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螺旋を描く魔術師 ~力こそパワーというのは時代遅れだ~  作者: 古賀ノコギリ
第1章 学院の洗礼
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入学前夜

「そういえばさっきちゃんと答えてもらってませんでしたけど、何で俺にここまで手を貸してくれるんですか?俺に興味があるってだけじゃありませんよね?」

「...覚えていたか。まあ、僕には僕の目的があるってことさ。後はそうだな、権力に弄ばれる若者を見るのは忍びないと思ったから、だね。」


 アドバイスをくれた時は頼もしく見えたのに、急に胡散臭くなったぞ。


「目的がどうとかなんて、わざわざ思わせ振りに言う必要あります?どうせ教える気ないのに。」

「君を誤魔化すのは少し後ろめたく感じたんだ。完全に隠しては詐欺と変わらない。だから最低限のことは教えようと思った。この辺りで勘弁してはくれないか?」

「...まあ、気が向いたらでいいですよ。それじゃ、これからもよろしくお願いします。」

「よろしく頼むよ。」


 俺達は軽く握手を交わした。


「そろそろ失礼します。というか帰っていいんですよね?」

「ええ。こちらの用件は済みましたので、構いません。入口にご友人がいらっしゃるということでしたか?私もご挨拶に行きましょう。」


 いつの間にか眼鏡をかけて仕事モードに戻っていたベクターさんと一緒に詰所の出入口に向かう。



「あ、やっと終わったのね...それで、どうなったの?刑は執行されるの?」

「待たせてごめん。特に罰はないよ。未成年ってことで要経過観察で済んだから。」

「ホント!?だからかな?ロッド君、なんか顔色がよくなったんじゃない?」

「それだけじゃなくて、ベクターさんに悩んでることを見抜かれてさ。ついでってことでちょっと相談に乗ってもらった。んで、自分なりに一旦解決できた。」

「それでこんなに時間がかかったの?...お節介なのはお互い様だったみたいですね。」

「流石に見るに堪えませんでしたので、少しだけ助力を。」


 ナスターシャが訝しげにベクターさんを見やるが、本人は仕事モードでまるで動じない。


「しっかしもう完全に日が落ちてたんだな。道理で腹が減るわけだよ。」

「え~...ロッド君気付いてなかったの?」

「そろそろ帰らないと寮の食堂が閉まっちゃうから、急がないと...。」

「だな。それではベクターさん、色々とありがとうございました。失礼します。」

「ご協力ありがとうございました。気を付けてお帰りください。」


 すっかり日が沈んでいるが、商店街はまだまだ落ち着く様子はない。

 むしろここからは大人達が飲み歩く時間らしい。ウー先輩の言ってた通りだ。

 飲食店巡りをしてみたくはあるが、今は彼女達もいるし、何より今日は色々ありすぎてくたくただ。

 早く飯食って寝たい。



 帰り道に3人からベクターさんと何を話したのか色々聞かれたが、明日の作戦については漏らすわけにはいかないので、あくまで相談が長引いたということにしておいた。


 そして女子寮側出入口と男子寮側出入口前の別れ道で別れる時にナスターシャが真剣な表情で口を開く。


「ロッド、あなたは嘘が本当に下手よ。絶対に何か隠してるわね。」

「............。」


 俺はただ沈黙するしかなかった。否定も肯定もできない。明日の入学式が終わるまでは誰にも言うわけにはいかない。


「意地でも言わないつもりかなー?」

「黙ってても私達は引き下がらないわよ。やっぱりあのベクターって人と何かあったんでしょう?」

「ごめん。ナスターシャ、ケイティ、キュリア。でも言えないのは今だけだから。明日入学式が終わったらちゃんと話すよ。」

「ロッド君さあ、その言い方だと別に気持ちを整理する時間が欲しいからとかじゃないよね?わざわざ入学式が終わったらなんて具体的なタイミングを指定するってことは、入学式で何かあるんじゃないの?」


 ケイティ、これ以上つつくのは勘弁してくれ...。教えるわけにはいかないんだって......。


「.............ま、そういうことなんでまた学院で。じゃあな!」


 いたたまれなさすぎて俺はダッシュで逃げることにした。


「ちょっ、ロッド!勝手なこと言わないで!散々世話焼かせておいてそれはどうなのよー!?」


 後ろからナスターシャの叫び声が聞こえるが、追いかけてくる様子はない。

 もっと食い下がってくるかと思ったが、男子寮側出入口の前で痴話喧嘩してると思われるのも御免なので、来ないならそれでよしとしよう。


 バウニッツさんに教わった通りに開門し、そのまま食堂に行くことにした。


 なるべく誰かに絡まれないようにさっと食ってさっと部屋に戻ろうと思っていたが、食堂が広すぎるせいか席が随分空いている。

 人も少ないようなので安心した。


 ウー先輩の情報通り、メニューは固定だが味は中々のもので満足した。ちなみにガッツリとした肉料理で腹一杯だ。

 でもやっぱり父さんの料理には敵わないかな。


 食器をキッチンに返却して部屋に戻ると睡魔が襲ってきた。

 このまま寝たいが風呂ぐらいは入らないと...。


 寮には部屋ごとにシャワーがついているが湯船はないので、ゆっくり湯に浸かりたければ町の風呂屋に行くしかない。

 だが今からまた外に出る気力なんてあるはずもなく、シャワーで軽く済ませて明日の予定を確認後、俺は備え付けのベッドに横になった。


 明日、俺は想像もつかないような巨大な敵に喧嘩を売る。ベクターさんは何か目的があると言っていたし、明らかに俺を戦いに駆り立てようとしていたのはわかっている。

 でもやらなければやられるのは本当のことだろう。あの人には俺を陥れる理由もないし、お互い利害が一致しているのなら特に言うことはない。


 色々あって疲れたな、そろそろ寝よう。明日は派手にやらかしてやる。


 ◆ ◆ ◆


 世間というのは予想以上に狭い。


 まさかロッド君があの《猛毒(ヴェノム)》の教え子で、ロッド君の起こした事件を《猛毒(ヴェノム)》の孫が目撃するとは。

 笑える程に出来すぎた筋書きだ。これは天の計らいか?


 今日は彼の起こした事件のせいでハイオシェンツ家、もとい政府から苦情と無茶振りを送り付けられた。

 何時に帰れるかもわからず、かなりのストレスが溜まるのを自覚していたが、そんな暗い感情は吹っ飛んでしまった。

 それぐらい彼との出会いは大きな収穫だった。


 ロッド君の出自や特異な体質と魔術、そしてかの《猛毒(ヴェノム)》との繋がりに魅せられたのもあるが、彼の人間性も気に入った。

 ロッド君は力を持つことの意味と責任から逃げずに悩んでいた。

 悩むというのは人間誰しも通る道だが、その悩むという道を歩み続けられる人間は少ない。

 大抵の者は自身に問いかけ続けることに苦痛に感じ、早々に考えることを放棄して解決した気になる。

 その方が楽だからだ。

 だが彼はそうは見えなかった。自分を納得させることに妥協などせず、私が相談に乗らなければ永遠に悩み続けていた、そんな風に感じた。若さゆえの純粋さだろうか。


 そしてロッド君は面子にあまりこだわらない。彼はそんなものよりも公平であることを大切にするタイプなのだろう。

 一度は事件現場から逃げた(本人は見られていたとは知らなかったのでその自覚は薄いようだった)が、ちゃんと戻ってきたことからもそれは伺える。

 彼自身は自分のそういった部分に気付けずに、自分を幼稚だなんだと卑下していたが、それが彼の人間としての芯だからこそ、自分と終わりのない問答を繰り返していたんだろう。

 かと言って頭が固いわけでもなさそうだった。ナターン家全体が脅かされると聞くや、ほんの少しの逡巡のあと戦うと言い放った。

 遥か南方のイズマピスから来たゆえに、敵の全貌がいかに巨大かを知らないというのもあったかもしれないが、それでも躊躇いはなかったように思う。

 優先順位がハッキリしているんだろう。本人が自覚しているかは怪しいが、自分にも他人にも下手に格好をつけようとしない自然体な彼の精神は気高さすら感じた。


 少しだけ懸念があるとすれば、彼のそのフェアで誠実な精神だ。

 他人の過ちも自分の過ちも、正しく受け入れ適切に対処できるのならそれは素晴らしいことだ。

 だがその適切というのが、現代の魔術社会の価値観に基づくものだと非常に危うい。

 それこそは奴等が作り出した檻の中だ。その世界では理性や慈悲など容易く利用され踏みにじられてしまう。

 奴等は自分達以外を家畜だと思ってはいるが、人間であることを忘れたわけではない。むしろ狡猾にそれらにつけこんでくる。

 だから徹底的にやるしかない。

 ロッド君が奴等に情けをかければ、それは必ず致命的な弱点になる。本当はそう本人に言いたかったが、それでは彼を操り人形にしてしまうようで躊躇われた。

 すでに利用しようとしていることには変わらないというのに。


 それにあれこれ邪推したが、彼が優先順位を間違えなければそんなことにはならないだろう。

 彼自身言っていた、家族を脅かす敵を倒すこと。今は無自覚でも、いつか自分についてより深く知って強くなって欲しい。


 ......強くなって欲しい、か。ほんの少しの会話で随分と彼に入れ込んでいるな。

 彼の純粋で誠実な精神にあてられたか?なら、僕もまだまだ捨てたものじゃないかもな。

それに彼の魔術は実に興味深いものだった。厳密には術とは呼べないかもしれないが。


 だが『回転』か...面白い発想だ。普通の感知タイプには他人の体内の魔力は感知出来ないと言っていたが、それでも自分の魔力そのものをもっと自由に、手足のようにとはいかなくともある程度操るのことは可能かもしれない。


 まだまだ奥が深いな、魔術というのは。彼を焚き付けた以上、私も政治的にも戦闘でも奴等と戦う準備を整えなければ。


 ロッド君には堂々と利用すると言ったが、彼を捨て駒にしようとは思わない。

 ようやく巡ってきたチャンスだ。魔術社会の均衡を取り戻し、健全な国になることを夢見てきた。

 奴等もまさか13歳の、それも一般家庭出身の子に真っ向から反抗されるとは思わないだろう。

 しばらくは彼から目が離せなくなるはず。

 囮にしてしまうのは心苦しいが、決して見捨てはしない。奴等に勝ったら彼と同志達と一緒に祝杯を上げたいな。


 そして彼を指導した《猛毒(ヴェノム)》もやはり無視できない。 "無限(エンドレス)" とやらを編み出したのは彼自身と言っていたが、魔力操作を鍛えたのはあの御仁だという。

 であれば彼女も普通の感知タイプ以上の魔力操作が出来るということだろう。

 まあ伝え聞いた話だけでも彼女が普通ではないと思えてしまうが...でなければ《猛毒(ヴェノム)》などという渾名がつくはずもない。


 その孫であるナスターシャ=アニムカルスはどうするのだろうか。

 明日の彼を見て彼女は何を思うのだろう。いや、これは容易に想像できる。

 彼女がロッド君を見放すことはないはずだ。理不尽に憤り、相手が誰であろうと自分の価値観を信じて立ち向かう。

 今日の彼女の態度を見てほぼ確信した。


 であれば《猛毒(ヴェノム)》の耳に入るのも時間の問題だな。噂が自然と彼女の耳に入る前に、こちらから接触した方がいいかもしれない。

 もしあの御仁に孫を巻き込んだと誤解されてはたまったものではない。

 そもそも発端はロッド君で、しかも彼女の方から巻き込まれに行ったのだ。

 何とも情けない言い訳を考えてしまったが、もう状況は動き出している。やれることは全部やっておくしかない。


 これから忙しくなるな。ヨウルンとオムザにまた小言を言われるだろうが、地獄の底まで付き合わせてやる。

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