解雇の真実
「本当に良かったのか、ジン……」
「お前達も賛成しただろ、エド、リファ」
宿から去りゆく背中を見届けた、勇者ジンは、はぁと溜息を吐いた。本当に良かったのか、尋ねたのはリデに路銀を渡した魔法使いのエドだった。
「そうだけど、ちょっと言い過ぎたわよ絶対……私もキツかったもの」
「本当に悪い事をさせた、けど……こうまでしないと、リデが僕らから離れないだろうから」
女僧侶リファが、胸元に手を置いて首を振れば、勇者ジンは申し訳なさそうに彼女に謝意を示す。
「本当……リデにはこの旅路、幾度助けられたか……幾度彼の力に頼ったか……」
ジンはリデが去った扉を見てそう言い出す。
「民草を救えなかった時の弁明……僕を馬鹿にした聖女騎士との決闘……魔王に与していた要人の暗殺……僕がしなければならない事、彼が代わりにしてくれた」
「私が貴族子息と無理矢理婚姻を迫られた時も、どこからか余罪を見つけ法廷送りにしてくれたわ、そこからの奴隷市場の摘発までするなんて」
「国内外問わず、政敵として送られてきた刺客も、誰が信じれるかも彼が調べ上げ、守ってくれた」
三人はここまでの旅路で、リデに助けられてばかりだった。勇者ジンは、国内外、勢力問わず存在が政敵とされていた。
魔族だけではなく、欲と野心に駆られた人間の敵も旅路の中で出会ってしまったのだ。
「しかもだ、手柄は全て僕がした事に、汚れは自分だけ、彼は被り続けた……彼を恨む輩は、旅路でたくさん出来た、本来恨まれるのは僕なのにだ……」
それら全てを一身に背負ってくれたのが、リデであった。
「だから、もうそんな事してほしく無いから、帰らせたんでしょう?」
「そうだとも……もう、彼が手を汚す必要無いから……けど、これくらい強く言わないとリデは帰らないだろうと」
「リデは……怖いくらい勇者に心酔の気があったからな……」
リデに関して語らう三人、ジンは2人を交互に見て、また語り出す。
「何より、リデは強かった……3日前の魔剣士との死闘……僕はついていくのがやっとだった」
「ええ、魔法の強化無しに、ひたすら前に前に切り込んで、傷だらけになりながらで、治癒魔法も追いつかないから見てられなかったもの」
「俺に構わず魔法を放てなんて言い出してさ、手加減したら殺してやるって言われてさ、全く見てない魔法を避けながら戦って……最後に魔剣士を突き刺した時はもうさ、泣いちゃったよ」
三人して天井を眺めながら語り明かす。3日前の死闘が今でもまだ、ついさっきの様に思い浮かんで仕方ない。
「しかし、勘付かれたかもしれないな、リファの治療薬、わざわざ手製の調合品だろ?使ってよし、売れば中々の買取額になるやつ」
「でもエドだってわざわざ貯金を全て路銀として渡したじゃない、本当なら杖を新調するんだって貯めてた全財産でしょ?」
「それを言ったらジンが自ら慎重に丁寧に研いだ剣はどうなんだよ、他人の剣を研ぐって、信頼を意味するんだろ」
追い出した際の選別で、絶対勘付かれただろうと、三人はお互いをそれぞれが原因として指摘しながら、朗らかに笑うのだった。
「魔王か、強いんだろうな、配下の剣士であれだったんだ」
「リデ無しなら、私たち全員首を落とされるかもね」
「首を落とされても、噛みちぎるくらいで行こう……リデが戦わなくて済む世界にする、僕たちだけで戦うんだ」
勇者達の決意は固かった。
それを闇騎士が、知るよしも無かった。