プロローグ
「おお、この子は魔力を表面化させられるのですか!確かあなたの家系には魔術師はおられなかったはずでしたな?」
「そうなんです!魔術なんて縁のない世界で慎ましく生きていくのだと思っていましたが、もしかしたらこの子の代から魔術師の家系として国に認知してもらえるんじゃないかと思わず期待してしまいますよ!」
「そうですね、この子がどれほど成長するかによりますが私も楽しみですよ。」
大人達が俺のことではしゃいでいる。
俺の母さんであるニーナ、父さんのオーリス、教会のマイルズ司祭だ。
普段は近所のみんなと授業を受けている教会だが、父さんが俺と母さんを連れて司祭のおじさんと大事な話がしたいとか言って他に誰もいない部屋で鍵をかけて話が始まったんだ。
ま、俺ももう10歳だから話の内容は大体わかる、というか俺の話だからそりゃそうなんだけど。
人間はみんな魔力を持って生まれてくるけど、ほとんどの人は体の中で眠ったままらしい。
魔術師の家系でもない人の魔力が表面化するのは一般人だとかなり低い確率なんだって。
でも表面化した魔力をコントロールするのはめちゃくちゃ難しいんだとか。
魔力を完璧に扱える人は国から魔術師免許とかいうのをもらえて仕事に困らないし給料もいいらしい。
で、なんで父さんは俺が魔力を使えると思ったのかというと、昨日父さんの夕飯の準備を手伝って肉や野菜を切ってたらうっかり左手の人差し指を切りそうになったんだ。
でも痛くなかったし血も出なかった。指に当たるギリギリのところで包丁が止まってた。
それを見た父さんは無意識に魔力で自分の身を守ったんじゃないかって考えたらしい。
司祭のおじさんも同じ考えらしいから、俺が魔力を使えるのは本当なんだそうだ。
「では、国に申請して魔術師を派遣してもらいますか?」
「ええ、そのつもりです。この子が将来どうなるにしても、選択肢があるに越したことはありませんから。」
「しかしニーナさん、その結果家業は継がなくなるかもしれませんぞ。よろしいのですか?」
「それならそれでいいんです。ウチのやる気のある従業員の誰かに継いでもらう方が安泰ですよ。ですのでマイルズ司祭、申請よろしくお願いしますね。」
「承知しました。派遣される魔術師は私が選べるわけではありませんが、よき師と巡り会えることを願いますよ。」
「ありがとうございます。それじゃあオーリス、派遣される先生とうまくやってね?あなた人見知り激しいから失礼のないように頼むわよ。」
「あ、ああ。この子の将来を左右するかもしれないからね。父親として、誠実な対応をしてみせるよ。」
こうして、俺―――ロッド=ナターンの魔術師を目指す日々が始まった。