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螺旋を描く魔術師 ~力こそパワーというのは時代遅れだ~  作者: 古賀ノコギリ
第1章 学院の洗礼
25/32

子供

「その、ね?実はさっきの2年生達のことでさ、あんなになるまで殴ることなかったかなって思ったんだ。」

「まあ確かにそうね。歯は欠けて鼻は曲がって顎の骨も割れてまともに喋ることもできないって相当な重傷よ?あんなこと言われて怒る気持ちはわかるけど。」

「でもあの先輩達が可哀そうだとは思わないかなー。初対面の人に対して成金だなんて物凄く失礼なこと言ったわけだし。相手が後輩だからって調子に乗り過ぎ。それで顎が割れて汚い言葉が出てこなくなったのはまさに天罰覿面って感じでちょっとスッキリしたかも。」

「ケ、ケイちゃん、他の人に聞こえちゃうよ...もうちょっと言い方を考えた方がいいんじゃないかなあ......?」

「そうね、ケイティの言い方は良くないけど、私も彼らには同情できないわ。」


 これは驚いたな。ナスターシャには少し窘められたけど、それでも3人ともあいつらに同情していないとは。キュリアですらあくまでケイティの言葉遣いを注意しただけで、あいつらを気遣う様子がない。

 特にケイティなんかぶすっとした表情に加えて目の奥が笑っていない。本気も本気ってことか。


「意外だね。俺がやり過ぎたって思ってるってことは、あいつらに多少は同情してるもんだと思ってたけど。」

「あのね、馬鹿にしないでちょうだい。そんなの今ケイティが言った通り調子に乗った彼らが悪いの。やり過ぎというのはあくまで事件に発展してしまって、結果的に危ない橋を渡る羽目になったことを言ってるだけよ。それとも何?まさかあなたは彼らに同情してるの?」

「え?どう、なんだろう...?正直そこら辺も気持ちの整理ができていないっていうか...。」


 そういえばそういう観点では考えてもみなかった。考えてなかったということはつまり全く可哀そうとは思っていなかったということだ。

 口が利けなくなる程痛めつけた相手の具合よりも、自分の内面の変化と秘められた凶暴性についてひたすら悩んでばかりだった。

 またしても知りたくもない自分の一面を知ってしまった気がする。俺はこんな薄情で自分のことが第一な奴だったのか...?


「でも、確かに俺はあいつらに同情してなかった。でもそれはそんな余裕がなかったっていうか...あ、でもあいつらを放置して現場を後にしちゃったのは事実なんだけど、でもその後衝動であそこまでやった自分が怖くなって、そもそも昔の俺はあんなんじゃなくて......ダメだ、こんなひどい言い訳...俺、何言ってんだ......?」


 ひどい。本当にひどい。話の順序も俺の情緒も滅茶苦茶だ。幼稚で、無様で、醜い。みんなの顔を直視できない。男子が女子に、ましてやナナ先生のお孫さんにこんな情けない姿を晒してしまうなんて。


「ロッド、顔を上げてこっち見て。」

「え...?」


 恐る恐る3人の顔を見ると、引いた様子はないがナスターシャとケイティがやれやれといった表情、キュリアは真剣な表情をしている。


「ロッド、結局のところあなたが何を気にしているのかよくわからないわ。だからちゃんと聞かせて。あなたは彼らに申し訳ないと思っているから暗い顔をしていたの?それとも今言った自分が怖くなったから?」

「ロッド君、まずはそこから絞ろう?心の問題って複雑だからね、ひとつひとつ整理しようよ。」

「あ、ああ。ありがとう。何か、随分慣れた感じだな。俺と同い年なのに人生経験が豊富だったり?」

「自分のことじゃないから冷静に聞けるのよ。それに、私達は昔から困ったことはお互いによく相談してたから、人の相談に乗るのは得意なのよ。というかそんなことはいいから、実際どうなの?」


 ...どうなのか?正直なところ答えはもう出ていた。

 俺はあいつらにこれっぽっちも同情していない。やはり第一印象の悪さが尾を引いているのか、あるいは家族を馬鹿にされたことがそんなに許せないのか。

 それに先に仕掛けようとしたのは向こうだ。無抵抗で黙ってやられるなんてありえない。

 だからってあれはやり過ぎだった...いや、それはまた別の話だ。ここで整理するべきなのはあくまで同情か自己嫌悪か。

 そして答えは同情ではない、つまり自己嫌悪。

 この判断を下すのも億劫だが、3人の指示に従えばいいと思うことで心に少しだけ余裕ができた。


「同情は...多分してないと思う。家族を馬鹿にしたあいつらは可哀想とは思えない。あいつらはきっと、俺とは別の常識の中で生きてるんだ。違う世界の、違う種類の人間。そうじゃなきゃ会ったこともない人のことをあんな風に言うわけがない。きっとそうだ...だから...同情なんか...してたまるか......俺は、自分が怖くて嫌いなだけだ......。」


 言葉がスラスラ出てこない。息も苦しい。自分の考えをはっきりと他人に伝えるのがこんなにも恐ろしい。


「重症ね...。一度聞くと言った以上投げ出すつもりはないけど。じゃあ次よ。あなたは衝動であそこまでやったって言ってたけど、その衝動って具体的にどういう感情から生まれたのかしら?さっき言った家族をけなされた怒り?」

「それなんだ。それが一番の問題なんだ。確かに家族を馬鹿にしたあいつらへの怒りはあった。でもそれだけじゃないんだ...俺は実戦で自分の力を振るうのは初めてだったから、うまく "無限(エンドレス)" が決まって、自分の術が通用することに興奮して、調子に乗った。他にもある。先生からは、一般家庭という出自や感知タイプという持って生まれたものを嘲笑う輩に出会ったら、思い知らせてやれって言われててさ...でも自分勝手な解釈をしてさ、思い知らせるにももう少しやりようがあったんだろうなって思うんだ...それにこんな言い訳してる時点で、先生が悪いって言ってるようなもんだし、そんな屁理屈を考えついてしまう自分が気持ち悪いんだよ......ああ、やっとわかった...俺が自分を信じられない一番の理由は...!」


 先生は言っていた。私の言葉に従うだけの人間になるなと。

 自分のことは自分で決めろと。

 先生の教えを何一つ守れていないじゃないか。俺は魔力を使う術を学んだだけで、人として、魔術師としてまるで成長していない。

 3年前の魔術師になれると知って高揚したあの頃から何も変わっていない。

 あの頃の昂りを習得した魔術と体術を使って他人にぶつけてしまった。

 自分の意思で事を成せという教えをわかってなかった癖に、敵意を持つ相手には遠慮するなという部分だけはわかった気になっていた。


 結局のところ、俺は子供のままでいる自分がおぞましかったんだ。成長した体と成長していない精神。

 そんな不釣り合いでちぐはぐな半端者が自分の事なんだと、ようやく理解できた。

 人に心の中を吐き出してようやくか。

 で、わかったところでどうすればいいんだろうな......?


「ねえ、大丈夫...?私達、ロッド君が話せるようになるまで待てるから、焦らなくていいよ?」


 キュリアの優しさは嬉しい。が、これじゃ完全にあやされてる子供だな。今の俺にはお似合いか。


「ああ...大丈夫、やっとわかったよ。俺は、体だけでかくなって中身は10歳のクソガキだってことが。」

「ふうん。それって別にそこまでおかしいことじゃなくない?」


 ケイティがあっけらかんと言ってのけた。


「は?いや、だって俺はもう13歳だぞ?なのに魔術を学び始めた10歳の頃から全然成長してなくて―――」

「たった3年の差しかないじゃない。大人から見れば10歳だろうと13歳だろうと子供って認識よ?うちだって弟がいるけど、パパもママも私と弟への接し方とかほぼ同じなんだから。あまりいい気分はしないけどね。」

「でも俺は中途半端に魔術が使えるようになったせいで、自分の力を正しく認識できてなかったんだ!その結果先生の教えも正しく理解できてないまま俺は強いんじゃないかって幼稚なこと考えて―――」

「私だって覚えた術を好奇心で試して怒られたこともあるわよ。私よりケイティの方がひどいけど。」

「急に飛び火するのやめてよ!」


 ケイティが膨れっ面になって抗議するが、ナスターシャは相手にせず続ける。


「それに中途半端って、あのおばあちゃんにしごかれた自分のことをそう思うの?」

「あ、いや、違うって。俺が魔術を習得することに舞い上がったせいで魔術師の何たるかを知ろうとしなかったというか、でも先生もそういうのは時間がないからって後回しにした結果―――」

「そこにそんな食いつかなくていいわよ...。とにかく、私達は6歳から魔術を学んでるから流石に危ないこととそうでないことの区別はつくようなった、というか身を以て知ったけど、あなたは10歳からでしょ?そういのはこれから経験して分別を身に付ければいいんじゃない?それにパパが言ってたわ。私達、というか学院生なんてまだまだ発展途上の子供なんだから、程々に怪我して学べ。怪我じゃ済まなくなりそうだったら、責任感を持つ大人がいくらでも尻拭いしてやるから、しっかり反省するのを忘れず心の赴くままやってみろってね。」

「...すげえ。滅茶苦茶かっけえな、ナスターシャの父さん。今の俺に刺さりまくる言葉じゃんか。」

「ええ、自慢のパパよ。背中が大きくて、とっても頼りになるの。本人は何事も最初から大人をあてにするなって言うけど、いざというときは絶対助けてくれて、家族を心から愛してくれてる優しいパパ。おばあちゃんともそういうとこはそっくりなの。ロッドも心当たりがあるんじゃない?」

「ああ、わかるよ。先生はいつも俺に言ってた。私は君を導かない、最後に頼るべきは自分自身だって。その癖ちょっと過保護なところもあったけど...。」

「でしょうね。パパもそう言われたらしいわ。...ねえロッド、まだ自分が怖い?嫌い?」


 正直、まだ俺は体と心がちぐはぐな自分の危うさを恐れている。

 確かにナスターシャ父の言葉から滲み出る頼もしさは迷いを吹き飛ばしてくれそうになる程だが、そうやって他人の言葉に寄り掛かり続けた結果がこの様だ。

 どうしても迷いが捨てられない。


「少しは冷静になれたけど、やっぱり俺は自分の幼稚さが危ないと思う...ごめん、ナスターシャ。」

「なんで私に謝るのかしら?ちょっと頑固だからって別に怒ったりなんかしないわよ。」


 が、頑固?俺が?俺の悩みは頑固さから来てるってか?


「ちょっと待った、俺が頑固って何を根拠にそんなことを?」

「そうね、確かに頑固とは違うかも。なら言い直しましょうか。ちょっとヘタレだからって別に怒ったりなんかしないわよ。」

「ぐっ...!それは、効くな......。」


 頑固よりよっぽどしっくり来る。確かに俺は正解のない悩みでウジウジしてる情けない男に見えるんだろう。返す言葉もない。


 さっきのキュリアの時もそうだが、彼女達は優しいが、同時に容赦がない。考え方によってはむしろ頼もしさを感じるのかもしれない。


  ヘタレ呼ばわりされてしょぼくれる俺に対してナスターシャはさらに畳み掛ける。


「結局あなたが2年生達を殴ったのは家族をけなされて許せないと思ったからでしょ?怒りの感情や衝動を抑えられない自分が幼い?そんなわけないでしょう。あなたは人間なのよ?絶対に許せないと感じる一線は誰だってあるわ。私だってそうよ。いえ、私は家族や友達だけじゃない。私自身のことをけなされるのも許せないわ。だってそうでしょう?私が家族を愛し、友達を信じているように、家族や友達もまた私を愛し信じてくれている。だから私を馬鹿にするということは、私を信じてくれる家族や友達を馬鹿にされたのと同じことだと思うの。あなただって、彼らに同情してないということは私と同じはずよ。」


 なんて力強い子だろう。自分の感性を信じ、その自分を信じてくれる人も同じように信じる。

 その揺るぎない強さが、ただただ羨ましい。


「俺だって、俺のことを信じてくれる人を馬鹿にされるのは許せない。でもそれで怒りに呑まれたらどうしよう、とかは考えないのか?」

「あのね、そもそも―――」


 ナスターシャの反論は突如遮られた。


―――ピピピヒピ!!



 治安維持隊士から渡された球体が発した音によって。

更新ペース少し落ちます。申し訳ありません。

理由はストックが尽きつつあるのと、免許を取ろうと思っているためです。

それでもなるべく1日おきには投稿する予定ですので、どうかご容赦ください。

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