ふざけとんのか生臭坊主共 下
「な、何ですかな貴方は!何の用があって大聖堂に……」
「はじめまして、勇者一行の闇騎士リデです、司祭様」
まず、自己紹介は大事だ。自分が何者か、何用かをしっかり提示して目的を明確にせねばならない。
「や、闇騎士!?闇騎士がなぜここに!前線で勇者と居る筈では!!」
ほう、まるで僕が来る事など微塵も思っていなかったみたいだ。という事は、イレギュラーとして少しは頭に入っていた事も伺えた。
「いやはや、カースドラゴンを勇者様が討伐して、祓い作業から一月でもう魔物が出て?さらには?浄化魔法の気配が無いと報せがありましてなぁ?多忙なる勇者の代わりに足を運んだんですわ」
嘘である、偶々避難民がリスティアに来たのを聞いて、独断で来ただけであるし、もう勇者一行では無い。だが、離脱は書類が提出されてからだ。それまでは名目上は勇者一行である。つまりは……職権濫用だ。
「それで、弁明はありますかね?何故まだ日も高いのに、扉閉めてるんですか?」
「わ、我々も避難準備を……」
嘘一つ目、僕は右拳を握りしめ、腹に一撃放つ。くの字に折れ曲がる身体、司祭が呻きだす。
「へー、竜も出ないのに?大聖堂が避難するのはそれこそ、余程の魔物が出た時だろうが……ゴブリン程度ならば、討伐に送り込まれた騎士の治癒で開けておくのが決まりだろうが、知らんのか?」
「がう、ぅえぅあえ!」
「マシな事言ってくれ、次は顔面だ」
残念だ、司祭が嘘を吐くなどと。僕は悲しみながら右拳を見せた。
「リデ、この樽から聖水の気配がするよ?」
そんな矢先だった、ビキニアーマーから開襟シャツに早変わりしたヴァルスが、参列席の奥に積まれた樽を見つけて指差した。
僕は司祭を離して、樽に向かう。10本くらい並んでいたか、僕はヴァルスに離れる様に言うと、剣を引き抜き、樽の一つに突き刺した。
そうしたら無論、内容物が吹き出すわけだ。床の大理石に広がる無色透明な液体、それから伝わる清らかさ……。
『聖水』だった。
「どう言う事だ、司祭様よ……これは?」
「そ、それは」
「何で、聖水が、樽詰めにされてんだ?」
樽詰の聖水、それだけで大問題だった。
そもそも、浄化に使う聖水は……必ずその場で生成しなければならない代物だ。僧侶達が、聖堂にて保管する聖瓶を携え、そこに各地の清らかなる指定河川から汲み上げた水を入れ、僧侶が祝詞を唱えながら聖瓶から撒くそれが、最も効力がある『聖水』なのだ。
祓い作業や、定期的な散布に使う聖水は、必ずこれでなくてはならない。そんな聖水が、樽詰で、積み上げられ保管されているではないか。
「こんな聖水使ったら、それはもう効果もクソも無いわなぁ?作り置きしたんか?」
「あ、いや……」
「言えよ、作り置きか?」
こんな粗末な聖水を撒き散らして、祓いができるわけない。この時点で司祭はブタ箱行きが決まったわけだ。それが知られて、何も言えないと閉口して司祭は震え上がるしか出来なかった。
と、ここで……僕の耳に聞こえてしまったのである。猫の鳴き声でもない、人間の、女の鳴き声を。樽の近くに、2階へ上がる階段があり、僕はその階段向かって早足に駆け上がった。
大概は、宿直の僧侶の住う部屋があったりするのが大聖堂である。駆け上がり、声は強く、多重に、そして鼻につく匂いまで漂っていた。そして2階に上がり、伸びる廊下の左右いくつかの扉とは違う、最奥の扉に目をつけた。
そしてすぐに扉へ駆け寄り、開けてしまえば……そう言う事かと理解する。
「生臭坊主共が……」
焚かれている香炉は、所謂発情を促すタイプの香炉。扉を開けたにも気付かず、獣の如きまぐわう僧侶、相手はこの辺の街から娼婦でも呼んだに違いない。
「うっわー……えぐいわね、これが人間の聖職者の所業?」
ヴァルスが司祭の襟首を引っ掴み、僕の後ろに来ていた。司祭はローブに首を絞められ、落ちる寸前だった。
「ヴァルス、鐘を鳴らしてくる、そうしたら付近の騎士が緊急で来るだろう……こいつらの処断は法廷に任せるとしよう」
「こいつは?」
「閉じ込めとこう、騎士達がくるまで好きなだけ腰を振らせとけ」
「了解」
ヴァルスが司祭をを投げ入れ、司祭に女も男も纏わりつく。僕は扉を閉めてから、近場にあった資材を扉の前に積み上げ、退路を塞ぎ、聖堂の鐘を鳴らしに行くのであった。