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元勇者パーティと元魔王配下

 我が故郷にして、勇者の旅始まりの地、聖都ダールナンまで、ひたすらひたすら北上。それが帰り道、つまりは勇者の旅路は、ひたすらひたすら南下の旅路だったわけだ。


 さて、今僕がいる街は、魔族支配の領地『魔界』の境界線近くの町リスティア。


 無論、そんな物騒な町だから、聖都からの監視や配属された兵士、騎士もいる。最前線というわけだ。


 つい3日前ここを拠点にして魔界に第一次侵攻し、早速魔族と鎬を削っていたのが懐かしい。


 魔族は本当に強かった、そして誇り高かったなとしみじみ思う。気を抜けない剣技の冴えは、よくあの場で自分が生きていたなと思い出して身震いした。


 さて、早速帰る前に一つ腹ごしらえをしようかと、何か無いか探す。街中では屋台が出ているから、食いっぱぐれは無い。


 そして見つけた、気のいいおじさんが、ナイフを走らせ、切り刻んだ何かをパンで挟み、そこにレモンを絞り上げている。


「臓物サンドか、あれにするか」


 臓物サンド、別名『奴隷サンド』


 肉を与えて貰えなかった奴隷達が、廃棄の内臓を食べる為に編み出された調理法だ。屠殺したばかりの家畜から取れる、新鮮な臓物を下処理し、煮込んだものを切り刻み、これでもかと盛り付け、そこにレモンを絞り挟んで食べる。


 主に、牛の4番目の腸が使われるが、竜やら豚やらも使う事もある。だが、一番美味いのは牛だろう。


「一つください」


「はーい」


 持たされた路銀から幾らか出して、店主のおじさんは鍋から煮込まれた臓物をまな板に取り出し、ナイフで切り刻む。


 それをパンに乗せ、脂っこい煮汁を絞り取って、レモンを直絞りし、パンを乗せて紙にくるんで渡して来た。


 じゃあ席で食べるかと、周囲を見渡したがまぁ座れない、空いてない。


 食べ歩きもいいかなと、屋台から遠ざかろうとすると。


「リデ、ここが空いてるよ」


 僕の名前を、誰かが呼んだのだ。


 誰だ、勇者ジン達ではないのは確かだった。


 そして見つけて……驚いた。


「な!?お前は……ヴァルーー」


「しぃー」


 その女は褐色肌に開襟シャツで谷間を晒し、足を組み、テーブルにワインと、臓物サンドを置いて僕を見上げ、人差し指をたてて、静かにと命じた。


「もう戦う気もない、そなたに負けたからな」


 そう言って、彼女はテーブルを指で軽く数度叩いた。


「席、空いてるぞ」


 彼女はつまり、対面の席に座れと僕に言うのだった。




 魔剣士ヴァルス、つい3日前、魔界の最前線にて僕達勇者一行と死闘を演じた、魔族の女剣士。その実力は、魔王配下の中でも2番目か3番目の実力を有していた剣士だ。


 なお、何故2番目か3番目か実力を断定できないのかというと……もう一人の実力者が、調子の良し悪しで凄く実力が変わるのが理由である。


 そんな死闘を演じたヴァルスが、人間側の領地で、ワインと飯を楽しんでいた。というか……。


「頑丈なんだな魔族、心臓刺したよな?」


「あれでは死なないわ、しかし……敗北したから魔王配下を辞めたの」


「え?」


 臓物サンドをかぶりつくヴァルスに、ぽかんとしてリデは目を向けた。口から垂れる汁気を指で拭い、ワインを飲む、これが臓物サンドの正しい食べ方。


 僕は未成年だからできないが。


「そういうキミは?そろそろ侵攻するのではないのか?」


「クビになりまして、勇者一行」


「え!?」


「え?」


「いや何で!?なにがあったのよこの三日間!!」


「いや、僕こそそっちが魔王配下辞めたのびっくりなんですけど」


 お互い、予想外だったらしい。そして、お互い無職となっているみたいだ。


「まぁ……納得しての離脱ですから、勇者一行に闇騎士なんて要らないし、もう必要無かったのも事実で……」


「そんなわけないでしょう……貴方無しだったら私が勇者達に勝ってたわ、見なさいなほら、傷ついちゃったんだから」


 そう言ってヴァルスがシャツをさらに広げてきた、谷間の先に傷跡が確かに見えたが、それよりも僕は赤面して横を向いた。


「大衆の面前でそんな事しないの」


「そう、じゃあ勇者ジン達は今3人なのね、貴方はどうするのリデ?」


「やる事も無いので、聖都の故郷に帰って……畑仕事でもしようかと」


「勇者一行なのに?」


「元ですよ、もうそんな肩書き、役に立ちませんから」


 そう言って臓物サンドを齧り付いた。本当に、今はもう勇者一行ではないんだよなぁと、少しばかりしみじみする。


 いつかはこうなると思っていたが、今日この日だったのかと、咀嚼しながら理解する。


「ごちそうさま、じゃあ、これで」


 そうヴァルスに言って椅子から立ち上がる、さぁ、もうこの町に用は無い。さっさと故郷まで歩くとしようと、僕はリスティアの門まで向かう事にした。


「ねぇ、私もついて行っていい?」


 そしたら何故か、元魔王配下の女剣士が、僕にそう呟いたのだった。

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