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螺旋を描く魔術師 ~力こそパワーというのは時代遅れだ~  作者: 古賀ノコギリ
第1章 学院の洗礼
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出逢い

 いきなり俺の名前を呼ぶ声が聞こえたので声の主を確認すると、俺と同じくらいの背丈の女子だった。


 一本の三つ編みにまとめられた美しい銀髪と白い肌は陽の光を浴びて輝いており、優しさを感じる可愛らしい整った顔立ちをしている。身に纏っているカーディガンと膝下程の長さのスカートが似合う清楚な雰囲気の女子。


「えっと、どちら様でしょうか...?」

「ああ、敬語は必要ないわよ。私も魔術学院の新入生だから。」

「あ、ああ、そうなんだ。それで俺のこと知ってるみたいだけど、君は?」


 なんだ?もしかして何か謂れのない難癖でもつけてくるつもりか?さてはこいつも"N²"での話を聞いてたのか?


「私はナスターシャ=アニムカルス。さっき路地裏であなたと先輩達が乱闘をしていたところをたまたま通りがかって見ちゃったの。私の友達も一緒にね。あー、でもあれは乱闘というにはかなり一方的だったわね。」


 ......ん?アニムカルス??

 しかも俺と同じ新入生ってことは、まさかこの子がナナ先生のお孫さん...なのか!?


「な、なあ、今アニムカルスって言った?まさか君のおばあさんって―――」

「ストップ。私もあなたについて個人的に色々聞きたいけど、今は他に優先しなきゃいけないことがあるの。」


 穏やかそうな見た目と違ってハキハキと喋る子だ。顔立ちは優しくて清楚な感じでどことなくナナ先生と似た雰囲気を感じるけど、性格までは似ているわけじゃないんだな。

 それにしてもまさか見られていたとは。他人の視線には敏感なつもりだったけど、あの時は目の前の相手に集中しすぎたせいで気付けなかったのか。


「え、あ、ああ、そう。それで、俺に何の用?」

「さっき言った路地裏でのことについてよ。あの先輩達、命に別状はないけどそれでも酷い状態よ。流石に見てしまった以上は放っておくわけにもいかないから、治安維持隊に通報したわ。今は到着まで友達に看てもらってる。」


 別に放っておいてもよかっただろうに、わざわざ首を突っ込んでしまうなんて損な性格してるな。


「そっか。それで、俺を探し出して治安維持隊に突き出そうってこと?」

「違うわ。全然違う。いい?私達はあなた達がやり合う前の会話から聞いてたの。だからあなたの名前も知ってるし、あの先輩達があなたに金をせびろうとして断られたから逆上して襲おうとしたってこともわかってる。私が言いたいのは、あの先輩達と目撃者の私達、そして当事者であるあなたを交えて治安維持隊に正しい証言をするべきだってことよ。」

「それじゃあ君達も証言やら何やらで時間を食うことになる。別に君達が通報せず通り過ぎたって、他の通行人の誰かが見つけて通報したかもしれないのに。わざわざ面倒なことに首を突っ込むなんて何考えてんの?入学直前だっていうのにこんなことを―――」

「あのねえ、もう少し先のことを考えてみなさいよ!もし最初から見ていた私達が見なかったことにして、他の誰かがあなたが立ち去った後のボコボコにされて倒れてる先輩たちを発見して通報したらどうなると思う?あそこで何が起きたかを治安維持隊に証言するのはあの先輩達だけになるのよ!?そうなったらあの先輩達は間違いなく事実を捻じ曲げて嘘の証言をするわ!自分たちは路地裏に連れ込まれて一方的に殴られた被害者なんです、ってね。あなたの名前は加害者として伝えられることになる。そうなったらあなたは通り魔としてお尋ね者にされる可能性大よ!なんでそう思うのかって顔してるわね?さっきも言ったでしょ?乱闘が始まる前から会話を聞いてたのよ!だから簡単に想像できるの!ああいう外道がやりそうなことよ!自力で勝てないとなればどんな汚い手を使ってでも恨みを晴らす。恥知らずで、自分のことは棚に上げて、その癖他人から危害を加えられた時は恨み骨髄。あなたはそういう輩と接点を持ってしまったのよ!確かにあなたは傷一つ負うことなく先輩達を蹂躙してしまったから、正当防衛が通用するかはわからない。罰せられることはなくても何らかの処分を受けるかもしれない。それでも今あなたが一番リスクを抑えられる方法は、当事者であるあなた、そして目撃者である私達が治安維持隊に嘘偽りなく証言して真実を伝えることなの!だから私と一緒に現場に戻って!」


 滅茶苦茶必死にまくし立ててくるな。俺そんな顔してたか?それにああいう輩の習性に随分と詳しい。経験からくる言葉か?

 というか、何でそこまで気にしてくれるんだ?正義感が強いとか?


「何で......何でそこまで気にしてくれるんだ?君とは会ったばっかなのに。」

「はあ......まあ色々よ。ああいう輩の思い通りにさせてしまうのが気に入らないっていうのもあるし、そうなってしまったらあなたが可哀そうって思ったのもある。後はさっき言った個人的に色々聞きたいことがあるっていうのもね。」


 可哀そう、ね。まあ言い方が若干気にはなるけど、心配してくれたのはありがたい。それに、どうやらお互いの素性はある程度わかってるみたいだな。


「そっか。ありがとう、気にかけてくれて。じゃあ戻ろう。」

「どういたしまして。とは言っても、あなたが無罪放免となるかはわからない。礼を言うのはまだ早いかもしれないわよ?」

「それならそれで...まあいいさ。必要以上に痛めつけたのは事実だし。いっそ留置所にでも入れてくれた方が、自分のしでかしたことの大きさを自覚出来ていいかもね......。」


 俺は一体何を言っているんだろう。自分の行いを反省してそう言ったのか、自分に絶望して捨て鉢になっているのか。本心ではどうしたいのかもわからない。もう、誰かに委ねてしまおうか...。


 すると彼女の視線が急に鋭くなった。


「ねえ、あなたさっきから随分テンション低いけどなんなの?誰が一番悪いかなんて、そんなのあの先輩達に決まってるでしょう?路地裏での先輩とのやり取りはあんなに強気だったのに、終わった途端に燃え尽きちゃったわけ?それとも戦いになると人が変わるタイプ?」


 人が変わる、か。なるほど、そういう見方もできるな。戦いになると高揚して、相手を痛めつけて快楽に浸る。いい趣味だとは思えないけど、ひょっとしたらそれが俺の本性なのかもな。


「は、ははっ。そうなのかもな。自覚がないだけで、俺って実は喧嘩が好きなヤバい奴だったりして...。」

「...もう、意味わかんない。こんな情緒不安定な子がおばあちゃんの教え子かもしれないなんて......。」

「ん?今何て言ったの?」

「別に。どうでもいい独り言よ。それより、治安維持隊に証言する際はあなたはただ事実だけを言えばいいから。私達も話を変に付け足したり削ったりもしない。そうすれば治安維持隊にも真実として聞き入れえもらえるはずよ。」

「わかった。言う通りにするよ。」



 彼女に連れられて現場に戻ると、治安維持隊が2人で裏路地の両側を封鎖しており、野次馬を搔き分けると彼女の友達と思わしき女子2人が3人目の隊士から事情聴取を受けているのが見えた。

 俺がボコボコにした2年生達は壁にもたれかかるようにして座っており、意識は取り戻しているらしい。


「すみません。私はそこで事情を説明している子達の友人で、同じく事のあらましを見ていたナスターシャ=アニムカルスという者です。そっちに座っている彼らと暴力沙汰になったという当事者を連れてきました。」

「事情は彼女達から聞いています。中へどうぞ。」


 彼女が現場を封鎖している隊士に事情を説明し、俺も連れられてそのまま裏路地に入る。


「あ、ナスターシャ!よかった、見つかったんだね!」


 ナスターシャの友達と思われる女子が声をかけてきた。

 黒髪をポニーテールにした白すぎず黒すぎずな肌の女の子で、見た目は清楚で可憐なナスターシャとは対照的にスポーティでクールな容姿をしている。


「うん、近くにいたからすぐに見つけられたの。2人ともありがとう。先輩達に何かされたりはしてないみたいね?」

「大丈夫だよ。治安維持隊が来るまでずっとグロッキーだったから。というか今もだけど。」

「キュリアもありがとう。怖かったと思うけど、よく頑張ったわね。」

「う、ううん。ケイちゃんが言ってた通りで何も起きなかったから、私は何もしてないよ。」


 こちらは長い赤髪をツインテールにした女の子。パッチリした目が特徴的で、顔立ちは明るく活発そうに見えるが喋り方はやや弱気で儚げな雰囲気が漂う。

 あれ?この子なんか見覚えあるような、誰かに似ているような...。

 ダメだ、思い出せない。というか今はそれどころじゃないし。

 ところでこの子、俺を見てちょっと震えてないか?


「キュリア、彼は暴れたりなんかしないわよ。だから大丈夫。」


 そうか、友達と一緒に目撃したって言ってたからな。俺のことを狂暴で無抵抗の相手を殴るようなヤバイ奴だと思って恐がっているのか。

 その予想はそこまで的外れでもないから弁解のしようもない。


 ひとまずケイちゃん、キュリアと呼ばれた彼女達の顔を記憶すると、彼女達に事情聴取をしていた隊士が話しかけてきた。


「どうも、君があそこに座っている彼らと諍いを起こしたというロッド=ナターンで間違いありませんか?」

「はい、確かに俺が彼らに暴力行為を働いたロッド=ナターンです。」


 ナスターシャが俺の方を睨むのを感じる。俺の露悪的な言い方が気に食わなかったらしい。


「できればすぐにご自身で通報していただきたかったのですが...まあ彼女達が間髪入れず通報してくださったので、事件発生からすぐに現場を保存できたのは幸いでした。では早速、お話を伺ってもよろしいでしょうか?」


 ナスターシャと視線を交わすと怪しまれそうなので、隊士から目を離さずに説明することにした。


「はい、大丈夫です。」


さて、どうなるか......。

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