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螺旋を描く魔術師 ~力こそパワーというのは時代遅れだ~  作者: 古賀ノコギリ
第1章 学院の洗礼
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幕開け

 昨日は早目に寝たからか、目が覚めるのも早かった。

 まあ早すぎるという程でもないので、暇をもて余すことはなさそうだ。


 昨日の夕飯はあれだけガツンと腹に来たのに、一晩経つともう空腹を感じている。

 1年生のフロアに他の学院生の姿がちらほら見えるが、1年生同士で話している者は少ない。

 品定めでもしているのだろうか。魔術師としてのタイプ、家柄、腕っ節等々、誰とつるむべきか探りあっているような雰囲気だ。


 そんなに強い味方が欲しいならいっそ上級生のフロアにでも行ってみればいいのに。

 まあ入学前のひよっ子がそんな大胆なことをすれば確実に悪目立ちするだろう。

 もっとも、俺は今日ありえないぐらいひどい悪目立ちをすることになるが。


 ...ん?そういえば俺が全校生徒の前でスピーチをするのってどういう段取りなんだ?

 ベクターさんはハイオシェンツ家が学院に根回ししてあると言っていたが、入学式の詳しい段取りをまだ知らない。

 ......ま、向こうから行動を起こしてくれるだろう。



 早目の時間だからか、昨夜と同じく食堂はほぼガラガラだ。

 朝食のメニューはパン、ベーコンエッグ、サラダ、スープ、ヨーグルトとオーソドックスな品目。

 昨日あれだけ食った反動か、どうも物足りないように感じてしまうがまあこれで良しとしよう。


 そういえばあきらかに学生ではない、成人してると思われる男女2人組がいるな。多分バウニッツさんの同僚の人だろう。

 見た目が奇抜な彼女と違っていたって普通のカジュアルな出で立ちをしているの2人組を見ると、警備員という組織がビジュアル系の集まりというわけではなさそうだ。


 そういえば俺はまだ制服に着替えていなかった。朝食を優先しすぎて忘れていた。無駄な往復をしてしまったと思いつつも自分の部屋に戻るため1年生のフロアへ上がると、ようやく他の学院生も起き始めたらしい。

 かなりの人数が1階への階段を下りて来ている。食堂へ向かう集団とのすれ違いざまに、明らかに俺を見て気持ちの悪い笑みを浮かべる者が何人かいた。


 何だ?何で俺を見て笑ってる?昨日首都に来たばかりの俺を知っているのか?

 唯一心当たりがあるとすれば、昨日の傷害事件で路地裏での事情聴取を受けている時か?野次馬として俺を見ていた者の中に寮暮らしの学院生がいたかもしれない、というくらいだ。


 とはいえ直接絡んでくるのでなければ特にこっちから何かする必要性も感じない。放置でいい。所詮は他人の感想だ。



 部屋に戻り、昨日受け取った制服を取り出す。やはりサイズが大きいが、ウー先輩は着ればわかると言っていたので袖を通してみる。

 するとブレザーのボタンを締めた瞬間ほぼぴったりなサイズまで縮んだ。ズボンもホックを掛けた瞬間同じように体にフィットするサイズまで縮んだ。なるほど魔道具の一種だったか。

 ぴったりでありながら脇や肩、太腿や膝辺りに窮屈さは感じない。もしかして動きに合わせて部分的に伸び縮みもしてるんじゃないか?

 魔力操作を徹底的に鍛えてきたからわかる。これはかなり腕のいい魔術師が造った芸術品だ。

 体格や可動域は個人で違うのに、それを柔軟にカバーする細かい術式を無駄なく美しい配置で組んである。できることなら製作者に話を聞いてみたいな。

 俺が魔術社会に潰されずに生き残れたら、だが。


 いやいや、マイナス思考はよせ。俺が負ければ父さんと母さんにも魔の手が伸びるんだぞ。

 生き残れたらじゃない。生き残るしかないだろ。



 手荷物も鞄にまとめたし、少し早いが学院へ行こう。


◇ ◇ ◇


 昨日通った道は覚えているので迷うことなく学院まで行くことができた。

 俺以外にも早目に登校している学院生がちらほらいるな。


 正面門を通って敷地に入ると『新入生はこちら』という案内板があった。

 記された方へ進むとまた同じ案内板があり、それらを辿っていくと壁や天井を取っ払った巨大なひとつの空間だけの棟に入った。

 構造はシンプルだが、壁際に金がかかってそうな趣味の悪い調度品がいくつも並んでいる。

 どういうセンスなんだこれは...。

 ともかくここなら全校生徒が収まるってわけか。全校生徒が何人いるかなんて知らないけど。


 棟の入口に立っている教師と思わしき男性にどこで待っていればいいか聞いてみる。


「あの、すみません。」

「何か?」

「新入生なのですが、式が始まるまでどこで待てばいいですか?」

「舞台を正面にして一番右奥の空間に並べられている椅子にならどれでもいいから座っていなさい。」

「ありがとうございます。」


 屋内は椅子がズラリと並べられているが、言われた場所に並べられた椅子は少し区切られているのがわかった。

 区切りと言っても新入生分の椅子なのだろう、そのスペースだけでも椅子が数えきれない。

 そもそもこの棟内がありえないぐらい広いので、遠目に椅子を数えてみようとしても頭が痛くなりそうだ。


 既にポツポツと新入生の席が埋まっているが、これだけの広さならわざわざ誰かの近くに座って気まずくなることもないだろう。

 人が来はじめたら流石に赤の他人とゼロ距離になるが、今は少し距離を置いておける。

 別に父さんと違って人見知りしているわけじゃない。これから俺がやらかすことを考えれば、今誰かと下手に仲良くなると掌をかえされるかもしれないからだ。

 そうやって上げて落とされるのは結構傷つくので、心の安らぎのためにも今は無闇に知り合いを作りたくない。



 やがて新入生がぞろぞろと増え始め、椅子が瞬く間に埋まっていく。俺の近くにも人が座り始めたが、幸い特に話しかけられることもなかった。

 これだけの人数がいるのに静かなものだ。完全に静まり返っているわけではないが、喋っているのは入学前からの知り合い同士ぐらいらしい。一部積極的な新入生もいるようだが、俺の席からは離れているので絡まれる心配はないだろう。

 そう思っているところへ知った声が聞こえてきた。


「おはようロッド。昨日はよくもやってくれたわね。」

「ロッド君おはよ。うーんまとまって座れる席はもうないかー。残念。」

「おはようロッド君。結構早くから来てたんだ?」


 ナスターシャ、ケイティ、キュリアの3人だ。

 女子の制服姿を見るのは初めてだが、下がスカートになっているだけで基本的に男子と同じデザインだな。


「ああ、おはよう。昨日飯食ってシャワー浴びた後すぐ寝たからかな、早目に目が覚めた。っていうかナスターシャ、やってくれたはおかしいでしょ。会話の切り方が無理矢理だったのは悪かったけど、本当に仕方なかったんだって。式の後ちゃんと話すから。」

「......二度はないわよ。」


 俺はちゃんと説明するつもりだ。式での俺のスピーチを聞いてもまだ俺との接点を切らずにいられたら、だが。


「わかってる。もう逃げやしない。ところで、キュリアの昨日の悩みってどうなった?見た感じまあまあ元気そうだけど。」

「あ、それはね、ロッド君を見てちゃんと努力しなきゃって思ったからもう大丈夫だよ。」

「俺を見て、って...俺みたいにならないようにってこと?」

「ち、違うよ!そんなんじゃないの。ロッド君は普通の魔術師よりハンデかあるでしょ?ほら、あの体質のことで...。」


 もしかして周りに悟られないように言葉を濁してるつもりなのか?だとしてもかなりギリギリの言い回しだぞそれ。


「あー、そう、ね。」

「でもロッド君はその、私達は昨日のアレを見てたけど、ロッド君は全然怖がってなかったのがすごいなって思ったの。そういう体質で大変なはずなのに、自信があって......それはきっとロッド君が自分に出来ることをしっかり一歩ずつ積み重ねてきたからなんだろうなって。だから私も少しずつ頑張ろうって思えたの。」


 そういう評価をされていたとは、照れるな。

 しかし昨日の謝罪といい、彼女の方こそすごいと思う。芯が折れそうになったところで、踏ん張って持ち直している。


「そっか。ま、俺は地方出身の世間知らずで無鉄砲なだけだから結果的にそう見えたのかもしれないけど、やる気になれたんなら良かったんじゃない?」

「そんなことはないと思うけど...でもロッド君に勇気を貰ったのは本当だから、ありがとう。」


 真っ直ぐに褒められると照れるな。


「うん、どういたしまして。で、そっちは3人まとまって座れる場所探してるんだっけ?残念ながらそこで立ったまま話してる間にもどんどん埋まってるぞ?」

「どのみちそんな都合のいい場所はもうなかったわよ。みんな半端に距離を置こうとするからこんな面倒なことに...。」

「しょうがないって。でもロッド君の近くの席がいくつか空いてるからさ、そこにしよっか。」

「うん、私はそれで大丈夫。」

「私も別に構わないわ。」


 こうして俺の左にナスターシャ、その後ろにキュリア、俺の前の列の3つ右の椅子にケイティがそれぞれ座った。ケイティだけ少し離れているが仕方ない。


「ねえ、寮でもう誰かと仲良くなった?」

「いや、誰ともなってないね。昨日食堂で食べたのも時間ギリギリでほとんど人いなかったし、その後部屋でシャワー浴びてからすぐ寝たって言ったじゃん?それに今朝も早い内に食堂行ったから誰かと近い距離で飯は食ってない。そもそも誰かと仲良くなってたらそいつと一緒に座ってるっての。」


 まあそれだけじゃなく、心のケアっていうのが第一なんだが。


「そもそも新入生同士で品定めし合ってるみたいでさ、上級生のフロアはわからないけど1年生のフロアは静かなもんだ。クラス分けもまだわかってないし、一部の奴以外は大人しいぞ。」

「女子寮も似たような感じよ。ジロジロ見られるのはいい気分じゃないわね。」

「だよなあ。にしてもだいぶ人が増えたな。上級生とかの席もほぼ埋まってるし。にしても大人の数が多いな...この学院ってそんなに教師いるの?」


 気が付くと新入生以外の席も埋まっており、式が始まる時間まで待つ状態となっていた。


「多分、教師以外の人もいるわよ。常任理事や、政府の教育部門責任者とか。来賓ってことね。」

「へえ......。」


 ハイオシェンツ家のお友達かもしれない。俺のスピーチを聞きに来たのかな?

 なら聞かせてやろうじゃないか。こっちはいつでも行けるぜ?


 『間もなく、セステノン魔術連邦国立魔術学院入学式を始めます。学院長の挨拶がございますので、皆様御静聴お願い致します。』


 どこからか女性の声でアナウンスが流れた。

 さあ、いよいよだな。

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