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彼女は何も感じなかった

「んふふ、その目が懐かしいわ、勇者達を足蹴にした時と同じ……本気にさせた闇騎士ともう一度戦えるなんて最高だわ」


 ルーナを投げ捨てたマリューが僕をこれまた悦なる笑みで見た。そんなに僕を怒らせたいらしい、上等だよこのクソアマ。勇者の前では決して使わなかったし、今でも封印していた『禁じ手』使ってやる。


 僕が息を吐きながら、鳩尾の下に力を込めた。魔法を使う時の感覚がそう、そうして身体中の血管に魔力を送り込む、そうして体表、皮膚から滲むドス黒い魔力が、僕を拘束した鎖を腐敗させた。


「え、リデ様……」


「リデ様、それは……」


 エニー、エンディ姉妹が驚くのも無理は無い。とは言え、実は要所要所で応用したものを彼女らに行使していたのだが。


 僕は立ち上がり、マリューを睨みつけて言った。


「嬲り尽くしてやる、舐めんなよ皇女」


 マリューがそれを聞いて赤面しながら笑った、それに構わず僕は椅子の近くの床を蹴った。


 跳躍する、ふわりと浮き上がる、上手く魔力を操れている。身体能力の強化は基本中の基本、それができるかが、騎士になれるかの境界線だ。


 そして、僕は、右手に握った拳を……皇女マリューの顔面へ思い切り振り下ろした。


 拳に伝わる感触は、他とは違う。何かを壊した感触は無く、まるで一枚の鉄板を殴ったように硬い。そのまま皇女は身体をバウンドさせ、大の字に床へ転んだ。


「ああ、痛い……痛いわ!」


 痛覚への反応を、恐怖ではなく歓喜にしてマリューが叫ぶ。しかし、これでも歯が折れもしなければ、顎部の骨が粉砕したりもない。顔面を殴り抜いたのにだ。


 それが、皇女マリューの生まれ持っての体質。


 彼女は『頑丈』であった。


 故に『何も感じる事が出来なかった』


「さいっこう!!ああもう、こうして感じる事が出来るのは貴方のおかげよ!!」


 大の字のまま、歓喜を挙げるマリューを見下ろす。


「そうか、なら存分に感じさせてやる!」


 そうして僕は右足を思い切り振り上げ、足底を思い切り彼女の顔面に振り下ろした。


 城が揺れた、部屋の窓が揺れて音を鳴らし、床に亀裂が入る。


「おら!おらぁ!おらぁああああ!!」


 二回、三回、四回!!何度も顔面を踏みつける僕を見て、エニーとエンディはドン引きするだらう、いやそれでいい!!こんなドメスティックバイオレンスの塊を見てしまえば僕に愛想つくだろうし!


「それまでぇ!」


 五回目の踏みつけに足を振り上げる最中、甘ったるい声が聞こえて右足首が万力の様に掴まれた。あ、やばい。だめだこりゃと僕は次に来る『衝撃』と『痛み』に備えて覚悟を決める。


「うりゃあああああ!!」


 身体が引っ張られた、理不尽かつ抵抗できない、力に振り回されて、血が頭に上ってもうその刹那には、床が見えた。


「がぼぉお!!」


 前面全てが叩きつけられた、骨やらが軋む、まだ、なんとかなる。しかし意識が飛びそうになる。


「行くわよリデ様!私の思いを受け取りなさい!!」


 が、容赦なく肉体は振り回されて、宙に舞い、空間認識すら出来なくされた。そうして次に、腹と背骨が一気に圧迫されて臓器と背骨を押しつぶされるのだ。


「マリュー・クラッシャー!!」


 ネーミングセンスも何もない技、その雄叫びを聞きながら僕の背中は再び床に叩きつけられ……衝撃の後さらに浮遊した。



「きゃああ!?床割れたぁああ!!」


「エンディ!?ヴァルスさんを!!」


 真婚凄克として戦っていたエニーとエンディ姉妹は、主人たるリデの乱入により始まった戦いについて行けず、床が割れ抜けてしまった事に驚き、失禁気絶したヴァルスが穴に落ちそうになったので、それを何とか引き寄せ助けた。


「あう……うあっ!いたぁああ、え?あ、え?何?」


「ヴァルス!?良かった目が覚めたのね?」


 それにより、意識を取り戻したヴァルスは、虚な、視線が定まらないまま辺りを見回した。


「頭大丈夫?」


「頭?……あー……」


「これ、何本?」


「3、いや4?」


「ダメね、横になって」


 そうしてエンディは応答を取り、エニーがピースサインで指を見せて、ヴァルスは視界が定まってないと見て、ゆっくりと横にさせた。


「うあ……思い出した、頭から落とされたんだっけ……何なのよあの女」


「あんな奴が居たなんて世界は広いわ……ていうか、リデ様大丈夫なの?」


 ヴァルスはやっと何をされたか思い出して、歯噛みした。投げ飛ばされ、頭から落とされ、無様に意識手放したのだと。あんな人間、リデ以外に居たのかとヴァルスは、魔族として負けた事にも歯噛みした。


「ヴァルス……だ、大丈夫?」


「ルーナさん!いや、ルーナさんも身体が……」


 そして、マリューに腹を殴られ、エニーとエンディの魔法に盾とされたエルフのルーナは、焼け焦げと切り刻まれて最早来ていたはずのメイド服が分からない程の状態で、よろよろ歩いて来た。


 エニーがその姿に悲痛を込めて呼びかける、がしかし、火傷も、風魔法の切傷も、みるみる塞がっていくのだった。


「こ、れくらいなら、大丈夫……エルフの治癒魔法で、この通り」


「うわぁすご……」


「パナいわね、エルフ」


 重度の薬物中毒すら治療するエルフの治癒魔法に、感嘆する2人。そしてルーナは横になるヴァルスに近づいて、額に手を置いた。


「大丈夫?ヴァルス?」


「いや、駄目、二重で痛いわ……」


 ヴァルスの治療はルーナがすると見て、エニーとエンディ踊り子姉妹は、抜けた床から下の階層に落下した2人を見るため穴に移動して覗き込んだ。


「「う、うわぁ……」」


 そこでは、まるで酒場の喧嘩の如く殴り合う、しかし音が全く酒場の喧嘩で出る音じゃない衝撃と打撃音を鳴らして、足を止めて殴り合う闇騎士リデと皇女マリューの姿ががあった。

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