奴隷オークションと、狂った金持ち 上
と言うわけで、僕もしっかり正装する事になったわけだが……ヴァルス本当にお金持ってやがった。どこもかしこも路銀が消し飛ぶ服ばかりで『仕方ないわね』と勝ち誇った様に金貨袋をこの女は取り出したのである。
最悪だ、一気にヒモになってしまった。必ず、どこかで稼いで返さないと面子がやばい。
しかし……正装たるタキシードに身を包んでみれば、それこそ聖都にて騎士として勤務していた時代、式典で来ていた事を思い出した。もうクローゼットで埃被ってるだろうなと思い出しながら、僕はドレスのヴァルスと腕を組み、夜になりつつあるデルシの街を歩く。
昼間と違い、華美な服に身を包む貴婦人、令嬢、子息が喧しく騒ぎ始めている。どちらの国の貴族やらと思いながら、僕はエルフ達を探した。
それで居ないなら、また違う街に避難したか集落を変えたと思いたい。しかし、思い当たる節に変態子息のヒルカが居たのだ、心配でならない。
「ヴァルス……例えばなんだけど、聖水の時みたいな探知はできないのか?」
「無理ねえ、魔族の闇の魔力やら、僧侶の浄化は感じれるけど、エルフは4元素だから専門外」
聖水の時の探知も期待できない、流石にそこまで都合は良く無いかと、僕はそうかすまないと謝り、どこから探すかと歩き続ける。
と、ここで僕は煌びやかな建物の前を通った。それに目を移せば、それはカジノであった。ただ、そのカジノ……店名が気になったのだ。
「ヒルカユニコーンプラザ?」
店名を読みながら、一角獣たるユニコーンの看板が掲げられている。貴族なのにカジノ経営でもしているのか、こいつは。
「ここ、入ってみる?」
ヴァルスが気になるなら入ってみるかと言うので、頷いて、僕はこのカジノへ入る為階段を上った。
カジノに入った事は……僕はある、勇者達は無い。旅路の路銀が足りない時や、少しばかり小遣いが必要になったらカードで稼いだ時もあった。3人が寝静まってから抜け出して行ったものだ。
ルーレットに、スロットマシン……カードゲーム……バカラ、大小もあるか。
「どう、そんな気配はある?」
気になるところは無い、取り越し苦労かと思っていると、視界の端でそれは起こった。ある貴婦人と紳士が、スタッフに案内されて奥に通されていたのだ。
VIPルームか?覗けるだろうかと、僕はヴァルスに首を動かし、奥の扉に、自然を装い向かった。
「失礼、お客様……こちらリストにある方しか通せません」
まぁ、無理だろうな。すっとスマートかつにこやかに、スタッフが扉の前に立ち、遮られた。が……それで引き下がるわけにも行かない、僕はスタッフに対して笑顔を向けた。
「ああ、そうなんですね……そのリストに名前を乗せてもらうには如何すればいいのかな?」
リストに乗るには?尋ねて答えないわけはないだろう。
「リストに乗るには、ヒルカ様の紹介が必要でございます、もしくはヒルカ様擁する、リキュールメンバー様の紹介が必要になりますね」
成る程、メンバーのVIP紹介制ラウンジと来たか……リキュールメンバーとやらが、つまりは商会連合の子息だろうなと当て嵌めてみる。
さて、なら交渉してみるか。
「そっか、しかしこれも何かの縁だなキミ、例えば……メンバーの権利を金で代用はできないかい?」
金の話をしてみる、こいつがヒルカの腹心か余程できた輩なら通さないだろう、それはできないと。
「代用……とは?」
スタッフの足が少しだけ動いた、ぶれたなこいつ。僕はヴァルスのお尻を触った。こちらを見るヴァルスが察したのか、僕のタキシードのポケットにいきなり重みができた。
「お近づきの印だ、とっておきたまえ、これでいかがかな?」
見えない様に、ポケットから革袋をスタッフに見せて紐を解く。マジで金貨だった、ていうか、よく分かったなヴァルス、そう思いながらもスタッフに目を移せば、羊皮紙を広げて顎に手を当てる。
「あー、すいません、リストの方でしたか、お名前は?」
「リンダスだ、アルシャで会社をしている」
「ヴィヴィア、彼の彼女よ」
話がわかるやつだった。無論偽名を使っておく。
「どうぞこちらへ、リンダス様、ヴィヴィア様、入りましたら仮面を貸し出しますので必ず着用してください」
そうして、僕らは奥に通された。扉の奥は暗く、別のスタッフが仮面を被り、頭を下げる。
「こちらをどうぞ」
渡された仮面を被り、さらに奥の扉を開けられた。
「どうぞ、お楽しみを」
そうして踏み入った先で……僕とヴァルスは、金に狂った輩達の狂宴を目の当たりにしたのだった。




