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螺旋を描く魔術師 ~力こそパワーというのは時代遅れだ~  作者: 古賀ノコギリ
第1章 学院の洗礼
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力を制する技

「先に結論から言うと、あれは俺が起こしたことだ。」

「やっぱり...。それで、具体的に何をしたの?」

「その前にまず前提として、俺は感知タイプの魔術師だってことを知っておいて欲しい。そして普通の感知タイプよりも扱える魔力が更に少ない体質なのも。」

「どういうこと?」

「ここは本筋じゃないから説明は簡単に済ませるけど、俺の魔力門はとても脆いんだ。魔力を多く放出しようとすると門が負担に耐えられず、最悪壊れるんだと。」

「魔力門が?どうしてそんなことに?」

「さあ?俺にもわからないね。ただ事実としてそうであるのは間違いないよ。」

「そうなんだ...放出タイプと感知タイプも違うのは感覚の鋭さであって、門の耐久性がどうたらっていうのは初耳だなー。」


 ケイティが首を傾げている。どうやら俺が魔術師のタイプの違いについて新説を唱え出したと思っているらしい。

 そういうことじゃないっつの。


「放出タイプと感知タイプで魔力門の強度が違うって言ってるんじゃなくて、あくまで俺の魔力門が脆弱だって話だから。」

「んん?うん、なんとなくわかったよ。」


 なんとなくかい。まあ先生も聞いたことのないケースだったらしいし、なんとなくでも仕方ないか。


「話を戻すか。魔力放出量が少ない俺は、先生との3年間の修行のほとんどを長所をひたすら伸ばすことと、体を鍛えることに費やしたわけよ。その長所っていうのが魔力感知と魔力操作。」

「はあ...それを伸ばして具体的にどうなったの?」


 ナスターシャもピンと来てないらしい。そういえば彼女達ってどっちのタイプなんだろう?後で聞いてみるか。


「どうもよくわかってないみたいだな。あえて自慢するけど、俺の感知力と魔力操作の腕はナナ先生に私も及ばないって言わしめた程だぞ?」

「はあ!?」

「タ、ターちゃん、声が大きいよ。」

「......続けて。」


 キュリアの注意で何事もなかったかのような顔で続きを促すナスターシャだが、明らかに声のトーンが下がっている。

 ケイティとキュリアも察したらしく、テーブルに緊張が走った。


「で、その精密な魔力操作で俺に何ができるのか、そしてあいつらに何をしたのかと言うと......あいつらが魔力を放出しようとした瞬間に魔力の流れを変えたんだよ。」


 3人揃ってキョトンとした顔だ。


「流れを変えたって、何の魔力を?」

「あいつらの体内の魔力だよ。」

「...ちょっと待って、あなた他人の体内の魔力に干渉したって言うの?」

「魔力そのものに干渉したわけじゃない。ただ向きを変えただけさ。川の流れを変えるようにね。いいか?人間が魔術を使う際のプロセスをひとつひとつ分解しながら解説するぞ。まず、魔力門を開けるよな?体のどこからかはこの際関係ない。次に開けた門から魔力を放出する必要がある。そして最後に魔力変換をして術発動、となるわけだが開門と放出の間には実はもうひとつプロセスがある。はい、わかる人?」


 ......ダメか。というか外したか?キュリア以外の視線が痛いよ。もったいぶるなって目で睨まないで...。


「えー、じゃあ正解発表です。正解は魔力の移動、でした。で、俺があいつらに仕掛けたのはこの部分な。魔力が体内から魔力門へ向かおうとする流れの向きを俺の魔力で変えたの。勢いって言い方は適切じゃないかもだけど、魔力の流れを殺さず緩くカーブさせて、門からはみ出ないようギリギリの範囲で円形の流れにしてやった。するとどうなるか?魔力は体内をグルグル回り続けるばかりで門から放出されないってわけよ。だからあいつらは魔術が使えなくなった。これが俺の術 "無限(エンドレス)" だ。俺の言ってることわかる?わからないところは聞いてくれ。」


 反応は三者三様だ。ナスターシャは目を瞑って眉間を揉んでいる。なんとか話を噛み砕こうとしてるらしい。

 ケイティは腕を組んで天井を仰いでいる。彼女はちょっと読めない。

 キュリアはまたも首を傾げており、頭上にクエスチョンマークを浮かべている。

 そりゃ一発じゃわかんないわな。先生も俺のフィーリングと実演を交えた説明でやっと理解したぐらいだ。


 この魔術、厳密には "無限(エンドレス)" は魔術に分類されないらしいが、とにかくこれを俺が編み出した時は先生にはあまりいい顔をされなかった。

 術そのものを嫌ったわけではなく、これを使うことが知られて俺に対する風当たりが強くなることを心配してくれたからだった。


「...あの時何が起きたのか、あなたが何をしたのかはわかったわ。でも、他人の魔力を操るのも、他人の体内の魔力を感知できるというのも聞いたことがない。何をどうやったらそんなことが出来るの?」

「俺の魔力操作は鍛えて習得したものだけど、感知の鋭さは持って生まれたものでね。理屈で説明するのは難しいな...さっきも言ったけど、俺は魔力そのものをいじったわけじゃない。俺の解説を思い出してくれ。魔術発動のプロセスだ。まず魔力門を開ける、ここだ。魔力門が開いたということは、魔力を内側から放出するだけじゃなくて、外側から取り込むこともできるとは思わないか?俺は2年生が殺気だった瞬間に少しだけ魔力を放出してあいつらの魔力門の状態を把握していたんだ。そしていざ魔力門が開いた瞬間にこっちの魔力を流し込む。そして自分の魔力で門に向かっている相手の魔力を向きを変えるんだ。さっきの例えで言うなら、激流のような相手の魔力に自分の魔力で作った土手を流れに沿わせるように少しずつ向きを変えるような感じ。魔力の流れに対して垂直に壁を作って向きを変えるのは俺の少ない魔力じゃ押し流されるから無理だし。そうやって少しずつ少しずつ内向きにして、やがて円になれば完成。ナナ先生曰く、放出タイプ相手ならこれだけで魔術を完全に封じ込められるってさ。まあ、俺みたいに体を鍛えて肉弾戦もできる奴が相手だと勝ち確定とはいかないけど。」

「......じゃああなたは、対峙した相手に対して絶対に先手を打てるってことじゃない。」

「先手、って言っても...確かに感知はできるけど、あくまで俺の魔力を通じて触れなきゃわからないさ。他人の魔力そのものの操作はできない。俺にできるのはあくまで魔力の動きを制御すること。所詮は他人のものなわけで。第一ただ突っ立ってるだけじゃ、他人の魔力どころか魔力門が開いたかどうかもわからない。でも、どんなにか細い魔力でも、放出して相手に触れていればわかるし、門から体内の魔力に触れることが出来る。」

「...正直信じられないわ。感知タイプにそんなことが出来るなんて聞いたことがないもの。それに私達もみんな感知タイプだけど、他人の魔力を感じるなんてできないわよ。体や魔力門に触れられたって、そんなのわからない。」

「どうかな。先生は他人の魔力門を開けて魔力を吸い上げることができるぞ?同じ感知タイプなら、それこそやってしまえばできるものさ。それに先生は感知タイプの社会的地位のために俺の特異な体質や魔術を研究する気満々だった。あ、別に危ないことされたわけじゃないからな。確かに俺は他の感知タイプには出来ないことが出来る。他にも普通の感知タイプとの違いとして、俺は魔力を物理的な感覚で捉えることが出来る。俺にとって魔力っていうのは、魔術を使うために放出する形容しがたい何かじゃなくて、手で触れられるような実体を持つ存在なんだ。その代わり魔力放出量が貧弱すぎて、普通の感知タイプに使える術も自力じゃほとんど使えないけど。」


 そう、俺は自力で使える一般的な魔術がとにかく少ないし、使えるものも効果が弱すぎる。

 何でもかんでもできる人間はいないってことだな。


 ちなみに先生も他人の魔力門や魔力に干渉出来るが、あくまで直接相手に触れなければならないらしく、俺のように魔力そのものだけで触れるという感覚はないそうだ。


「おばあちゃんが?そんなの、初めて聞いた......。」

「それに、この術も完璧じゃないんだぞ?通用するのは感覚の鈍い放出タイプに対してであって、同じ感知タイプには通用しないって先生が言ってたし、実際通用しなかった。感知タイプなら自分の魔力門から体内に入ってきた魔力はすぐに察知できるし、魔力を円の流れで封じようとしても自分が何をされているのか、自分の魔力がどう動いているのかわかるんだと。例え俺程具体的じゃなくても、自分の中で起きていることぐらいは簡単に察知するし、レベルの高い術師は巧みな魔力移動で流れを自由に変えられるから結局魔力放出は止められないってさ。」

「じゃあロッド君は、放出タイプ相手に特化しているってこと?」


 ケイティ、急に来たと思ったらそういうのは察しがいいな。


「まあ、そういう風に鍛えられたから。先生が傲慢な放出タイプに絡まれたら返り討ちに出来るように、って。俺は一般家庭の生まれだし、魔力放出量が少ないからまともな術は使えない。それが放出タイプに知られたら間違いなく目を付けられるから、絶対に自分を守れるようにする必要があった......先生曰くね。」

「その結果が、他人の魔力操作なんだ...。」


 キュリアが複雑な顔で俺を見ている。同情、恐れ、不安、失望。

 そんな感情が見え隠れする。


「キュリア、どうした?顔色がよくないな。」

「ご、ごめんね。ちょっと、学院生活が怖くなってきちゃって...放出タイプの人って、そんなに怖いのかなって......もしそうだとしたら、5年間やっていけるのか不安で......。」


 あーあー先生、あなたの発言でいたいけな女の子が完全に縮こまってますよ。...いや、俺が余計なこと言っただけだな。

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