聖女騎士達から恨まれてました、まぁ仕方ない
旗印を見た瞬間……僕はヤバいと顔を顰めた。王国旗下の女性騎士の部隊『聖女騎士隊』だった。
「あなた達、ここは今魔物の発生により避難勧告が……出て……」
一番前の女騎士、赤髪の女性が僕を見下ろして、そしてはっ、と僕に気付いた。
「や、闇騎士リデ!?何故お前がここに!!」
「おー、久しぶりエルナ、隊長は元気?」
そして見知った人だった、彼女はエルナ、聖女騎士隊の副隊長であった。エルナはギリギリと歯軋りをして馬から飛び降り、細剣を引き抜き、突きつけて来た。
「おのれ!その口で隊長の安否を聞くだと!ふざけるのも大概にしろ!」
こうなる事は分かっていた、今ここに、エルナ率いる聖女騎士隊は全員、僕を恨んでいるのは間違いなかった。
「女に恨まれているなんて、あなた何をしたのよ?」
ヴァルスが、ここまで恨まれるなんて何をしたのか尋ねて来た。ふと、この遺恨を話したら彼女は僕から離れるだろうかと思いつく。何せ女性が聞いたら軽蔑物な遺恨だ。
「まー立ち直れないか、僕に負けて旗槍に裸体で括り付け(られ)て市街引き回しにされたら無理だよね」
それを聞いたヴァルスが、どんな顔をしたかは後ろに居るから見れない。多分軽蔑しているだろう事は分かる。
そしてこれは嘘では無い、本当に僕は彼女ら聖女騎士隊の隊長を、裸にして、旗に括り付けて、市街を一周したのだ。
だが理由があったし、それを今思い出して僕は苛立ち、副隊長エルナを睨みつけた。
エルナが、その後ろで待機していた聖女騎士隊面々が、のけぞった。
「公然と勇者ジンを口舌で嬲ったのだ、しかも僕に決闘を挑んで負けた以上、逆に嬲られてもしかたなかろうよ、お前らは断頭台を許した勇者ジンに頭こすりつけて感謝すべきだったよなぁ?なぁ!?」
「ひぃい!?」
そうだ、そもそもこいつらの隊長が、勇者ジンを嬲ったから事が始まったのだ。あの時は……ジンがまだ旅を始めてしばらく、魔物の群れの襲撃に対応が遅れ、民草を幾人か救えなかった。
しかし、あの時はどう足掻いても、全員救えなかった。それをこいつらの隊長が、鬼の首を取ったように嬲ったので、嬲り返してやったに過ぎない。しかも決闘を仕掛けたのはその隊長だったのも、しかと覚えている?。
「いや……あどけない顔して怒ると恐ろしい、流石勇者の毒刃と言われただけはあるわね」
「その呼び方、やめて欲しいヴァルス」
嫌な呼び名だからやめて欲しいと、ヴァルスに伝えておく。それはさておいて、聖女騎士隊が出てきたとなれば、この騒動は中々大きなものらしい。
「で、エルナ?何があったか仔細全て話してくれない?」
「な、なぜお前なぞにーー」
「あぁ?」
「ひぃいいい!?」
睨みを効かせてやれば彼女はたじろいだ、まぁそうだろう。彼女らが敬愛し、嬲ってやった隊長様は、それはもう酷い目にあったのだ、それをこいつらの前で見せてやったのだ、慄くのも当たり前だろう。
「いいから話せ、隠すなよ……隠したら、飛び火が来ても擁護できんぞ?」
エルナに脅しをかける、しかし隠し事によっては、たとえ無関係だろうが申告しなかった事を罪に問われかねないのだ。隠さず話せと、僕はエルナに一切合切を話させた。
エルナが語るには……まず、カースドラゴンの被害による呪物やらは間違い無く浄化されたの事。アスラ辺境伯も定期的な浄化を欠かさなかったし、教会が聖水を水増しした可能性も見られないとの事だった。
しかし、それでも浄化の効力が非常に弱まっているのは事実であり、ゴブリンが出現して、避難勧告を出したのが現在である。
「い、以上が事の全てよ……」
話し終えたエルナが、身体を震わせ僕を見ている。
僕は顎に手を当てながら考えた。では、この惨事原因は何なのだと。
「も、もういいわよね、私たちはこれからゴブリン討伐に向かうわ、この区域から離れておきなさいよ、闇騎士」
エルナがそう言って馬に跨る。ふと、そう言えば今朝解雇通知を出されたわけで、方々に報せは出回っていないだろう事を思い出した。
正式な書類やらは、あのジンの事、後回しにするだろうなと思い付く。つまり……正式な通達が出回るまでは、まだ僕は『勇者一行』というわけだ。
利用せざるを得まい、この立場。
「待て、エルナ」
「な、何よ」
「緊急徴収だ、この隊の早馬二頭、こちらに差し出せ」
どこのどいつがやらかしたか知らないが、勇者が救った村が被害甚大など許せるものか、辺境伯か教会が何かしたに違いない、絶対に見つけてやると僕は決意するのであった。