未だ見えぬ道
「キュリア、まだ入学すらしてないのにそんな弱気になることないじゃない。私達みんな感知タイプなんだから、お互いを助け合って、お互いを守りましょう。」
「でも、私じゃ2人の役に立てないよ...私はターちゃんやケイちゃんと違って体を鍛えてないし、感知タイプ相応の魔術しか使えない......。」
あれま、魔術しかやってこなかったのかキュリアは。今の時代感知タイプは魔術だけだと放出タイプに勝てないから、第2の牙を磨くベしって先生に教わったけど、それじゃ苦労しそうだな。
「ご両親のアドバイスを聴かなかったあなたが悪いんじゃないの...みんな口を揃えて鍛えろって言ってたのに私には無理とか言ってやらなかっただけでしょ?」
「だ、だってあんなの続けられるわけないよお...。」
「でもさー、その結果こうして不安になってる以上はそれが失敗だったってことだよね?」
「ううっ......じゃ、じゃあどうすればいいの?」
「「「今からやればいい。」」」
全員考えることは同じだった。
「そんなあ...あんな苦しいのもうやだよお......。」
確かに俺もナナ先生に体術とかの修行をつけてもらったけど、魔術の修行よりはるかに苦しかったな。
ま、ナスターシャの言葉を借りるなら、それだってやってしまえば出来てしまうもんだ。
さっき俺に謝罪した潔さはどこへ行ったのか、見苦しい駄々をこねるばかりで話が進まない。
すると―――
「そう。なら封印処置を受けてさっさとドニリアに帰れば?これ以上あなたの泣き言に付き合っても進展なさそうだもの。」
「そ、そんなことになったら、私には何も残らなくなっちゃう......何も出来なくなっちゃうよお......。」
キュリアがとうとう泣き出した。店内で同じテーブルの子が泣き出すとか勘弁してくれよ...しかも傍から見れば男子1人に女子3人の集団だぞ?絶対よからぬ想像されるに決まってる。
それにしても封印処置って、なんだそりゃ?話の流れからしていいことではなさそうだな。
「ちょ、ちょっとキュリア、落ち着いてくれって。ナスターシャ、封印処置って何だ?」
「え、嘘でしょ?何で知らないのよ?おばあちゃんから教わってないの?」
「ロッド君それはありえないって。普通最初に教わると思うんだけどな。」
「いや、学院に入るまで3年間しかなかったからさ、さっき言った通り長所と体を鍛えることに全力を注いだせいで座学はちょっとしかやってない。」
「お、おばあちゃんどうしちゃったのよ...あ~もう仕方ない。私が説明するわ。」
「すまん...。」
先生、やっぱり俺は尖りすぎているらしいですよ。どうしてくれるんですか?
「封印処置っていうのはね、簡単に言えばその処置を受けると魔術師であることを捨てて一般人として生きることになるのよ。」
「え、魔術師として生きるかどうかなんて個人の自由じゃないの?」
「そういうことじゃないの。魔力を使えるけど魔術学院に通うことを望まない者や魔術師免許を取得できずに学院を中退した者、何らかの罪に問われて魔術師免許を剝奪されるような刑罰を下された者が魔術を使えないようにその人の魔力を封印する。それが封印処置よ。要するに、国が認知していない無免許の魔術師が現れないようにするってことでもあるの。あ、ちなみに5年間の在学中で魔術師免許を取得できなくても、合格するまでいくらでも留年できるのよ。」
なるほど、確かに理に適ってる。無免許魔術師の存在を許し、社会に仇なすことがあってはそのまま国の脅威になりかねない。
というか何年も留年って、そんな馬鹿はそうそういないだろう。
「いやそんな何年も留年してたら恥ずかしさで死にたくなるだろうよ...でもわかりやすくて助かった。ちなみに魔力の封印って、具体的にどう封じるんだ?もしかして俺と同じ方法だったり...はしないか。感知タイプには通用しないわけだし。」
「それは公開されていないわ。わかっているのは、封印術師と呼ばれる特別な資格を持つ魔術師が請け負っているということだけ。」
そりゃそうか。他人の魔力を封印するなんて方法が知れ渡ったら、魔術師の封印がやったもん勝ちになって魔術社会が大混乱になるかもな。
「そういうことね。で、それがキュリアがべそかいた理由か。」
「うん。だからキュリアももっと色んなことできるようになっておけば、魔術師になるのをやめたとしても困ることはないはずだし、そもそもそれぐらい自分を磨いて、鍛えておけば今になって不安になることもなかったと思うよ。」
ナスターシャもケイティも厳しいことを言う。だが気休めを言ったところでどうにもならないのは事実だし、ちゃんと指摘してくれるのはむしろ友情があるからこそなのかね。
とは言っても、正直俺もキュリアのことをどうこう言えるような上等な人間じゃない。
ナスターシャ達に自己紹介した時も、自分の魔術の種明かしをした時も、心の穴は塞がらなかった。
それどころか "無限" の説明をしている内に、ますます自分がわからなくなっていた。
彼女達に自分の得意分野についての説明を思い返すと同時に、あの2年生達の魔術を封じた時の気分も思い返していた。
あの時俺は、やっぱり自分の力に舞い上がっていたのだろうか。
そして自分が上だと思い上がった間抜けを地べたに這いつくばらせて、心は満たされたか?
違うはずだ。違うと信じたい。それなら怒りで手加減できなかったという方がまだマシじゃないのか。
いや、それだと俺は感情を処理できない獣と同じだ。
だがいくつか思い浮かぶ理由で自分を納得させられないのは何でだ?
自分がそんな醜い人間だと認めたくないだけなんじゃないか?なら高尚な理由があれば加減しなくてもいいのか?
違う。そういうことでもないはず。そもそも俺は自分を正当化しようとしているのか?自分のことを聖人君子とでも思っているのか?だとしたらそれこそ醜いにも程がある。
ナナ先生の教えに従っただけなんて理由は論外だ。それだけはありえない。だが無関係と言い切れるのか?
先生は感知タイプと侮って喧嘩を売ってきた者には思い知らせてやれと言った。いや、だから何だ。先生は最初に俺にこう言った。
どうしたいのか決めるのは自分だと。先生の言葉にただ従うだけの人間になるなと。
俺は先生の言葉を盲目的に信じていたのか?それとも自分勝手な解釈をしていたのか?だとしたらなおのことタチが悪いだろう。
その挙げ句、今度は自分で何も決められなくなってるじゃないか......。
こんな状態でまともな学院生活ができるのか?それにこれからも放出タイプに絡まれるんじゃないか?
そうなったら俺はどうすればいいんだ?また徹底的に痛めつけるのか?そしてそれにはどんな理由をこじつけるんだ?
まともな芯を持たない俺こそ、入学をやめるべきなんじゃないのか?
「ちょっと、ロッド?ねえ聞いてる?ねえったら。」
「え?あ、ああ、ごめん。ちょっと考え事を...。」
気付けばキュリアも泣き止んで3人とも俺の顔を心配そうに覗いていた。
「......ロッド君、顔色悪いよ?今の話で何か嫌なことでも思い出した?」
...何でケイティはこうも鋭いんだ。
「ロ、ロッド君大丈夫?私が変なこと言い出したせいだよね...?」
「あなた、初めて声をかけた時もひどい顔をしていたわね。もしかしてあなたも学院生活が怖くなったの?」
「別にキュリアのテンションに引っ張られたわけじゃないさ。まあ、学院生活そのもの、というよりはそれに自分が適応できるかとか、人間関係についてとか...。」
今日会ったばかりの、それも同い年の女子に相談できることじゃない。いや、その判断すらも自信が持てない。
俺はもう、どこにも踏み出せない......。
「...いいわ、話してみなさいよ。このままじゃみんなスッキリしないもの。」
「うんうん。キュリアのお悩みついでに相談に乗ってあげるよ。」
「ケイちゃん、それはひどいんじゃないかな...?」
ついで、ね。真面目になりすぎない方がむしろありがたいね。




