奴隷オークションと、狂った金持ち 下
生まれ持って金のある家に生まれたやつ。
必死に働いて成功して、富を手に入れたやつ。
悪事を働いて、財を奪ってきたやつ。
そうして手に入れた金を、どうするか?
聖人よろしく教会にお布施?
高いディナーに舌鼓?
高級娼婦を貸し切り、身請け?
そんな物は、とうに飽きた。
もっと楽しいことをしよう。
金で揉み消せる危なくて、スリリングで、背徳的な事。金さえ払えば、輝きに目をくらませ見やしない。神様だって金貨袋で殴って靴を舐めさせられる。
そんな所業が、あの扉一枚先で繰り広げられていた。
泣き叫ぶ女が必死に檻を揺らし、その中にはオークが息を荒げて、助けを叫び。
逆さ吊りにされて水に落とされては引き上げられてを繰り返される女も居た。
ウェイトレスの女達は皆素肌を晒し、仮面をつけ、そしてリストとやらに刻まれたVIPたちは、綺麗かテーブルクロスをかけられた席で、酒を楽しんでいる。
それだけで、一区画だった。まだ、奥に見えた。
見えてしまったし、聞いてしまった。
「さぁー!さぁー!今日も出しますよ!!エルフの女達!!嬲ってよし、犯してよしの玩具に最適!!打ち捨てても亜人だから犯罪にならない!しかも!まだまだ生娘!3日前につれてきたばかりだ!!金貨100枚から!!」
ここであった、そうであった。なんてことだと、リデは仮面の下で歯を軋ませた。
「リデ……今は駄目、違う」
「あぁ、分かっちゃいるが……」
やってくれたな、やってくれたなぁ。僕はヴァルスが腕を組む力を強めてくれなければ、構わず暴れていた。
こいつら、あのオークに劣る畜生であった。だが、今はまだ駄目だ、体勢を立て直す必要がある。どう言った経緯で、ここにエルフが流れてきたのか、それを調べ上げて摘発せねばならない!
「出るぞ」
来てすぐに退出で、怪しまれるのは分かっていたが、見るに堪えない。すぐにでも、今すぐにでも調べ上げて、こいつらを全員ブタ箱行きにせねばならない!
そう思って扉に向かう中だった。
「あら見て、ヒルカ様よ?わはっ、最高に決まってない?」
「悪趣味だけど笑えるなぁ、なんでもオークがやる雌鎧だとさ」
仮面の夫妻が指差して指差した先、件のヒルカが居ると言う。その先を見て……絶句してしまった。
ケタケタ笑う金髪、おそらくそいつがヒルカだろう。ヒルカの左右に陣取り酒を片手に笑うのは、商会連合の跡取りだろう。
そいつらが全員、エルフの女を、逆さまに身体へ括り付けていたのだ。
薄着の服に、スカートは捲れ上がり、下着を晒され、拘束具に足を真横に広げられていて、その下着は最早動けば見えてしまう面積……オークが所業『雌鎧』を真似て、辱めていたのだ。
しかも……そのヒルカが抱えていた女は……間違いなく……。
「ルーぐぅう!?」
名前を叫びそうになり、腹に衝撃を受け、僕は意識を手放した。
『辛いのは分かる、けど、どうしようもなかった……アンタを助けた最愛の人は、帰っては来ない……慰めたところで虚しくなるだけだし、後々後悔するのは、ルーナ、キミだ』
それは、エルフとオークを迎え撃つと決めた夜、彼女は僕の膝を濡らして泣いていた。
ルーナの夫は、僕たちがリースタットに来る前に、オークとの戦いで命を落とした。同胞達を、女達を守るため、殿となり戦い続けた。幼なじみで、ずっと一緒だったと彼女は言う。
沈んでいた彼女と、幾度と会話して、話を聞いていたら、耐えきれなくなって彼女は泣いてしまった。
オークとの対峙までの間、心配になってしまった僕は……距離を詰めてしまった。悪い癖だ、女の涙に弱いのだ。
これ以上踏み込むなと言い聞かせた自分と、陰鬱な彼女を秤にかけ、悩み抜いて距離を離そうとしたその時には、部屋に連れられ泣かれてしまった。
慰めを乞われてしまったその時には手遅れで、僕は妥当句を口にして……それでもと彼女は言うので……。
「へー、未練たらたらじゃないの、勇者の毒刃さん」
「幻滅したなら丁度いいや、君のダーリン最悪最低のクソ野郎だから、魔界に帰っていいぞ」
夜のホテル、腹を押さえて横たわる僕に、ベッドで座るヴァルスがニヤニヤ笑って僕を見下ろしていた。あの後、あの刹那、僕にボディブローを放ち気絶させてホテルへ運んだのだと言う。
起きた僕にヴァルスが、ルーナ、僕が関係を持ったエルフの女性との馴れ初めを聞いてきて……ヤケを抱えながら僕は話したのだ。
「まさかぁ、あの勇者の毒刃様が恋慕と人情の塊なんて面白いわ……あぁ、だから貴方、あんなに私を愛してくれたの?お遊びだとか言いながら?」
顔を見れなくなった僕は、寝返りを打つ。そうしたらヴァルスが、背中にぴたりとくっついて、手を回してきた。
「最初は……手段の一つだった……拷問より楽で、その気にさせれば、何だって女は言う事聞いたし、情報を吐かせれた」
「ふぅん?」
「けど、知らん内に……抱きしめて感謝してくる女も出てきた、涙を流して感謝する奴も居た……そうしていたら、馬鹿みたいに楽しんでる自分まで出てきた」
「それで?」
「そしたら、暖かくて仕方なくなって、放っておけない自分まで出てきた」
馬鹿な話だった、手段がいつの間にか、自分自身の温もりを欲して、その手段になっていたのだと、ヴァルスに吐き散らしていた。




