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螺旋を描く魔術師 ~力こそパワーというのは時代遅れだ~  作者: 古賀ノコギリ
第1章 学院の洗礼
19/32

目撃者

 酷いものを見てしまった。まさか学院区画の路地裏で乱闘が起きるなんて。


 私は今年度から魔術学院に通うため、ドニリアの実家から学院の女子寮に入った。それが昨日のこと。

 ドニリアと首都の距離はそれほど離れてるわけではないので、実家から通いでもよかったのだが、両親が揃って寮を勧めてくるのでそこまで言うならと寮暮らしをすることにした。

 両親曰く、学院生同士で寝食を共にするのはいい経験になると。

 近所に住む同い年の友達にもそのことを伝えると、どうせ寮の管理費は国から出てるからということで、一緒に寮に移ると言ってくれたのは嬉しかった。


 今日は昨日一緒に入寮した地元の友達2人と学院区画の商店街で生活用品の買い出しついでににショッピングを楽しんだり、甘いもの巡りをしていた。

 生活用品なら寮の近くにある百貨店でいいのではと思ったが、友達に押しきられてしまった。

 結局こうして楽しめているしまあいいかと思いながら、愛読しているシリーズ小説の新刊を買おうとみんなで書店に向かっている時にそれを目撃した。

 その書店と隣の宿屋の間の路地裏で、私と同じくらいの背丈の赤茶色で癖のある髪を持つ男の子が、ヘアバンドで髪をオールバックにしている男の子と背の高い男の子の2人組に絡まれているところを。


 最初は後ろ暗い話でもしているのかと思い聞き耳を立ててみると、赤茶髪の男の子は学院の新入生で2人組の方は2年生であるらしい。

 しかも赤茶髪の子はあの超一流ファッションデザイナー、ニーナ=ナターンの息子で一般家庭の出身なのだと。

 そういえば、3年前におばあちゃんが指導に行った一般家庭の子も私と同い年だったはず...。

 つまりその子も今年度の新入生ということになるが、まさか.....。


 怪しすぎる光景とそれ以上に衝撃的な情報に、頭の中で整理するのに数秒かかってしまったが、その直後の会話を聞いて我に返った。

 先輩が後輩にたかるだなんてふざけているのか?とんでもない恥知らずな物言いに、私は治安維持隊に通報しようとしたがここで友達と意見が割れてしまった。

 見なかったことにしてここから立ち去ろうという意見、暴力沙汰になるか赤茶髪の子、ロッド=ナターンが従ってしまった場合なんとか止めに入ってその間に治安維持隊に通報するという意見、そして私の即通報という意見。

 私の独断で友達を巻き込むわけにはいかないので一旦相談となったが、最初の意見はあまりにも薄情ということで発案者以外全員に即却下され、相談の結果穏便に済めばそれでよし、何かあったら止めに入って通報ということで決定した。


 それにしてもロッド=ナターンからはまるで怯えや恐怖が感じられない。何を考えているんだろう?


 やがて先輩達の雰囲気が変わった。やる気だ。友達と顔を見合わせてから頷き合い、いざ止めようと決心した瞬間だった。

 先輩達が明らかに慌てている。どういうわけか魔術が発動しないらしい。何が起きている?

 状況を把握できていない2人に対し、ロッド=ナターンはなんと素手で殴りかかった。ヘアバンドの2年生は術を発動できないのは偶発的な事故か何かだと考えているらしく、地面に倒れた状態で相手の不意打ちを批判しだした。


 しかしロッド=ナターンは聞く耳を持たず、逆に先輩達の弱さを罵倒しながらひたすら2人を殴り続けた。


 長身の先輩が気絶したらしい。殴っても反応がなくなったことで興が削がれたのか、私達が隠れている場所とは反対側の表通りに向かって歩き出した。


 一見飄々としていたように見えたロッド=ナターンの豹変ぶりに、私達は呆気に取られてしまい物陰からただ見ていることしか出来なかった。

 まさか2年生が返り討ちにされるとは思っておらず、止めに入るのを忘れてしまっていたが、ようやく状況を理解した私達は先輩に駆け寄って負傷具合を確認してみる。

 顔がかなりひどいことになっている。確かソムベスと呼ばれた先輩は顔中が腫れ上がっており、歯がボロボロに欠けてしまっている。

 ルーゴと呼ばれた先輩も顔が腫れているのは同様だが、こちらは鼻がおかしな方向に曲がっている。

 2人とも元の顔がわからないほどにこっぴどくやられていた。


 宿屋の店員に治安維持隊に通報してもらうよう頼み、友達にも治安維持隊がくるまで先輩達の様子を見てもらうよう頼んで私はロッド=ナターンを追いかけることにした。


 流石にあれだけの暴行事件が起きてしまった以上、見て見ぬふりをするわけにはいかない。

 何より私達が証言しなければ、あの2年生達は自分達に都合の悪い部分を全部隠して、ロッド=ナターンを通り魔であるかのような証言をしてしまうかもしれない。

 先程のやり取りを聞くに、先輩達は一般家庭出身のロッド=ナターンにやられたことをきっと根に持つだろう。

 であれば彼を一方的な加害者であるかのように証言する可能性が高い。

 確かに彼はやりすぎたとは思うし、法律上未成年はよほどのことをしでかさない限りは刑罰を受けることはないとはいえ、何かしらのペナルティを課せられるかもしれない。

 それでも先輩達だけに証言させるよりはずっといいはず。

 何とか彼を探して私達と先輩達を交えて証言させなければ。


 まだ遠くまでは行ってないと信じたい...!



◆ ◆ ◆



 最悪の気分だ。俺は何のためにあの2人を殴ったんだろう。

 そもそものきっかけは、あいつらが喧嘩を吹っ掛けてきたからではある。


 ―――そうだよ、あいつらが魔術を使おうとしたから俺は応戦しただけなんだ。


 違う。それならあそこまで痛めつける必要はなかったはずだ。


 ―――だったらなんであそこまでやった?元の顔がわからなくなるほど殴った理由はなんだ?


 わからない。理由だけじゃない、自分という人間そのものを見失ってしまったような、そんな気分だ。


 イズマピスにいた頃は、友達と喧嘩することはあってもそれは些細な行き違いによるもので、謂れのない敵意をぶつけられたことはなかったし、相手を憎いと思ったこともない。


 だけどさっきのあいつらはなんだ?俺があいつらに何かしたか?

 俺の家族を成金だとバカにして、一般家庭という出自で見下して、俺を人間未満の虫ケラとでも思ったのか?

 許せない。人をそんな目で見るあいつらこそ、人間未満のくそったれだ!


 ―――それが理由か?


 わからない...。



 魔力放出量が極端に少ない俺は、悪意や敵意から身を守るため、俺とナナ先生で独自に編み出した魔術を徹底的に鍛えた。

 とはいえ、実際に想定したような相手は今日まで現れることはなかった。

 列車でウー先輩に不安はないと答えたが、本当は心のどこかに俺は術が通用するかどうかという不安はあった。


 だが実際やってみたらどうだ?先生の言った通り、放出タイプの魔術を完全に封じ込めることができた。しかもあいつらは自分が何をされたかもわかっていないだろう。

 俺は自分が修行で得た力が本物だと確信した。これなら先生が言っていた、魔術一辺倒の阿呆にやられることはない。心が昂る。誰に喧嘩を売ったのか、思い知らせてやる!

 


 ―――それが理由か?


 わからない...。



 ナナ先生は学院に入るに当たって、俺に魔術社会の現状を教えた。

 53年前の薬物事件をきっかけに、覚醒術師、ひいては感知タイプの魔術師が疎まれがちになってしまったこと。

 そして放出タイプの魔術師が幅を利かせるようになり、力こそを強さとする風潮が国全体に広まったこと。

 やがて放出タイプの家同士が結束し、感知タイプの魔術師を政治から閉め出したこと。

 挙げ句の果てに、共和政の連邦において政治家は世襲制ではないというのに放出タイプの家同士で議会の席を独占してしまっていること。

 ただ、感知タイプの魔術師も過去に横の繋がりで議会の席の独占をやっていたらしく、連邦の腐敗はずっと前から始まっていたらしいが。

 そんな放出タイプの増長はもはやとどまることを知らず、魔術学院でも放出タイプが上、感知タイプが下という図式ができてしまっていると。

 ゆえに感知タイプである俺も放出タイプに目をつけられる可能性が高いから、喧嘩を売られたら思い知らせてやれと。


 だから俺は思い上がった放出タイプの魔術師に徹底的に刻み込んでやった。俺を感知タイプと侮ればどうなるかをな!


 ―――それが理由か?


 わからない...自分がわからない......。



 さっきのことを振り返るとそれらしい理由が思い浮かぶが、断定できる程自信も持てない。


 怒りに呑まれたのか、力に溺れたのか、先生の教えを吟味せずに思考停止で実行したのか。

 それともこうやって、道端のベンチに座りながら頭を抱えて自分に怯える姿こそが、俺の本質なのか。


 どれだけ自問自答をしようと、思考の渦から抜け出せない。考えれば考える程答えが遠ざかってしまうように感じる。

 そしてわからないことへの焦りと絶望でなおも自分を強く責める。完全に悪循環、負のスパイラルだ。

 『回転』を武器としておきながら、無様にも程がある。あいつらのことを情けないだなんて思ったけど、これじゃ人のこと言えないな......。

 ああ、確かウー先輩に対しても自分で感情を整理してくれって心の中で思ったっけ。こんな俺が偉そうなこと言える立場かよ......。


「畜生...何でこんな......。」



「あっ、ロッド=ナターン!よかった、まだ近くにいた!」


 ......誰だ?

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