入寮
「自己紹介をしておこう。私はミスティニカ=バウニッツ。この寮の警備隊兼管理組織に所属している。警備員は私以外に11人いて、4人ずつローテーションを組んで交代している。他の警備員とも会う機会もあるだろうから、随時覚えておいてくれ。」
「はい、わかりました。」
「ではこのまま私が案内しよう。寮のセキュリティに君の学生証の情報を入力すれば、入寮手続きは終了だ。ちなみに新入生の部屋割りは早い者勝ちでね。一応学年毎に階は分けられているが、基本的には自分で選択できる。どうする?このまま私が部屋を見繕ってあげようか?」
よくわからないからお任せでいいか。
「ではお願いします。」
「よろしい。付いてきなさい。」
敷地内に入ると、正面に6階建ての建物が見えた。学院の校舎よりスマートでバランスの取れた綺麗な立方体だな。門の外側からは見えなかったということは、魔術で部外者からは見えないようにしてるわけね。これもセキュリティの一部ってところか。
バウニッツさんの先導で扉を開けて寮に入る。
ん?そういえば外の表記ではここって男子寮のはずなんだけど、バウニッツさん女性なのにズカズカ入っていいの?
「あの、バウニッツさん?女性が男子寮にそんな遠慮なく入ってよろしいので?」
「先程言った通り私は警備員であると同時に管理人でもある。必要に応じて寮に入る権限が与えられているんだ。とは言っても、流石に女子寮に男性警備員が入るのはよほどのことがない限り禁じられているが。あとはタイミングの問題だな。先程12人の中からから4人体制でローテーションを組んでいると言っただろう?丁度今警備に当たっている4人のうち男性が1人しかいなくてね。しかも彼は寮の敷地全体のセキュリティ管理を任されているから動くことが出来ない。ちなみに私が男子寮付近の出入口にいたのも、外から覗こうとした君を感知した彼の指示を受けて駆け付けたからだ。最初からあそこにいたわけではない。」
「そういうことでしたか。じゃあ、ネズミになっていたのはどういうことなんでしょう?そもそもどうやってネズミになってたんですか?」
「ネズミになる方法だが、これは警備隊の守秘義務に当たる内容だ。すまないが教えられない。なぜネズミになっていたかというと、もし相手が危険人物であった場合、奇襲をかけられるようにするためだ。わざわざ姿を見せてここの警備員ですと明かしては、すぐに警戒されて取り逃してしまう可能性もある。悪い芽と思わしきは摘み取るに限るということだ。もし無実であると判明したなら誠心誠意謝罪してお帰り願えばいい。」
追い払うだけでは済まさないのか。アグレッシブな警備隊だな。
「ん?でも俺にはすぐに声をかけて正体を明かしてくれましたよね?なぜです?」
「それは君が年端もいかない少年で、害のある存在とは思えなかったからだ。結果的にも入寮希望の新入生だったわけだからな。問題ない。」
そういうの自分で判断していいのか...?
「む?現場の判断でことを進めてよかったのか訝しんでいるようだな?」
なんでバレたし。そんな顔に出したつもりはないぞ。
「いいか?学院寮警備員というのはな、厳しい試験をクリアした優秀な者しかなれない精鋭なんだ。戦闘力、判断力、危機管理能力、コミュニケーション力、これらを高い水準で合わせ持つ者でなければ務まらない大役だぞ。何せ大勢の生徒の安全を守り抜かなければならないのだからな。つまり我々には、状況に対処するに当たってある程度の独断が許されているというわけだ。」
ちょっと自慢入ってるようにも聞こえたけど、確かに理屈はわかる。未成年の生徒達を少ない人数で外敵から守る。責任重大だよな。
それに話の内容から察するに、ここの敷地に張り巡らされたセキュリティも相当なもののはず。
ここに侵入する奴がいるとしたら、よほどの阿呆か天才だろうな。
「なるほど、確かにバウニッツさんの予想通り俺は失礼なことを考えてしまいました。素人の分際で生意気な態度をとってしまったようで申し訳ありません。」
するとそれまで固い表情をしていた彼女は溜息をついて頭を掻き始めた。
「あー、いや、いいんだ。こちらこそすまない。君は自分から口に出したわけでもないのに、わざわざ私の方から引き出させてなおかつ謝罪までさせてしまった。新入生相手に大人げない自慢をしてしまい本当に申し訳なかった。この仕事は気を張り続けなければならないのもあってね、切り替えが出来ていなかったよ...。」
なんと綺麗な御辞儀までしてきた。パンクな見た目からは想像もつかないぐらい美しい御辞儀だ。ウー先輩もそうだけど、今日は律儀な人に会う日だな。
その後バウニッツさんから寮の設備について説明を受けた。
1階は食堂、学習室、訓練スペースとなっており、2~6階を学年ごとに分けてある。ちなみに1年生は2階、2年生が3階、3年生が4階、4年生が5階、5年生が6階となっている。
なぜ学年が高い方が上の階なのか聞くと、昔からそうであるらしいとうことしか知らないという。まあ忘れられてしまうようなつまらない理由なんだろう。
ここで驚いたのがなんと一人一部屋使っていいという好待遇だ。最低でも相部屋ぐらいは覚悟していたけど、これには心の中でガッツポーズ。
早速バウニッツさんに案内された部屋の鍵として俺の学生証を登録する。ドアの横についている魔道具に学生証を差し込むと解錠される仕組みだ。
そしてこれで寮全体のセキュリティに俺の情報が登録されたとのこと。
部屋に入ると、間取りは実家の俺の部屋より少し狭いがそこまで不自由する程でもなさそうだ。
1学年で1階使う以上、各部屋の間取りは限界まで切り詰めているらしい。飯は食堂だし、勉強する時も学習室を使えばいいわけだからこれで充分だろう。
俺は荷物を置いて早速首都の散策に出ることにした。
「ロッド=ナターン、敷地から出る時は門の側にここの部屋と同じ魔道具があるから、それに学生証を差し込むんだ。そうすれば門が開く。ちなみに帰ってくる時は、門についてるチャイムを押して音声が流れてから同様の魔道具に学生証を差し込むこと。音声が流れてからじゃないと反応しないから忘れないように。あ、それと一番重要なことだが、間違っても女子寮付近出入口の門から入ろうとしない方がいい。殺されるぞ。わかったか?」
まあ、その辺りも厳重なセキュリティで守られているんだろうなあ。というかチャイムなんかあったのか...。全然気付かなかった。
「わかりました。わざわざ付き合っていただいてありがとうございます。」
「いい、これも仕事の内だ。言っただろう?寮の警備と管理を任されていると。管理人としての仕事をしただけだ。ちなみにあまり遅くなると食堂が閉まるから気を付けた方がいい。21時がリミットだ。では行ってらっしゃい。」
「ええ、では行ってきます。」
仕事だからとはいえ、ガッツリ世話になっちゃったな。それにしても見た目とは裏腹に堅苦しい言葉遣いでギャップがすげえ。
ちなみに昼間から寮にこもるような生徒はほとんどおらず、みんな外に出掛けているらしい。新学期に向けて買い出しをする者も多いとか。
そりゃ新学期前で授業も始まってないからな。元々部屋でやれることは限られてるだろうし、学習室で今の時期から自習とかするようなガリ勉君も少ないだろ。訓練スペースで体を動かす方がまだ健全に思えるね。
外出するべく門に向かう途中、男子寮に向かう人と何人かすれ違った。制服を着ている人とそうでない人もいたから先輩が同級生かわからないが、とりあえず会釈をすると向こうも返してくれた。
こういうの、何かいいね。やや気まずいながらも礼儀を損なわないやり取り。
門を出て地図を見ながらどこで買い物をするか考える。
地図は区画ごとに色分けされていて、商店街の区画を見つけたのでそこに行くか、あるいはウー先輩が言っていた学院区画の店を回ってみるか迷う。そういえば"N²"の支店があるのも確か学院区画だったか。
丁度いいから挨拶も兼ねて学院区画に行ってみますか。




