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まさかの僕が人質に

『クーラントの勇者ぁ?』


『はい、何でも最近クーラントが、僕とは別の勇者を召喚して立てたと。彼は真勇者と名乗っているんだけど』


 この記憶は……あー……あの偽物勇者の時の……。


 懐かしいな、旅してしばらくで街のカフェで新聞を読んでたら、国から手紙が来てってジンから尋ねられたんだよな。


『その勇者というのが、何でも何十人も居て、女神カァルサギという女神様の力で召喚して、それぞれに加護を与えた勇者だとか』


 そうだ、この話で僕は一気にきな臭さを感じたんだよな。


『カァルサギなんて女神、神話の中に出て来やしなかったよ?アルシャ神話史にもクーラント神話史にも』


『そうなの?』


『神話学は学院時代に専攻してたからな……そも、クーラントに勇者伝説は無い、勇者伝説はアルシャが発祥だ、まぁ……ギルドの位に探検勇者という最高位はあるが』


 勇者伝説はアルシャ発祥、そしてその勇者は目の前に居るリデただ一人。カァルサギなんて女神は聞いた事無いし、祀られた寺院も無いと、僕は勇者ジンに伝えた。


『それに、勇者が召喚されるなんて聞いた事もない、ジンみたいに血統ならまだしも』


『じゃあ、その真勇者ってーー』


『待て、ジン……国から来た手紙、どんな内容だ?はぐらかすなよ?』


 そう、国からの手紙はつまり、勅命な訳だ。勇者に命令が来た訳だ、それを説明する前に話を聞く場合、大概は汚れ仕事だった。

 

『調査して、接触……協力できないなら、始末しろと……』


 勇者に勇者殺せなどとは皇帝も酷な輩だ、まぁそのために僕が居る訳だが。僕は新聞を畳み、早速その真勇者の調査をしようかと背を伸ばした。


『さっさと言いなよ……しかし、カァルサギ……調べてみるか?』


 が、その前にだ……カァルサギなんて女神知らないなと、そっちが気になって、まず其方から調べるかと、僕はその時滞在していた街の図書館に向かったのだった。


 で、そうだ、神話学やら神話を調べて全く載ってなかったわけだ。しかし、じゃあ知らないやでは済まされないのだ。


 現にカァルサギという名前が出てきてるわけだ、勇者を立てるにしても、女神を今から適当にあしらえたーなんて、まず民草が納得しない。いや知らない程マイナーな女神なのか?とりあえず祀っとけとはなるのかもしれないなと、態々司書に頼んで古書まで取り出して。


 見つけたのは夕方だった。


 で、驚いたね……カァルサギは女神じゃない。いや、女神ではあるが……こいつは……。


 カァルサギの文献を読み解いて、僕は勇者に対してこう言ったのも覚えている。


『対話は不可能だ、調べ尽くした後、勇者を討伐し、封印する』


『え……それは一体』


『召喚したのはたしかに勇者だ、勇者になりうる力を持っている、だがその女神がーー』



「うぁあ!?」


 僕は暗闇から抜け出し、目を開けた。左を見る右を見る、見たことがある空間だ。ここは……マリューの幽閉された城の中、闘技空間だ。


「お目覚めになりましたのね、闇騎士様」


 そして目の前に、光り輝く太陽の笑み。うん、すっごい怖い。会合早々顔面に乗り掛かって三角絞めに流れるように移ったこの黒髪の、スレンダーなプリンスボディが、アルシャ皇国は第四皇女マリューであった。


「起きましたよ、いやホントいい趣味してるわ、流れるように締め上げられて、戦地だったら僕は貴女の武勲の一つとなったわけだ」


「あら嬉しいわ、あれから鍛え直した甲斐がありました」


 顔だけしか見えなかったマリュー様が、子供の様に、後ろ手に手を組みながら、足をわざとらしくあげて歩く。今更ながら僕は、自分の身体が椅子にこれでもかと鎖でふん縛られている事に気づいた。


 そして、彼女の姿に僕は思わず困った。


 礼服じみた無垢な白色、しかして、肩から袖は無く、下着は丸見えコルセットから伸びた足の布も外側はあるが内腿の生地がない為、ふとましい内腿が露出している、そこに白のハイヒールと……皇族の趣味は分からん。


「似合うかしら、これは遥か昔の花嫁衣装を再現したものなのよ?」


「花嫁衣装!!それが!?」


「貴女歴史を選考してらっしゃったじゃない、これは真婚凄克が行われた時代の、歴とした花嫁衣装なのだから」


「新婚生活……あ、あー!そっちのですか!?」


 うん、歴史を取っていたのは確かだ。そして思い出した、特に女達が強かった時代に、確かあったなぁと僕は思い出した。本当、歴史とか神話は『マジで!?』な事があるから面白い。


「それより、闇騎士様……いくら何でも貴方、手をつけすぎではないかしら?」


 そんな衣装で、僕の膝の上に座り、首から胸板にかけてをなぞられる。うーん……悩ましい、身じろぎしたい、いい匂いだな本当に……。


「それを承知して僕に身を許したのはマリュー様でしょうに……香水変えました?」


「まぁそうなのですけど……えぇ、貴方の好きな柔らかな匂いを……」


 うん、好きな匂いだ、抱きしめて抱きしめたくなる匂いだ。どんな香水なのだろうか……などと思っていると。奥の扉が開かれた。


「来たわよ皇女マリュー!さぁ、私の、いや私たちの夫を返してもらうわよ!」


 そして現れた、僕が連れることになってしまった女性たち。しかしその言葉に僕は待ったをかけた!


「僕達いつ籍入れた!?ヴァルス!!」


 そうだ、籍は入れていない、夫になった覚えは無い。


「ここで取り戻して籍を入れるんです!!」


「「リデのお嫁さんになるのは私たちです!!」」


「いや君らいい加減ちょっと考えなさいな!?もっといい人見つかるって!」


 実際、そこはしっかり考えてくれと僕は心底から言い放つ。しかし聞いてはいなかった。


「来たわね、さぁ!真婚凄克を始めましょうか!!」


 そうして僕の声は虚しく霧散し、マリューがこれまた人外の跳躍と共に闘技空間のリングに降り立ったのだった!

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