格闘皇女推参
さて、挨拶を済ませたわけだが、もう一件用がある。
「ゼヘリ、うちの、こちらのエルフの僧侶ルーナが、治療の手伝いをしたいと言うのだが、どうしたらいい」
ゼヘリはそれに対して、首を持ち上げてルーナを見て微笑んだ。
「気持ちはありがたいが、これから君は他の仲間を癒さねばならないだろうから、温存しておきなさい、しかしその気持ちは、七騎士の一人として深く感謝を示させてもらう」
ゼヘリは、そう言うとわざわざ寝転んでいたにも関わらず、ベッドから降りて地に膝を付けて、頭を下げた。
「そ、そんな騎士様がそんなにしては」
「ルーナ、しっかり受け取りなさい、七騎士は民草であれ、貴族であれ、感謝を示す際は最高の礼を尽くす、断る事は逆に無礼だ」
僕はルーナの遠慮が、逆に礼を失する事を注意した。そう、これが僕達アルシャの七騎士の決まりだ、相手が誰であれ……それこそただの民草の子供から貴族まで、礼には最大の礼を尽くすのだ。
「そ、そうでしたか……ありがとうございます、風騎士様」
「はは、なら一つ頼みに、スカート捲ってもーー」
言うと思ったわと、下心見え見えなゼヘリが全てを言い切る直前、キラン!とエニー、エンディ姉妹が目を光らせ、するりと背後に回り込み……。
「「それっ!」」
二人がそれぞれ、片膝を持ち上げ、ルーナをM字開脚で抱え上げたのだった。
「ふぇ?」
突然の事にキョトンとするルーナ、しかし膝をついていたゼヘリが眼前の、ルーナの下着を見れる場所にて固まっていた。
「は、は?はいてな、ぶばぁはぁあ!?」
「はぁあ!?」
そしてゼヘリは鼻血を吹き出して仰向けに倒れるのだった。僕はゼヘリの今際の際に吐いたセリフと、下されてスカートを押さえるルーナを見て尋ねた。
「あのー、ルーナさん?下着は?」
「き、昨日お洗濯に出してまして……今は馬車の中で干してます」
「つまり?」
「履いてません」
「もう三着くらい、買いなさい……お金出すから」
つまり、ゼヘリのやつルーナの花園見ちゃったのかと、僕はゼヘリを見下ろして、ゼヘリは僕に目を合わせて右手親指を立てた。
「リデ、僕は今日死んでもいい」
「アホか」
そんな事で死ぬなと僕は、とりあえず包帯とガーゼを貰いに行く事にした。
ゼヘリの鼻にガーゼを詰め、僕達はゼヘリの許可を得て、森を抜ける事にしたのだが……僕はこの森の惨状に閉口せざるを得なかった。
「その……すごいですね、死臭?でしょうか?モンスターの死んだ匂い……が、満遍なく広がってます」
「うへぁー、魔力の流れが凄い歪んでる……頭クラクラしそう」
「お姉ちゃん私も……どうなったらこんなに歪むの」
ルーナがまず、モンスターの死臭の凄まじさに気付き、エニー、エンディ姉妹が森の魔力の歪みに気付いた。
魔法使いだからか、魔力の満たされる感覚、流れが悪いと身体にも影響が出るらしい、かく言う僕も、この死臭、いや……獣臭が残留する感覚に体が震えた。
そして、森の奥地に聳え立つ城を見て、息を飲む。
「おそらくもう、モンスターは出てこないだろうね、皇女様の力に怯えて活動できない……このまま真っ直ぐ、道なりに行こう」
彼女を閉じ込める化け物の檻も、最早意味を成さない。自分達も襲いに来たりしないだろうと、僕はこのまま真っ直ぐに城を目指す事にした。
が、僕は一つ間違いをこの時点で犯していた。
そう、彼女はそもそも今『城内』に居るとは限らない。
さっきまであの戦線で暴れていた事を、そして何より……。
僕が彼女と交わした『約束』を、すっかりと忘れていたのだった。
「よし、じゃあ今から城へーー」
『闇騎士様ぁぁああああああ!!』
「行くげぼぁああああ!!」
迂闊だった、僕は真上から来た衝撃に耐えれず、地面に叩きつけられてしまった。そして、何とか後頭部に腕を差し込み頭だけは守ったが息ができなかった、何故か?目の前に見えるリボンをあしらえた下着に、明るくも辺りを覆い被せた布、まずい!色んな意味で!
「むぁく!んむああ!」
「やぁん、息をなさらないで闇騎士様、やっぱり私を攫いに来てくれたのね!」
本当忘れてた、そんな約束したかなぁ……けどまずい、しっかりと固めて逃げられない!とにかく抜け出し……。
「よいしょー」
「おうわ!?きゅっっ!?」
あ、だめだ、頸動脈がしま、意識が……。僕は目の前で驚く四人の女性を見て、意識を手放した。




