらいに見えるが背が高く、所謂女子にモテそうな顔をしている。
「Aクラスの諸君!
こちらが君たちの担任を務められるジョージ・ランバート先生だ。
先生の言いつけは必ず守るように!
では、ランバート先生、お願いします」
案内人は勢いよく言うと、キラキラした目で先生と呼んだ隣の男に深くお辞儀をした。
(この先生をかなり尊敬しているようだ。)
案内人で首席を務める男は余程真面目な男なんだろうとリンクは思った。
爽やかな笑顔でランバート先生が答える。
「ありがとう、マルサス君。
君は戻っていいよ。」
「はい! ありがとうございました!」
再度先生にお辞儀をし、マルサスと呼ばれた案内人は嬉しそうな顔をしながら教室を後にした。
「さて!新入生のみんな。
まずは入学おめでとう!
君たちAクラスの担任のジョージ・ランバートだ。
学校生活で困ったことがあればどんどん私に聞きにきてくれ。」
先生がウインクをすると、教室の女子達が少しざわついた。
「魔法学校の先生ってみんなこんなキザな感じなの?」
「そんなことないよ。
兄達に聞いてた先生の中にはなかった名前だから、新任の先生なんだと思う。」
リンクの小声での質問にエマが答えた直後、リンクはランバート先生と目が合った。
まずい、と思ったが、時すでに遅し。
「そこの少年!
わからないことは小声で横の友達に聞いたりせずに、私に直接聞きに来なさい。
私はいつでも君の味方だからね。」
爽やかな笑顔で、男であるリンクに向かってもしっかりとウインクを飛ばす。
ウインクが飛んだ先を周りの女子生徒が羨ましそうな目で確認したが、その先にも式典で注目の的になっていたイケメンがいることに気づき、顔を赤らめてなんとも言えない表情で二人を見比べていた。
またしても無駄に注目を集めてしまったと、リンクは肩を落として反省した。隣で必死に笑いを堪えながら「さすがリンクだね」と小声で揶揄うエマを軽く小突き、仕方なく注目に応えて愛想笑いを浮かべた。
しれっと数話ごとにヒロインを乗り換えて行く主人公、リンク(そんなつもりはなかったのに)。