デルシの街
光に目の前が染まり、足が地面を掴んだ。質感は土では無く、石畳だと分かる。左右に目を配れば、どうやら建物と建物の間の路地裏らしい。
「デルシについたわよ、間違いないわ」
その言葉を僕は信じる事にした。さて、早速手掛かりを探さねばなるまい。
クーラント領、デルシの街。ジャン子爵の管理する領地であり、華やかなる様相を見せる文化的な街だ。そして……夜も一際華やかで混沌としている。
会員制のバー、貴族御用達ブティック、劇場、娼館、カジノ……夕日が沈めばこのデルシにはいくつもの馬車が止まり、朝まで騒ぎが消える事は無い。
僕と勇者達の旅路で、ここには行かなかった。エドは娼館の話を聞いて少し興味があった為か、残念がっていたのを思い出す。
そして、そんな煌びやかさを捲れば、恐ろしい犯罪と、見たものを食い殺す獣が生息している町、と言うわけだ。
「手当たり次第は気取られるし、どうするか……」
だが、流石に街行く人間に『エルフ見なかった?』なんて聞けない。まぁ、わざとそうして誘き寄せて返り討ちにして吐かせる手もあるが、できれば自分の存在を知覚されない様にしたいところだ。
いざ最後に追い詰めて逃げられたら、目も当てられない。慎重な行動が必要だと、自分に言い聞かせた。
とりあえずまずは路地から出て街路を歩くかと歩き出せば、ヴァルスはやはり腕を絡ませて来た。
「恋人同士のフリした方が自然じゃない?」
「否定できないのが腹ただしい」
観光に来た恋人同士という体で、来た事無いデルシの街を歩き始めた。そもそもやっと昼になったあたりだ、夜が賑やかなこの街は人が疎らであった。
しかし、まぁ見てみればいかがわしい店から、目を見張る高級店まで揃っている。ジャン子爵主導の商業連合の抱え込みがこの街並みを作ったのかもしれない。
税も取れて、商業は活性化して連合に入り、儲かりまくるわけなのだろう。癒着なんてそれはもうギトギトに張り付いて取れないくらいかもしれない。
歩いて街並みを見て見たが、混沌とした本来の姿は見えない。やはり夕方を待つしか無いのか……僕はため息を吐いてヴァルスに言った。
「とりあえず、拠点の宿を取ろう、そこから夕方まで待って調査だ」
「そう、ホテルね?寝床は大事よね?」
蘭々とヴァルスが目を輝かせれば、僕はあのなとヴァルスに忠告した。
「夕方から行動するから、体力は残さなきゃダメだからな?」
「分かってる分かってる、ゆっくりと楽しみましょうよ」
「この淫乱が」
「あ、今の冷たい声と眼差しいいかも」
「こんな場所で言うな」
もうこの人は駄目かもしれん、僕はそう思いながらも宿を探すのだった。
ーーーーで。
「結局こうなったわけだ……あぁ、全く」
ベッドに座して僕は頭を抱えた。シャワールームから聞こえる水の音に、床やらに散乱した自分の服。夕方までずっと、そうなったのだ。馬鹿みたいだ。
そして逆に身体は疲労より、リラックスと暖かさに包まれているのが腹が立ってしまう。
ガチャリと扉が開き、ヴァルスがバスタオルで体を隠して湯気立つ褐色肌で僕の横に座った。
「またシーツ代かかるね、本当にもう、癖ついちゃって止まらないじゃない」
「悪かったよ……」
「なら責任取って邪険にしないで」
クスクス笑ってヴァルスがはらりとバスタオルを落とし、そして裸体の背中を晒すが……体表から浮き出た一部が、服を作り出す。
ロングスリットのパーティドレス、正しくよそ行きに相応しい。
「さぁ、貴方のも服を買って手掛かりを探しに行きましょう」
「あ……だよな、あれは駄目だわな、すまん」
いつも来ている粗野な服に今更そうだと気付いて、僕はやってしまったと頭を抱えた。




