若さを武器に
夕食後、俺の部屋で今日の反省会。
「さて、今日の反省ですが...どちらかというと反省するべきは私ですね。」
「そんな気にしなくても―――」
「そう言ってもらえるのはありがたいことですが、今後の修行のためにもしっかりと戒めなければ。とはいえ、私の反省にロッド君を長々と付き合わせるのは忍びないので、私の記憶にしっかり刻んで終わりとしましょう。ですが時間が余っていることですし、本来の主旨から外れますが、今日の内容で聞きたいこと、疑問に思ったことがあればお答えしますよ。」
「そうですね...魔力が空になったらどうなるか、は今後に教えてくれるんですよね?それなら―――」
「いえ、構いません。私も考えを改めました。私があれこれ細かく予定を組むよりも君の学習意欲を優先した方がいいのかもしれません。何せロッド君は前例のない希少なタイプです。私の物差しで推し量ろうとしても、君の成長の妨げになる可能性があります。もちろん大まかな段階分けはしますので、決して君の指導を投げ出すわけではありませんよ。」
「そう、ですかね?いらんこと覚えようとしたりするかもしれませんよ?」
「いらんことというと、例えばどのような?」
......ダメだね、ド素人の俺に具体的な例が出せるわけない。
「すいません、適当なこと言いました。」
「別に謝る必要はありませんよ。確かに知識を身に付けずに実践しては危険な術があったり、そもそも倫理的に許されないような術もありますから。」
「ですよねえ?」
「君が無自覚にそういったものに触れそうになった場合は私からちゃんと説明しますよ。それとも、私に隠れてそういった術を学んだり、私の指導に反発してしまう可能性を考えているのですか?」
「いやいやまさか。ド素人の俺が自分だけで修行しようなんて絶対危なそうじゃないですか?折角先生が付いててくれるんですから、疑問に思ったこととかこんなことがしたいとかは全部相談しますよ。もしその結果先生と意見が合わないことがあったら......どうしよう?」
うん、今のは結構勢いで喋ってたな、俺。話にオチがつかなかった...。
「はあ...時と場合によるでしょうが、別に意見が食い違うのはおかしなことではありません。私と君は別人ですから、人格や性格が同じになるわけがないのです。君は今後、自分が無知故にいつか間違いを犯してしまわないかを恐れているのではありませんか?」
なるほど、先生が丁度いい言葉を見つけてくれたおかげでスッキリした。
「そう、です。そういうことなんだと思います。多分。」
「いいですかロッド君?無知なのは、あくまで『今の』君です。君はこれから私から学び、そして学院でも学ぶのです。『未来の』君は、決して無知な素人などではないはず。そうでしょう?」
「あ......。」
「こんな術を覚えたい、こんな活動をしたい、将来これになりたい。君はこれから魔術を習得し、多くの選択をすることになります。今日言ったことを覚えていますか?私は君を導かない。君自身の意志ですよ、ロッド君。君が選び、歩む道です。私の言葉に従うだけの人間になってはいけません。自分がやろうとしていることが間違っていないか、本当にうまくいくのか、周りに意見を参考にするのは結構です。ですが流されてはいけません。自分の足で歩かなければ。」
そうだ。そうだった。俺は何を聞いてたんだよ。やっぱり俺は何もわかってなかったんだ。
先生が膝立ちになって俺を優しく抱きしめた。いい匂い...ってこんな時に邪念!
「正直、10歳の少年に厳しいことを言っているとは思います。しかし魔術師になるというのは、そういうことなのです。大丈夫、君は一人ではありません。この家にいる間は私がいます。学院に入れば友人もできるでしょう。君を信じる人達がきっと、君を支え背中を押してくれます。恐れるな、などとは言いません。恐れてもなお、踏み出しなさい。青臭さと若さこそが、時に人を大きく成長させてくれるのですから。」
俺は今まで父さん母さん、司祭のマイルズおじさんの言うことをよく聞くように言われてきた。実際その通りにしてきたと思う。
でも、これからはそれだけじゃダメってことなんだ。人の話をしっかり聞いて、その上で俺が決めなきゃいけない。例え反対されても、押さえつけられても、自分で答えを出すんだ。
「ナナ先生、俺ちゃんと理解できてるか怪しいですけど、何となくはわかった気がします。もし俺が迷ったり、周りの意見に納得できなかった時は、勢いに任せて突っ走ってもいいってことですか?」
「ぷっ!ふ、ふふふふふ!あははははは!!」
あれ、外したかな?恥ずかしいな...
「ええ、君はそれでいいんですよ。もしそれで失敗したとしても、その経験はきっと君を強くしてくれるでしょう。君なら、そう信じられる。」
先生は俺から離れると、頭を撫でて微笑んだ。
俺の家に来たのがナナ先生でよかった。他の魔術師を知ってるわけじゃないけど、俺の先生はナナ先生しか考えられない。
「あ、そうだ先生、結局魔力が空になるとどうなるんですか?」
「ああ、すっかり話が逸れてしまいましたね。いいですか?魔力が空になるということは―――」
そして月日が流れ、俺が首都の魔術学院に入る時が来た。




