救った村がまた酷いことになってました
「これが私の旅装、ビキニアーマーくらい普通でしょう?」
まぁ、それは正論だ。ビキニアーマーは機動力重視の軽装鎧で、防具屋にもしっかり売られている。決して変な意味は無いし、軽装だが、魔法を付与して防御もしっかりしている物もある。
現に、ヴァルスが来ているビキニアーマーだって、対峙した際や、今でも濃い魔力が……。つーかシャツにチノパンどうしたこの女。
「変態なの?この場で着替えたわけ?」
「安心なさい、これは魔法の応用」
そう言うと、ビキニアーマーから、シュルシュルと魔力が流れ、先程の開襟シャツにチノパンの姿に彼女は変貌した。
「え、それ肉体の一部だったの?」
「そうよ、好きな服、好きな装備を模倣できるわ、形だけね」
この辺り、好き勝手できていいなと、僕はヴァルスに対して納得した。
が、ある事に気付いた。
服やら装備は魔力で作ってある、つまりこいつは……常時裸かと頭によぎり、僕は顔を顰めた。
「裸族じゃないか、やっぱり変態だったか」
「よーし、お姉さん今から暴れちゃおうかしら?」
「やる気?」
少し怒らせたみたいだが、その気があるならと僕は剣に手をかけると、ヴァルスはふんと鼻息を一つしてそっぽを向いた。
「やめよ、それで刺されたら本当に痛いもの」
「へぇ、魔族も痛いんだ」
「それは特別痛かったのよねー、別に普通の鉄の剣……よね?」
使い込まれた革の鞘に収まる鉄の剣、旅の始まりから今日までずっと、折れず砕けず共に戦って来た鉄の剣だ、さっき勇者ジンが自らの剣を研ぐ練習に使った為、刀身はピカピカだ。
この鉄の剣で、3日前、ヴァルスの心臓を貫いた。そして殺したはずなのに、生きていたのだ。
「魔物やら何やら斬り殺したから……怨念でもまとってるんじゃないかな?」
「あり得るわよ、それ……そんな魔剣の話が魔界にあるのよ」
旅路の中で、この剣はいくつも命を奪って来た。だから怨念でも纏っているのだろうかと冗談混じりに言うと、ヴァルスがあり得ると言ってきた。
というか……3日前に殺し合った魔王配下と普通に話をしている事に今更ながら違和感を覚えた。何をしているのやら、さっさとこの人の仕事を探して、別れてしまおう。
僕はヴァルスに背を向け、リスティアの町の正門に向かった。無論、ヴァルスは当たり前とばかりに後ろをついてくるのだった。
さて、街の入り口には貸し馬車やら貸し馬がある、個人経営に公営の貸し馬があるわけだが、個人経営なら早馬やいい馬があるし、公営、王国から認可された貸し馬は、非常時の補填が効いたりする。
もしも勇者パーティのままだったら、公営でさらに割引きしてくれたがそれも無い。が、個人経営はぼったくりやらトラブルがあるし、公営一択だろう。
「幸いまだまだある、馬車で一気に国境まで行ってしまうかな」
路銀に余裕があるし、もう国境まで行ってしまうかと呟くと、正門が見えてきた。そこで目にしたのは、大荷物を抱えた人々だった。
傍には護るように兵士たちが付き添い、書類を書かされていた。
嫌な予感が過り、僕の足はその集団に向かっていた。
「避難された皆様方、こちらで羊皮紙に記入お願いしまーす!」
「押さないで、安心してくださいねー」
兵士が扇動し、用意された机の上で人々が羊皮紙に跳ねペンを走らせている。荷物を抱えた人々は皆ボロボロだった、疲労がしかと見える。
僕は先導/誘導する兵士の1人の肩を叩いた。
「ん、何ですかな?申し訳ないが勤務中の為、邪魔は困るのですが」
「多忙の中すいません、この方達は一体どうなさったのですか?」
「彼らは少し離れた、ノプラド村から避難して来たのだよ」
「ノプラド村!?」
兵士から聞いた村の名前に僕は驚いた。それもその筈だ、何故ならーー。
「ノプラド村は、少し前に勇者がカースドラゴンを討伐したばかりじゃないですか!何があったんですか!?」
そこは、この街にたどり着く前に、竜の被害から僕達勇者パーティが、討伐の果てに救った村だったからだ。