迷子3
話し声で目が覚める。
鎮痛剤が効いたのか、昨夜はうなされることなくぐっすりと眠ることが出来た。それでも熱が出たのか身体がじっとりと湿っているのを感じる。重い身体を起こし、辺りを見回す。助けてくれた女性と、少し渋みが出た男性がいた。
「おはよう、よく眠れた?」
ブロンドの女性が額と首元を濡れた布で拭ってくれた。冷たいのが心地良い。拭われる度に頭が鮮明になっていく気がする。よく見るとこの人めちゃくちゃ美人。透明感がなんかやばいし、瞳は綺麗な淡いブルーだ。胸が控えめなのが好感が持てる。
「水飲める?」
ありがとうございます、と言って渡された水を飲む。この家はあまり広くなく、同居人、多分この男性のこと、が怪我をしていて、もうひとつの部屋で休んでいるからとこの軋むベッド?を借りた。あとは簡素なテーブルと、カタカタ落ち着かないイスだけ。シンプルな家だ。男性の方と目が合う。
「怪我はそんなに酷くないけど、熱が出たのね。身体が冷えるから一旦着替えましょう。あなた出てって」
ブロンド美人が男性へ言う前に、立ち上がってひょこひょこ外へ出て行った。足を怪我してるらしい。ちょっと渋さが出てきたイケおじ?が素直に言うことを聞いているのが面白く、ちょっと笑ってしまった。その瞬間を見られてたらしく、コップを受け取りながらブロンドさんが優しい顔をしていた。
「昨日死にそうな顔をしてたから安心したわ。まだ若いのにこんな森の中で怖かったでしょ。これ着られる?」
汗まみれで申し訳無いが着替えさせてもらう。肩がまだ痛い。身体も拭いてくれた。恥ずかしいけど気持ち良い。
「そんなに若くはないんですが…ありがとうございます」
着せてもらう間に少し話してくれた。彼女はエミリアという名で、この森には家族で住んでいたらしい。両親は早くに亡くし、1人で住んでいたところ同じく遭難していた先程の男性を拾ったとか。何それめちゃくちゃ危なくない?と思ったが、私も同じ境遇で助けられたので言わずにおいた。
着替えも終わり、エミリアは暖炉?ストーブ?で鍋を温め始めた。良い匂いがする。こんな優しい人に助けてもらえてよかった。これからどうするか、ここがどこなのかまったく分からないが、エミリアの優しさのお陰で不安感は重くない。
ギィと軋むドアを優しく開け、帰ってきた。ひょこひょこ歩くのがどこか可愛らしい。くたびれたシャツと伸び放題の髪が残念だがワイルドさがある。カタカタのイスに座り、こちらを向く。
「さて、落ち着いたかな。私の名前はミカ。この家に間借りしてる。多分君と同じような境遇だと思われる。」
丁寧で優しい口調で安心した。ミカ、か。海外の男性にそんな名前があるとは聞いていた。存外可愛い名前で笑ってしまうところだった。あぶない。
「…名前はhachiです。えっとまず、ここはどこですか?」
エミリアもミカも見るからに日本人ではない。私の名前は外国人には少し発音しにくいので、いつも使っている名を名乗ることにした。呼びやすい名の方が親近感が出るかなと。
「ハチ…?ハハハッ!くしゃみだね」
笑われた。私はミカで笑わなかったのに。くしゃみってなんだよ。
「あぁ、すまない。顔立ちからアジア系かな?私の国では無いようだ。と言ってももう生前の記憶はあまりないのだが」
んん?生前?
「生前って!?」
「そう、私は1度死んだはずだ。交通事故でね。君もそうかい?」
それならここは?死後の世界?確かに良い行いはしてこなかったが熊になぶり殺しにされそうになるようなデンジャラスなとこに連れてこられるなんて酷すぎる。
「…電車に轢かれました…目覚めたら森の中で…」
優しい目で頷きながら話を聞いてくれる。こんなおじさんなら抱かれてもいい。
「そうか…まだ若いのにかわいそうに。ギフトも貰ってない段階でこの森を歩くのは無理だ。エミリアがいなかったら君は危なかった」
アジア系が若く見られるのは分かった。いや悪い気はしないけど。それよりもギフト?
「…ギフトって何ですか?」
ミカはうん、と頷いておもむろに手を前に伸ばす。
「見るのが早い。ここは以前いた世界とは違う」
何も無い空間から長い銃が出てきた。
「えっ!?」
どっから出した?自分も同じことが出来るのか試したが何も出来る気がしない。手とミカとエミリアを交互に見る。
「これがギフトだ。この世界の人間は前の世界でいうゲームのようなレベル制度があり、こっちの世界に渡ってきたばかりの人間はレベルがない」
「渡ってきたばかりの人間はこちらの世界の人間からするととっても弱いの。子供と同じくらい。だからあまり警戒しなくても家に入れられるのよ」
コトッと私の目の前に皿を置いてエミリアが補足してくれる。頭はまったく情報整理出来てない。隣に腰掛け話してくれる。
「まだ分からないことだらけだと思うけど、ギフトを貰う方法はひとつ。こちらの世界の固形物を食べること。それで何かしらこちらで生きていく力が得られるはずよ」
めちゃくちゃだ。この2人に騙されてるとしか思えない。そんな転生ものみたいなありがちな展開がある訳がない。確かに異世界ぽいと言えばそうなんだろうけどそんなベタな展開あるか。電車に轢かれてアレ?ここは?的な。いや、ほんとそうなんだけど。断れそうな雰囲気でもないので、目の前に出された皿を持ち上げる。使い込まれた木の皿がいい感じ。ここの人達はとても優しいが、この優しさに騙されてどこかに売り飛ばされるのか。ゴクリ。ここは飲むしかない。軽く湯気立つスープをすする。溶けた玉ねぎみたいなのがほんのり甘く美味しい。ひどく薄味だが料理も出来るなんてエミリアは本当にいい人だった。この後どうしようか、などと考えていたら視界にノイズが入る。
「えっ!?」
一瞬だけ走った砂嵐に毒でも入れられたのかと焦ったが、とくに何事もない。何故かお皿が小さく、上半身裸だが。裸?
「えっ!!」
エミリアとミカを見るとこちらも目が見開いていた。
「ギフト…よね?」
エミリアが固まっている。それよりも私上半身裸!隠すほどのモノはついてないけど!咄嗟に皿を置き両腕で隠すが、この膨らみ硬い。いつの間にかミカが立って鏡を差し出してくれていた。私も立ち上がって受け取り自分である顔を見る。
「え、ええっ!!!?hachi!!」
ミカを見る。困ったような不思議な顔をしているが、目線の高さが変わらない。私身長160cmとかだったのに。もう一度鏡を見る。そこには間抜けな顔をしたイケメンが写っていた。そう、生前やりこんだオンラインゲームで課金してまで整形したアバターhachiの顔だった。
ベタベタのベタな展開です。
思い付きで書いているので、そのうち加筆予定。
もう少し展開が進んでからあらすじ等変更したいと思います。