再犯現場
見上げた先の2階のベランダに、ヒルカが居た。仮面で視界が悪いとはいえ、しっかり見えている。右手にて貫いた護衛から剣を抜き去り、一振りして血を払った。
玄関にゆっくり歩み寄り、早速両開きのドアに蹴りを入れてやれば、その光景に目を疑った。打ち捨てられて、光を失った女達が居た。
普通の女も居た、そして……エルフも居た。ドレスを破られた女も居た。
「誰彼構わずか……金とは恐ろしい」
反省もしてないらしい、後に続いてきたヴァルスも閉口してしまった。
「誰だテメェらぁ!」
「やる気かぁ!」
そんな宴を邪魔されて激昂したのか、件のヒルカの飲み仲間達が、頼りない店売りのナイフやら棍棒を持ち出して現れる。
「左」
「わかった」
ヴァルスに一言だけ言って、僕は右の棍棒持ちに詰め寄り、思い切り身体を叩きつけた。
「が!ぉあぁ」
そしてそのまま、心の臓がある胸元に剣を刺し、捻って抜き去った。
「おあーー」
気を取られたナイフ持ちの首が飛ぶ、ヴァルスの魔剣が振られたのだ。
「お見事、そっちお願い」
「分かったわ」
首から吹き出す血が、別荘の天井を濡らし、近場の部屋を指差し、僕も違う部屋に入る。
リビングだったらしい、そこでも酷い有様だった。散乱する酒瓶に、机に盛られた粉末やら液体やら……違法薬物まで使っていた。
「あ?なに、何だよお前」
そしてそんな中、判断力をうしなって呆けながら腰振っている輩が居たので、そのまま近づいて、首に刃を当てて横に滑らせた。
ビン!と身体を硬直させ、机を支えにしていたドレスの美女から離れる。ドレスの美女もまた崩れ落ちたが、どこを見ているかも分からない眼差しで、床に倒れた。
「テメェこらぁ!」
「死ねやぁあ!」
怒声が響いた先に、マスケット銃を構えた男が二人いた。銃声が響く前に、首を切った男を盾にして銃弾を防ぐ。
一発が盾に当たる、一発は全く違う場所に飛んで行ったので、そのまま盾を蹴り飛ばして接近し、二人まとめて腹を横なぎに切り裂いた。
腹から流れ出す臓腑を押さえる様に、頭を蹴り飛ばして、僕はリビングを見回す。酷い有様だ、酒に違法薬物に、そして……女。欲望の坩堝かここは。
僕がリビングを出て行くと、他の部屋からヴァルスが出てきた。彼女はチノパンに開襟シャツのままだった。
「上ね、行きましょうか?」
彼女の言葉に頷いて、階段を上がると、また参加していたらしい男が、棍棒を振り上げて降りてきた。
「死ねやぁああ!」
振り下ろされる前に駆け上がって、胸板を貫く。引き抜いて背中を押してやれば、階段を転がり落ちていった。
あと何人か、ヒルカはどこだ。
僕は階段を上り切り、二階に上がる。
そして見つけた、ヒルカが逃げようとしたのか、逃げ遅れたのか、こちらを見て顔面蒼白で部屋に入った。
ゆっくりと、その部屋に向かって歩き出し、開かれたままの扉に入れば、一際大きな間取りだった。そして見つけてしまう。透き通る白肌に、金色の髪、重力に押し潰れた乳房のエルフの女が、裸体でベッドに寝転がっていた。
ルーナだ、もうこの時点で……怒りを通り越して体は冷たくなっていた。
「ひぃぃ!なんだよお前!金か!ヤクか!?誰の屋敷と分かって強盗に来てんだよ!!」
ヒルカが離れた場所から、ピストルを突きつけて怯えながら叫ぶ。僕は……ヒルカに向き直り仮面を外した。
「金でも、ヤクでも、女でもねえよ……テメェか?リースタットのエルフ攫ったのは?」
「ひぃい!」
引き金が引かれた、しかし、銃弾は僕に当たらなかった。その前に、既に銃を持つ手を切り落としたからだ。やかましい音が響くも、弾は窓に向かったらしい、銃弾に対してなんとも弱い割れる音と、ごとりと音を立てて手が落ちた。
「ぁあぁあああ!?」
「答えろ!!」
「がぁあ!?」
そのまま蹴り倒して、右肩に剣を突き立てて、僕は尋問を開始した。リースタット集落を襲ったのはお前か、どうなんだと。
「わ、わた、私です、私が……顔馴染みの奴隷商に金を渡して、それで」
「その奴隷商の名はぁ!?誰にやらせた!誰が協力したぁ!!」
肩の剣を捻り痛みを与える、全て、全て吐かせるために。
「あぁあいだぃいいだぃいい!!ド、ドン・ザルバトーレ!!この辺で一の奴隷商仕切ってる!!売り上げを山分けするつもりだったんです!!ぁああ」
「そうか……他のエルフは!」
「ざ、ザルバトーレが所有している!この屋敷の数人は俺たちが楽しむために……」
もう遅かったのか、まだ間に合ったのか、ルーナと、ヤク漬けにされたエルフだけがこの屋敷に残っていて、それだけだと聞いた。
ドン・ザルバトーレ……各地の裏社会に名前を轟かす大悪党。話に聞けば連合政府と繋がりがある、魔族よりもドス黒かろう輩。
僕はヒルカの肩から剣を抜いた、安堵を込めたヒルカに対し、そのまま胸元へ思い切り剣を突き立てた。
「あがぁええ……なんな……んだよ、エルフの……畜生だ……ぞ……好きにして……いいじゃ、ねえか」
「リースタットのエルフは、勇者が助けたエルフ達だ……テメェら終わりだ、勇者の絨毯に泥ぶちまけやがって……ザルバトーレも殺してやる……先にあの世に行っとけや」
必死に両腕を動かしもがいて、真実を知ったヒルカは、絶望とともに事切れたのだった。




