ふざけとんのか生臭坊主共 上
聖女騎士隊のイルマが跨っていた早馬に跨り、僕は早速リスティア大聖堂へと向かっていた。その背後をヴァルスが同じく、聖女騎士隊より拝借した馬に跨り追従してくる。
「おい、別に知らんぷりしていいんだぞ、勝手にさっさと仕事探しに行ったらいいだろう」
騎士隊が世話する早馬二頭を、勇者権限により拝借したのは自分だった。別に面倒ごとだから、ついてこなくてもいいとヴァルスに声をかけた。
「何言ってるのよ、めちゃくちゃ面白い事になってるじゃない!あなた、私と戦う前からこんな事していたの!」
面白いとは、只々あちこち駆け回っては話を聞いているだけなのだがなと僕は呆れた。
「楽しいものか、綺麗な川かと思ったら下を掻き混ぜて汚濁を確かめるような事だぞ」
「その汚濁を掘り下げて処理するんでしょう!」
「キリがなくて嫌になる!あちらこちらからもう、大変だったさ!」
それが、勇者一行として僕が行っていた仕事だった。嫌になるくらいの、人間という欲深い汚濁の中を掻き分けて、掬い上げ、廃棄する仕事。身体中汚れて、洗っても落ちなくて仕方ない。けど、それを誰かがやらなければ、勇者は旅路の途中で果てていたし、ここまで辿り着けなかったのだ。
ノプラド村より北東、リスティア大聖堂にも難無く、魔物の襲撃も無く到着した。そして流石聖女騎士隊抱えの早馬だ、早い事素晴らしい。
「よしよし、あとでニンジンをたんまり食らわしてやる、好きなだけ食わしてやるぞ」
大聖堂より離れた場所に手綱を近場の柵に括り付け、立派な白馬を撫でてやる。ヴァルスも同じ様に柵に降りて手綱を括り付けた。
「む、本当にここは大聖堂か?」
「は?」
ここで、ヴァルスがそんな事を呟いて僕は反応した。見たら分かるだろと僕は言いかけたが、ふと彼女達魔族が浄化魔法や聖水に対し、過敏になる事を先ほど言っていた事を思い出した。
「つまり……あれか、全くそれらを感じないと」
「ええ、それこそこんな聖堂なら近づけないのに……」
これは、ビンゴやもしれない。まさか道連れの魔族が、浄化に対する探知を担えるなんて。幸運とはこの事かと僕は思わず笑ってしまった。
「昼ごはん、何食べたい?奢るよ」
「あら急に優しい、どうしたの?」
「礼には礼を返すさ」
僕はそれはもう、ズカズカと大聖堂敷地に入っていた。しかしだ、庭を掃除する僧侶の姿もない、祈りの時間ではないにしても、扉が開かれていない。
この時点でもう、不自然だった。そもそも大聖堂、教会は日中、配属された僧侶達が清掃兼警備を行い、祈りを捧げたり、解呪や治療の為に迎え入れるよう、扉は開けっぱなしが基本である。
大扉に取り付けられた円状のハンドル鉄を、持ち上げて2回ノックとして叩きつける。しかし誰も反応がない、少しばかり引いてみたが、かんぬきか何かで内から施錠されているみたいだ。
「くそ、裏口から入るか」
いよいよ職務放棄で何かしているのかと僕は、裏口に回ろうとした。
「リデ、私が開けようか?」
「なに?」
裏口に進みかける間際で、ヴァルスが開けると言い出した。そしてヴァルスは、チノパンと開襟シャツがゆっくり消え去り、ビキニアーマーに変質するやいなや、ふわりと羽のように飛翔しーー。
「とうっ」
矢の様に伸ばした両足の底を、扉に当てれば、喧しい音を立てて扉は聖堂内向けて思い切り開かれた。そのまま前転宙返りと共に着地し、こちらへ振り返り笑い掛けた。
「どうかしら、元魔王配下の力」
「……ワインもつけるよ、ボトルで」
昼飯は彼女の好きなものにボトルでワインをつける事を約束した。
そして、そんな事をすれば何だどうしたとなるわけで、奥からこの大聖堂の司祭を任されている壮年の僧侶が駆け出して来た。
「こ、これは一体何事ですかな!」
「それはこっちの台詞だ!平日なのに大聖堂が扉も開けず!掃除や警備の僧侶が皆無とはどういう了見だ!」
扉を蹴破った事を責め立てられる前に、大聖堂の職務放棄を声高に指摘し、僕は司祭に詰め寄った。決して言い負かされるな、一切反論の余地を与えるな、もうこれだけ異常を見せている、言い訳すらさせないと、僕は竦み上がった司祭のローブの襟首を掴んだ。