先生はおばあさん?
って、見惚れてる場合じゃない!
「―――は、初めまして、ロッド=ナターンです!今日からよろしくお願いします!えと、ナナティエラ先生?」
「は、あ、う、ああ、はぬ、はあ、はじ、初みゃまして!わ、わた―――」
「すみません、父さんは極度の人見知りで自己紹介が終わるのを待つと日が暮れそうなので俺が紹介します。俺の父さん、オーリス=ナターンです。初対面の人と会話するのがとんでもなく下手ですけどいつも時間が解決するので気にしないでください。」
「そう、ですか?あ、ロッド君、私のことはナナでいいですからね。ナナティエラだと長いでしょ?家族や友人はみんな私のことそう呼ぶんですよ。ところで、お父様は―――」
「おおおお茶でも入れますね!ロッド、先生をゆっくりお連れしなさい!」
あーあ、逃げちゃった。ま、先生が美人だからってのもあるんだろうなあ。母さんには内緒にしてあげるよ。男だもんね。
「あの、ロッド君?お父様は本当に大丈夫でしょうか?。」
「大丈夫ですよ。というかすみません。父さんがいきなり恥ずかしい姿を見せてしまって...」
「ロッド君はとてもしっかりしているのですね。10歳と聞いていますが本当ですか...?」
「ええ?いやあ、ありがとうございます。父さんがあんな風にてんやわんやだと一緒にいるこっちは冷めるんですよね。感情がフラットになると言いますか。」
「...やっぱり10歳とは思えませんね。」
「ナナ先生、俺にそんな丁寧な言葉遣いしなくてもいいんですよ?」
「いえいえ。私は息子と弟以外の誰に対してもこうなのですよ。お気になさらず。」
「そうですか?まあとにかく、いつまでも玄関先で話すのもアレなんで上がってください。父さんの入れるお茶はうまいんですよ。」
「ではお邪魔します。」
居間に案内すると台所にいた父さんが飛び上がった。
「ロ、ロッド!もう来たの!?いいい今お茶が入ったところだからせ、先生にお出しして!父さんは空き部屋を掃除してくるから!」
そう言って父さんはまたも逃げるように2階へ上がっていった。
「ほんっと落ち着きがなくてすみません。とりあえず座ってください。冷めないうちにお茶入れますよ。」
湯気の立つポットと棚から出したティーセット2人分をテーブルに並べて俺と先生が向かい合って椅子に座る。
あれだけ慌てていてもしっかりお茶を用意できたのは流石だよ父さん。
「ありがとうロッド君。いただきます。......あら、とてもおいしいですね!濃すぎず薄すぎず、温度も熱すぎない。お父様の優しさを感じます。後でお礼をさせていただきたいです。お話ができればですが...」
「父さんも喜びますよ。それに父さんは別に先生を怖がってるんじゃないですから。あれは先生が美人だから照れも入ってるんですよ。」
「もうロッド君、冗談はやめてください。こんなおばあちゃんを持ち上げるものではありませんよ。」
「へ?いやいやおばあちゃんって、先生ウチの母さんと同じくらいにしか見えませんよ。その、失礼だとは思いますけど30半ばぐらいですよね?」
「あっはははは!全然違いますよ!正解は......57歳でした!」
「............は???」
「さっき息子がいると言いましたが、実は孫だっているんです。正真正銘おばあちゃんですよ。」
「ありえない...俺の母さんよりちょっと上ぐらいで全然通用しますよ...」
これって魔術で若返ってるとかなのかな?聴いてみたいけどこれ以上は突っ込んだらヤバい気がする。
母さんなら聞けるんだろうなあ...。
「俺のこと本当に10歳か疑ってましたけど、ナナ先生こそ孫がいるなんて信じられないですって...。」
「うふふ、期待通りのいい反応をしてくれますね。ロッド君とおしゃべりするのはとっても楽しいです。」
玄関を開けた時は優しい笑顔だったけど、今は純粋に楽しそうにケラケラ笑ってる。ナナ先生ってこんな笑い方もするんだなあ。
「ところで、今日は先生の歓迎会をするんですけど好きな食べ物、嫌いな食べ物ってあります?希望を聞いてから父さんが準備するんで。」
「嫌いなものは特にありませんよ。希望となるとそうですね...皆さんの好きなものを食べたいです。お父様、お母様、ロッド君の好物を私も一緒にいただければ。」
「わかりました。父さんに伝えておきますね。期待してくれていいですよ。父さんの腕前はすごいんですから!」
「ご家庭の事情はある程度聞いていましたが、ロッド君が力説するとなると益々楽しみですね!」
「えへへ、じゃあちょっと父さんに伝えてきますね。」
2階に上がってナナ先生が使う部屋を確認すると父さんが正座して深呼吸してた。
「父さん、落ち着いた?」
「ああ、ごめんなロッド。息子の前で情けなかったよね...。」
「父さん、そんなの今更だからいいんだよ。先生が美人なのもあるんだろうし。それより先生の歓迎会の希望聞いてきたよ。俺と父さんと母さんの好きなものを食べたいってさ。」
「うん、わかった。父さんは買い出しに行ってくるよ。...ロッドは先生とうまくやっていけそうかい?」
「多分大丈夫だと思うよ。先生優しそうなだけじゃなくて意外とお茶目だってわかったし、これから楽しくなりそう!」
「ロッド、何度も言うけど友達には―――」
「わかってるってば!そんなにしつこいなら理由教えてくれてもいいじゃんか...。」
「ロッド、おまえは賢くて、優しくて、誠実な自慢の息子だよ。でも、それでもまだ10歳なんだ。知りたいと思うままに学ぶには、まだ早すぎることがある。どうかわかっておくれ。」
さっきまで緊張しまくってた人の言葉とは思えないぐらい父さんは真剣な眼で俺を見つめてる。
「あ、その辺の事情はロッドから先生に説明してくれるかい?詳しいことは母さんからも説明すると思うから簡単にでいいよ。僕からはちょっと無理だと思うから...。」
でもやっぱり締まらないよなあ。