スァーギタから、リデへ。
「すっっん!ばらしかったわリディアンンンヌッ!!やっぱり貴方、騎士を辞めてパフォーマーになりなさいな!」
「断る」
「あぁんひどぅい!けどその冷たい返しもたまらないわ!」
翌朝、僕は朝のラヴィアンに顔を出して、スァーギタさんに改めて、エニー、エンディ姉妹を身請けする話を正式に通達した。用意された紅茶をひと口頂いて、香を楽しむ。本当、スァーギタはいい趣味していた。
「まぁ、それはさて置いて……相変わらず、闇騎士だなんだ罵られても、リデはリデね、ザンビゴファミリーとやり合うって、貴方なにかあったの?」
スァーギタが僕を本名で呼んで、なんとも言えない優しげな表情を見せる。もしも僕にそちらの気があるなら、胸が疼いたのだろうが、僕はふぅと息を吐いてスァーギタに伝えた。
「勇者の凱旋の為に今から掃除するんだよ、助けた村やらで汚職やら何やら……だからそれを見つけて綺麗さっぱりにね」
「あら、貴方がしなくてもいい事でしょう?」
「誰もしないからさ、僕しか居ないんだ」
僕しかいない、ていうか、他の騎士が絶対やらないから、僕は闇騎士なんて呼ばれているのだ。同期の騎士達からは、それはもうすんごい目で見られているからな。
竜騎士二代目と、華騎士元気かな、聖都に帰ったらからかってやるかと僕はクスクス笑った。
「あら、何か楽しい事あったの?」
「まぁね、じゃ、行くから……紅茶ご馳走さま」
話は終わったし、さっさと次の協力者の居る町に向かう事にした。
「待ちなさいな、これ、持っていきなさい」
立ち上がって出口に向かうと、スァーギタは何かを投げてよこした。そして僕は……。
「いやいらないって!もうリディアンにならないからね!?」
掴んでしまったものに目を見開き、スァーギタに渡そうとした。それは、リディアンが使う、雌のケツをしばき倒す為の乗馬鞭である。しかし、スァーギタは首を横に振る。
「違うわリデ、ならないんじゃあない……いつか必ず、また貴方はリディアンに変身するの、貴方の内に眠るサディズムは、死ぬまで決して治らない……」
「もう死のうかな僕……」
「死んだら葬式でキスしに行ってやるわよ?」
「やめぇや!」
「じゃあ、私が死ぬまで死なない事ね!死んでうちの踊り子二人悲しませたら、例え異世界に流れつこうと天国の門をお見舞いしてやるわ!」
ビシリ!と指差してポージングするスァーギタに、僕は思わず息が止まった。
「貴方が死地を行くのは構わない!しっかぁああーしっッ!死んで貴方を愛する人!貴方を思う人を悲しませるなんて許されない罪なのよ!」
愛する人、思う人か……今の四人がそうなのだろうか。
もし……僕が死んだら、勇者ジンはどう思うか。仮に逆なら……うん、悲しむだろうな、ジジイになって枯れ果てた涙も再発するだろうし、殺されたなら殺害した奴血眼で探すだろう。
「ーー死ぬなよ、闇騎士……俺も踊り子達もこの館で、いつでもお前にケツをシバかれるのを待ってるぜ」
「……世話をかけました、スァーギタさん、ただ、シバかないから」
何いい話みたいにしているのだ、しかし……死ねなくなってしまったか。死んで男に唇奪われるとか最悪だからな。僕は一時、素を晒したスァーギタさんに頭を下げて、ラヴィアンから出て行くのだった。
外に出た僕を、ヴァルスが、ルーナが、そしてエニー、エンディが出迎えた。
「やーご主人様」
「ヴァルス、今日の宿は一人別室な?」
「そんな!?理不尽すぎないかしら!」
早速ヴァルスが、僕をご主人様などと呼んだので今夜は一人別室を言い渡した。僕は皆に、これだけ伝えておこうとは思った。
「あの、僕は君らのご主人ではないから、様とかつけないで、君と、僕らは対等……主従ではない、リディアンももう消えた、あの夜は夢でした、OK?」
「おっけい!」
「ほぐう」
ヴァルスが恨みがましくボディを放ち、僕はタタラを踏んだ、うん、主従無いから仕返しもありだ、やっぱこいつ元魔王側近なだけあるわ、後引くなこれ。
「さ、さて、けほっ……次の街へ向かうわけど……その前にやらなきゃいけない事が……」
「リデさん、大丈夫ですか?もうグロッキーですけど」
ルーナが慌てて僕の横に屈んで、わざわざ治癒魔法までかけてくれた。それで僕は持ち直し、息を整えて皆に言い放った。
「う、うんルーナ……まぁ、こう集まったからさ、次の街の子を迎える前にね……皆で一つ……討伐任務で力を試すべきかと」
「討伐任務……冒険者ギルドのですか?」
「ていうか、リデさん冒険者資格持ってるんですか?」
エニーとエンディは二人見合わせ、僕に資格があるのかと尋ねると、僕は頷いた。
「アルシャの騎士は冒険者ギルド内では銀級扱いで、任務が取れる……一応僕や勇者も、路銀集めで受けた事もあるからさ」




