異世界で生き延びる
嫌気がさしていた。
毎朝同じ時間に目覚め、電車で人に揉まれ、中身の無い薄い会話に合わせ、愛想笑いを振り撒く。
別に周りを見下してる訳ではないけど、この変わらない毎日から抜け出すことができたら、とは思う。このまま浅い人間関係を築き、浅い人生を歩んでいくのかと思うと、今何をどう頑張ろうとも大して未来に影響は無い。そう言い聞かせながら動画配信サイトでゲーム実況をひたすら流しつつコンビニの安ワインを流し込む。
時間は3時。
このまま寝るだけ。動画の合間に見た冷凍した鶏肉を薄切りにしオーブンでサクッと焼いたものが頭から離れない。ニンニクと塩胡椒で絶対美味い。明日、思い出したら作ろう、、、
何事もなく朝目覚め、テーブルの残骸はそのまま。動画は途中で止まってる。いつも通り朝の支度をし家を出る。鍵を掛けたか不安になるが、荒らされても分からないくらい部屋は散らかっている。これも毎朝のことだ。カナダの歌手が最近新曲を出したので和訳してある動画を探す。道は身体が覚えてる。周りの人間だって下を見ながら歩いている。
電車が来るまでまだか、早く着いた。丁度目当ての動画が見つかった。この歌手のことそんなに好きじゃなかった。素行は悪いし、気分屋だし。売れたらなんでもしていいのかと思ってた。けどドキュメンタリーか何か見た時に、彼の気持ちが分かった気がしてそれから聴くようになった。このミュージックビデオもストーリー仕立てになっていて、病気の彼女の為に強盗するが撃たれてしまう。歌詞の意味に鼻が痛くなる。危ない、構内のベルと停車の高い音が響く。さっさと電車に乗ってしまおう。そう踏み出した足は戻せなかった。投げ出された身体と霞んだ視界、車体のシルバーが頭上にあった。
「あっ!」
破裂した。
あついあついあついあついあついあついあついあついあついいいたいァァいた…ぃ
「ア゛ア゛ア゛ア゛ァァッ!!!」
痛い痛い痛い痛い痛い!飛び起き胸を掻きむしる。
「はぁっ!はあっ!はあっ!」
くそっ電車に飛び込んだ!くそっ痛い!くそっ…
「はあ…はあ…はぁっ…?……何故っ!?生きてる…はあ…はぁ…はぁ…」
服ごと握り締めた手が濡れている。汗か?ここは?
「木…森か……?…っ」
ここで意識が落ちた。