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螺旋を描く魔術師 ~力こそパワーというのは時代遅れだ~  作者: 古賀ノコギリ
第1章 学院の洗礼
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権力に牙を剥く

「それでは学院長のご挨拶です。学院長、お願いします。」


 紹介されて舞台袖から出てきたのは黒髪をオールバックにした長身の男性だった。

 少しのっぺりとした顔と鋭い目付きが特徴で、見た目は40代ぐらいか?にしても服装が黒いローブとは、ナナ先生でもそんな時代錯誤な格好はしてなかったぞ。いつの時代の人間だ?


「私がこの魔術学院の学院長を務めるエドワード=ウェムルソーンである。まずは新入生諸君、入学おめでとう。心から歓迎しよう。そして在校生諸君、進級おめでとう。昨年度は1人も留年する者がいなかったと聞いている。今年度も期待している。新入生諸君も先輩達を見習い、勉学に励んで欲しい。何、重く考えることはない。優秀なのは上級生だけではない。当学院の教師陣もまた粒揃いだ。わからないこと、気になることはいくらでも相談して欲しい。我々は君達の教育に一切の妥協はしない。望むものあらば、学院はその全てに応えることができる。また―――」


 拡声魔道具を使っているようには見えないが、何らかの魔術が発動しているのかよく響く声で聞こえた。

 それから話は学院の歴史やら社会に出たらどうとかといった退屈なものが続いた。

 教会での歴史の授業は面白かったのに、学院長の話はどうも興味が湧かない。

 多分シスター達は子供が面白く学べるよう工夫して喋ってたんだろう。それに対してこの人は、自分の中だけで話が完結してしまっているから興味を持ってもらうという意欲がないのかもしれない。

 いや、むしろみんな興味を持って当然とか思ってるんじゃないか?実際どう思っているのかはわからないが。

 それに話の内容からはいかにも堅物という印象を受けるが、ハイオシェンツ家が根回ししたということは彼もグルなのかもしれない。


『以上、学院長からのご挨拶でした。続きまして―――』


 その後は来賓の紹介が続いた。地方の一般家庭出身の俺には誰がどういう立ち位置なのかよくわからないので適当に聞き流していたが、とある来賓の紹介で思わず飛び上がりそうになった。


『続きまして、国土開発担当部門大臣、ヘーヴェルト=ハイオシェンツ様』


 白髪混じりの茶髪に青白い顔、細身で猫背と不健康に見える中年男だった。

 あいつがソムベスの父親...軽く小突いただけであっさりくたばりそうな男だな。あまりソムベスとは似てないが、あれで親子なのか。


 俺と俺の家族を破滅させようとした外道、その顔覚えたぞ。

 俺のスピーチを聞いてぶったまげるがいいさ。

 何ならそのショックでポックリ逝っちまってくれるとありがたい。

 ......イカンイカン、思考が物騒だな。怒りを制御しないと。


『続きまして、新入生代表による挨拶。新入生代表、ロッド=ナターン、前へ。』


 ......なるほど、ここか。

 周りを見ると、一部の教師と来賓を除いて全員が予定外だと言わんばかりに訝しげな顔をしている。


「ロッド、これはどういうこと?」


 ナスターシャが小声で俺に状況を尋ねてきた。ケイティとキュリアにも視線をやると、二人とも気が気でないといった表情で俺を見ている。


「まあ、ここからがメインイベントってことさ。心配ないって。でも昨日ベクターさんが言ってたけど、他人の世話を焼くのも程々にした方がいいかもよ?」

「は?あなた何言って―――」

『ロッド=ナターン、聞こえていますか?舞台上へ。』

「じゃあな。」

「ちょっ、あなたまた―――」


 3人を見ないように立ち上がり、舞台上へ向かう俺に一斉に視線が集まるのを感じる。

 しまったな、二度はないってついさっき釘を刺されたばかりなのに思いっきり無視してる。

 まあ、もしかしたらこれ以降は接することがないかもしれないし、なあなあで済ませられるだろう。


 舞台に上がって先程学院長が立っていた場所から正面を見渡すと、人数の多さに圧倒されそうになる。

 今更ビビるなよ、俺...。

 ポケットから原稿を取り出して読み上げ...ってこんな広い空間に俺の声が通るわけがない。

 まあでも、軽く喉を慣らして後は自分で声を張ればいいか。


「あー、ゴホン!」


 ん?ちゃんと声がでかくなってる?もしかしてこの位置に何か術をかけてあるのか?

 そういうことなら俺も使わせてもらおう。


「どうも、ただ今ご紹介に預かりました、新入生代表として挨拶をさせていただくロッド=ナターンと申します。」


 ちらりと来賓席や教師陣の方を見ると、ヘーヴェルトや学院長、その他何人かの来賓や教師が俺を嘲るような顔をしている。

 だが学院の教師陣全員が腐っているわけではないらしい。

 比較的若い大人の中には俺に申し訳なさそうな視線を送る者や俯いて何かをこらえるように震えている者、手を組んで祈りを捧げるような仕草をする者がいるのを確認できた。

 知っていても止められなかった、どうすることもできなかったことを悔いているのかも知れない。


 とりあえず俺を馬鹿にしたような笑みを浮かべている奴の顔は大体覚えた。


「俺がなぜ新入生代表に選ばれたのか、そもそもこの俺、ロッド=ナターンとは何者なのか、みなさん知らないと思いますので簡単に自己紹介をさせていただきます。俺は皆さんとは違い、魔力が使えるようになったのは今から3年前、10歳の時です。つまり俺は魔術師の家系の生まれではなく、一般家庭の出身なのです。新入生代表に選ばれたのも、そういう希少性によるものでしょう。簡単な自己紹介ではありますが、俺が誰なのか少しはわかっていただけたでしょうか?」


 ここからはハイオシェンツ家が読めといった原稿の出番だ。


「そういった出自を前提とした上で、御挨拶をさせていただきます。俺は昨日初めて故郷のイズマピスを離れ、首都を訪れました。そして初めて知る新しい環境、新しい世界に舞い上がってしまい、昨日ある事件を起こしてしまいました。あるいはこの3年で学んだ魔術を試してみたいという欲望に駆られてしまったのかもしれません。もしかしたら皆さんの中にも知っている方がいるかもしれませんが、昨日の学院区画の商店街、とある路地裏で起きた傷害事件。その犯人というのが俺です。被害者2名の方の情報は伏せさせていただきますが、俺は彼らに魔術で重傷を負わせてしまいました。顎は砕けて喋ることもできず、顔は腫れあがって元の形がわからなくなるほどの傷を負わせてしまいました。俺は本当にどうしようもない愚か者です。魔術をこんな私欲のために行使するなんて。昔からそうでした。自分の力が通用しそうな相手を見つけては力で無理やりねじ伏せて言うことを聞かせようとする。イズマピスでも鼻つまみ者でした。当然治安維持隊に連行されました。俺は未成年ということで今回は要経過観察という処分で終わりましたが、同じことが起きないよう、俺の後見人になると言ってくださった方がおります。ヘーヴェルト=ハイオシェンツ様です。彼は俺が健全で立派な魔術師になれるよう支援すると言ってくださいました。そして支援だけではありません。俺が道を踏み外さないよう、教育を施してくださるのです。俺のような愚か者にここまで目をかけていただき、深く感謝しております。そのヘーヴェルト様の恩義に報いるためにも、連邦の発展と安寧に貢献できる魔術師になるとここに誓います。そのためにも、この学院で大いに学ばせていただきたいと思います。教師の皆様、上級生の皆様、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします。」


 最後に深くお辞儀すると拍手が聞こえた。大喝采という程ではないが、それはそうだろう。いきなり何の話をしてるんだコイツはと思う者も多いはず。

 だが拍手をしたのは学院長やヘーヴェルトをはじめとした先程俺を嘲笑っていた連中で、他の者も権力者に倣うように拍手が大きくなっていき、やがて屋内に響き渡る大音量となった。


 拍手が落ち着いてから顔を上げる。奴等はこれで終わりと思っているのだろうが、そうはならない。

 俺はベクターさんとの作戦を思い出しながら再度口を開く。


「と、ここまでがヘーヴェルト=ハイオシェンツから読めと言われた原稿の内容になります。」


 俺の唐突な暴露にどよめきが起こる。まあ意味がわからないだろうな。だがここからが本番だ。


「実は今の話のほとんどは捏造です。確かに昨日学院区画で傷害事件を起こしましたが、それはこの学院の2年生、ソムベス=ハイオシェンツとその子分のルーゴ=デッセンが俺に襲い掛かって来たので返り討ちにしたというものです。まあ確かに、襲い掛かって来た方は重傷で、対する俺は無傷だとどっちが加害者かわからなくなるかもしれませんが、俺はあくまで自分の身を守っただけです。」

「適当なことを言うのはそこまでにしたまえ!君はあくまで加害者だ。未成年だからと言って何をしても許されるとでも思っているのか!?神聖な入学式でよくもこのような暴挙を―――」


 学院長が怒りの形相で俺の話を遮るように喚きながらこちらへ近付いてくる。

 やはり敵だったらしい。

 誰が黙るものかよ。一切合切をぶちまけてやる。


「今は俺が喋ってるだろうが!黙るのはアンタだ!」

「こ、この無礼者めが...!地方の一般人風情が、私に対等な口を利くんじゃない!」

「知ったことかよ!アンタやっぱハイオシェンツ家とグルだったんだな?どういう関係なんだ?ご主人様か?中年親父が中年親父に尻尾振って媚び売ってるのを見るのはかなり気持ち悪いもんだな!」

「どこまでも愚かな猿め...!言って聞かぬというなら取り押さえるまで!」


 俺の罵倒で怒りが頂点に達したのか、学院長は完全にやる気になっている。

 で、他の教師や来賓は...動く気配はないか。俺に恐れるような視線を送る者、学院長と同じく怒りのあまり顔が歪んでいる者、状況を呑み込めず慌てふためく者、そして肝心のヘーヴェルトは...無表情だ。さっきは俺のことを嘲笑っていたあの男も怒り狂うかと思っていたが、そう単純な奴ではないらしい。案外手強いのかもしれないな。どうも底知れない何かを感じる。

 この場は学院長に任せるということだろうか。

 学院生は俺を憎々し気に睨む一部を除いてざわつくばかりで、どうすればいいのかわからないという顔だ。

 学院生の数が多すぎて俺を睨む奴がどれくらいいるか、どこのどいつなのかは特定できないが今は学院長の相手が先だ。


「来るなら来い!アンタも、ハイオシェンツ家も、ナターン家に手を出そうとしたことを後悔させてやる!」

「すぐに思い知ることになるぞ...おまえは連邦政府の権力の一角に歯向かったのだ!」

「そのつもりで喧嘩売ってるんだよ!」


 この展開も織り込み済みだ。あとは学院長がどっちのタイプか、放出タイプなら奥の手も秘密兵器も出さずに済ませたいところだ。

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