第6話 街中の遭遇
ゴードンとソフィアの暮らす家は、恐惨の森から少し離れたリースベルグという街中にあった。
長らく森とその最寄りの小さな町しか見ていなかったリンクは、行き交う人の多さに少し眩暈を感じた。そして道行く人だけでなく、鴉や梟のように空を箒に乗った人が飛んでいる。
「そういえば、僕箒にのって空を飛んだことないや」
「あ、それはね。移動系の魔法と同じで街中で箒を乗るのも許可があるからだめなの。
それも学校で練習して身につけられるよ。」
人混みで埋もれかけていたソフィアがなんとか顔をだし答えた。
この日、リンクとソフィアで学校で必要になる物の買い出しに来ていた。この街で買ったものは、勝手に学校に送ってくれるという、非常に便利な仕組みだ。
とはいえ、一年生ということもあり必要なものは多い。ソフィアと手分けをして店を回っていた。ポッケから必要なものが書かれたメモを取り出して確認する。
「教科書とか薬品は買えたから後は___」
「制服とか?」
「あ、そうだ!制服買わないとね。
……ええと、お店は」
「ここじゃない?」
リンクはそう言うと、また埋もれかけたソフィアの手を引っ張りお店の前に連れてきた。
小さな古びた家のような作りだが、看板にでっかく「学生制服専門店」とお世辞にも上手いとはいえない手書きの文字で書かれている。
「さっきここを通った時にこの看板が見えて気になってたんだけど」
「あ、多分ここだ。よく気付いたね。」
「まあ、ソフィアより少しだけ背が高いからね」
もー、といいリンクの方を見ながら頬を膨らませたソフィアは、お店の扉を引いた。
すると_____
中から勢いよく飛び出してきた何かがソフィアに向かってきた。
「きゃあ!!」
咄嗟にリンクは悲鳴をあげたソフィアの腕を引き自分の両腕の中に閉じ込めた。
ドンっとリンクの腕に人がぶつかる衝撃がくる。
「おっと!」
ぶつかった先を見ると、金髪の少年が倒れてた。
どうやら少年はリンクより小さかったため、ぶつかった衝撃で倒れてしまったらしい。
ソフィアはそれを見て少年に手を差し伸べようとした。
「君、大丈_____」
パシッ
ソフィアの手が少年によって振り払われた。
「入り口で突っ立てたら邪魔になるって、それくらい鴉でもわかるだろ。」
少年は下からソフィアを見返してそう言った。
リンクと接していて忘れていたが、そもそもソフィアは自分が異性が苦手だったことを思い出し、血の気が引いていく。
リンクはソフィアがよろける前に片手で支えつつ二人の間に立った。
「ぶつかってきたのはそっちだろ。
ソフィアに謝ってくれる?」
初対面の人間に愛想を振りまくリンクとは思えない表情で言葉を吐き出した。
これに対して倒れた少年も、無表情の中に苛立ちを含ませた調子で答える。
「そもそも、そんなとこにいるのが悪い。
俺が謝る必要はない。」
「ソフィアはなにも悪くない。
お前が謝るんだ。」
2人の押し問答が始まった。
ソフィアは自分のせいだと思いつつも初対面の少年に向けられた悪意にショックを受けて震えることしかできなかった。
(どうしよう、誰か)
互いに引かない2人が掴み合いそうになったその時___
「すとーーっぷ!!!」
「「いて!!!!!」」
ガツンと、二人の頭上に大鍋が降ってきた。
頭を押さえてうずくまる2人の間に、箒に乗った少女が現れた。
(か、かわいい……)
ソフィアがそう思ってしまった少女は、肩まである金髪の髪をなびかせ箒から降りて、うずくまるリンクの前に駆け寄った。
「うちのアーサーが迷惑をかけてごめんね?
根は悪い子じゃないんだけど、どうも頭が固くて。」
「おい……適当なこと言うな」
アーサーと呼ばれた少年が頭を抑ながら恨めしそうに文句を言った。
「いや……僕もちょっと、彼女に危害が加わりそうだったから意地になったかも。
止めてくれてありがとう」
リンクはよろめきながら立ち上がり、そう答えた。
「ちなみに君たちも____アルバート魔法学校に入学するのかな?」
「え、なんでそれを……」
少女からの問いかけにはソフィアが答えた。
そういえば、そんな名前の学校だったっけとリンクを思い出していた。
「このお店っていまはアルバートの制服しか取り扱ってないからね。
実は、私たちもそうなんだ。
同じ学校の一年生になるんだし、仲良くしてほしいな」
にこにこと笑顔を絶やさず少女はいった。
(とりあえず、同級生とは仲良くしておくべきかな……)
リンクは一瞬頭を巡らせて、自己紹介を始めた。
「そうだったんだね。僕はリンク・ブラウン。
こちらはいとこのソフィア・リース。
よろしくね。」
「ああ、リース家の子だったんだね!
私はエマ。向こうのちっちゃい男の子がアーサー。
実は私たちもいとこなんだ。
こちらこそよろしくね!」
「ちっちゃいは余計だ。
……そもそもこんな奴らと仲良くなる必要はない。」
相変わらず、アーサーはこちらに敵意を向けてきていた。
(というか、リース家ってこの世界で有名な家とかだったりするのか?普通の家に住んでいたけど……)
「ごめんね、アーサーはちょっと今朝家で色々あって機嫌が悪いだけなんだ。
気にしないで。」
「エマ、余計なことを言うな。
……俺はもう自分の買い物は済んだから先に帰る。」
それだけ言うとアーサーは壁に立て掛けてあった箒に跨り軽やかに飛びだった。
飛んでいくアーサーを目で追いながらエマも箒に跨った。
「ありゃーー、今日は相当だめだな。
いろいろとごめんね。
とりあえず、また学校であったらよろしく!」
「う、うん。またね」
同じく箒に跨り空に飛んでいくエマに怯えつつもソフィアは手を振った。
アーサーの態度に釈然としない部分はあるが、エマと知り合えたのは悪いことではないだろう、とリンクは考えていた。
「ソフィア、大丈夫だった?」
「あ、うん……ごめんね、私のせいでトラブルになっちゃって。」
「いや、ソフィアのせいじゃないよ。
……にしても、さっきエマって子、同級生になるとか言ってたよね?
学校まだ通ってないのに、なんで箒に乗れているんだ?」
「……………あ!もしかして。
あの子達、この地方の有力貴族の子息だったのも………
確か、貴族特権があると問題なかった気がする。」
「なるほどね…。
だからあんなに態度がでかかったのか。
貴族ってやっぱこの世界でも偉いとされているの?」
「う、うん…。貴族自体が代々魔力の高い家系で、この世界では魔力の高さが地位に関わるものだから……」
「そっか」
貴族とやらが学校にいるのは丁度いい。
この世界の仕組みや魔法についても一般人より詳しいはずだ。
しかし____
「やっぱアーサーはむかつく」
上を向き呟く。
他人に対して負の感情をあらわにするリンクは珍しいなとソフィアは感じながら、改めてお店の扉を開いた。
次こそ、学校に……….